人の想いを乗せて、今日も私達は戦っています。

私達が私達であるように・・・

思い出を無くさないために・・・

私達の戦争は、まだ続きます・・・

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ 

〜ルリちゃん宴会日誌!?〜

 

 

 

 

 

木星蜥蜴の正体が同じ人間と分かってから何日かたち

ナデシコの混乱も、ようやく落ち着きを取り戻してます。

艦長は平静を装っていますが、心ここにあらず・・・と言うより

テンカワさんの事を考えているようです。

ミナトさんも少し様子が変です。ゴートさんと喧嘩してたけど

ひょっとして別れたのかも知れません。

その他は、いつもと変わらない様子です。

こんな人達がナデシコを動かしてます。

実際にはオモイカネとそれをオペレートする私がいるから動くんですけどね。

そんなこんなで、今日も連合宇宙軍にこき使われてます。

「正面の敵にグラビティブラスト発射!」

「了解。グラビティブラスト発射します。」

艦長の命令に復唱し、私はグラビティブラストを発射します。

光の束が収まると、あれだけいた敵が一瞬のうちに蒸発しています。

「エステバリス隊は残敵を掃討しつつ帰還。この空域を離脱します。」

艦長はそう言うと戦闘配置を解くようにメグミさんに通達すると

メグミさんがそれに従い、アナウンスしています。

やがて、エステバリス隊が次々と帰還してきました。

赤くカラーリングされたリョーコさんのエステバリスを先頭に

5機のエステバリスが帰ってきました。

「アキト!怪我は無い?」

『どわぁ!ユリカ!いきなり通信を繋げるなって!』

いつも通りのやり取りです。

ホント、11歳の少女が見てもガキっぽいです。

テンカワさんは、私が先日ピースランドに行ったとき

一緒に付いて来てくれました。お姫様にはナイトがつき物ですと言ったら

嫌な顔一つしないで一緒に来てくれました。

テンカワさんって不思議な人です。

今だって、艦長と口げんかしてますし、その様子を見たエリナさんが

目くじら立ててますし、コミュニケの向こう側では

リョーコさんが赤い顔をしてテンカワさんの事を見てますし・・・

とりあえず、艦長達の騒ぎを無視して私は仕事を続けます。

戦闘記録を宇宙軍に提出して、艦の損害チェック、使用したミサイルの合計・・・

ホント、艦長なんだからこの程度の事くらいは、自分でやってほしいです。

そう思っていたら、ブリッジにプロスさんがやってきました。

ちょび髭に蝶ネクタイと怪しさ大爆発ですが、補給面や艦内全般の流通を一手に引き受けている人です。

時々、悪人と思ってしまいますが私たちの事を考えてくれている人です。

「みなさん、お疲れ様です。これよりナデシコは補給のためネルガルのクレドックに向かいます。」

「え?サセボじゃないんですか?」

艦長が質問します。確かに、ナデシコはサセボドックで最終調整を行っていましたから

補給面も当然サセボかネルガル本社近くのヨコスカだと思っていましたが・・・

「それが・・・今回はネルガルから皆さんへのご褒美として

湯布院温泉慰安旅行を計画しております。」

「・・・秘密がバレちゃったから口止めのつもりですか?」

私がそう言うと皆さん黙ってしまいました。

秘密とは木星蜥蜴が実は私達と同じ人間だったと言うものです。

「いえ、子供の言うことですからお構いなく。」

「と、とにかく宿はもうとってあります。

温泉に入って飲んで食べて・・・もちろん、費用はネルガルもちです。はい。」

プロスさんは、汗を拭きながら言います。

タダと聞いた皆さんは大喜びです。

「・・・買収成功?」

そんな疑問に答えてくれる人は、もちろん誰もいませんでした。

 

 

 

 

 

湯布院温泉・・・

季節ごとに優美な風景を描く湯布院は湯の里として知られている。

温泉以外にも、金鱗湖や挟霧台などの湯布院を代表する観光スポットもあり、

楽しみは豊富。町内に点在する美術館やアートギャラリーめぐり、

旅情緒たっぷりの観光辻馬車なども体験してみたい。

また、男池・白水鉱泉がある庄内町は、名水の町として知られる。

・・・オモイカネのライブラリにはこんな事が書かれてました。

艦長達は今から楽しみにしているみたいです。

「ルリルリ、温泉行った事あるの?」

ミナトさんが私に尋ねます。

「いえ・・・温泉・・・初めてなんですよね。」

私は、基本的にお風呂は好きです。

ナデシコにも大きなお風呂がありますし、

ミナトさん達と一緒にお風呂に入るのは嫌いじゃありません。

「良いわよ〜、温泉って。」

「はぁ・・・」

私はあいまいな返事をします。

ネルガルは日本系企業なので慰安旅行も温泉も理解は出来ますが

この浮かれようは、チョッと異常です。

普段は目くじら立ててるエリナさんまでご機嫌みたいです。

戦争やってる人達だからこそ、人間的な温かみを求めてるのかな?

 

 

 

こうして、私達はクレに寄港した後、そのままネルガルが用意した客船で

ベップまで行きました。考えてみれば船に乗るのだって初めてな気がします。

ほら、普段はナデシコという戦艦にのったりしてるんで

ぶっとばしちゃえば、クレからベップなんてあっという間じゃないですか。

でも、船の旅というのも中々いいものです。

デッキに出ると潮風が気持ち良いです。

「う〜ぅん!気持ちいい〜!」

ミナトさんが隣で背伸びしてます。

「ネルガルも良いとこあるじゃない。

船の旅なんて粋なことしちゃって。」

「そうですね。」

ミナトさんと二人でおしゃべりをしました。

といっても、私はしゃべるのがあんまり得意じゃありませんから

ミナトさんが一方的にしゃべってるんですけどね。

「こんな事してると、戦争なんて忘れちゃいそうね。」

「ええ・・・ホントに・・・」

オモイカネが言ってました。

あの忘れえぬ日々・・・その為に今を生きている・・・

こうした出来事も思い出の一つですね。

 

 

 

湯布院に到着しました。

私達が泊まる宿は『ゆふいん亭』です。

ナデシコに乗ってる人のほとんどが参加しているため

宿はバラバラです。『ゆふいん亭』はブリッジ要員と

パイロット組、整備班の一部・・・つまり、ウリバタケさんが泊まるようです。

私はミナトさんと相部屋なので、ミナトさんと一緒に部屋へ入りました。

「へ〜っ、中々良い部屋じゃない。」

確かに、二人で泊まるにはかなり広いです。

「ルリルリ、内風呂もあるわよ。」

風呂場には大理石でしょうか、結構大きなお風呂が備え付けられてます。

外の景色も見えるようになっていて、山の景色がとてもきれいです。

『ミナトさん、ルリちゃん、露天風呂に行きましょうよ。』

メグミさんがコミュニケで通信を入れます。

「おっけー。ルリルリ、露天風呂だって。」

ミナトさんがはしゃいでいます。

私達は温泉セット(ミナトさん推奨)を持って、メグミさんと合流します。

露天風呂の入り口には、艦長たちも来ていました。

「ミナトさん、遅い〜。」

「ごっめ〜ん。」

ユリカさんがミナトさんに言います。

「さ、入るわよ。」

エリナさん・・・ネルガルの人だからクレに残って仕事があるんじゃないのですか?

現に、プロスさんとゴートさんなど、ネルガル関係者は居残り組みです。

エリナさんの名目は、慰安旅行の責任者になってるみたいですけど・・・

そんな疑問も、温泉を見るなり吹き飛んじゃいました。

ナデシコに備え付けられているお風呂も大きいのですが

露天風呂は格別なものがあります。

空が見えるのと、木々のざわめき、風の音が聞こえます。

これなら、エリナさんがわざわざ慰安旅行に参加した気持ちもわかります。

「う〜ん、やっぱ良いわ〜。」

ミナトさんに連れられて温泉に入ります。

隣のほうで、テンカワさん達の声も聞こえます。

どうやら壁の向こうは男性用みたいです。

「あ、アキトがいるの〜?」

ユリカさんが叫んでいます。

『ユリカ!?」

「ねぇ、こっちに来ない?」

『ば、バカ!』

「おい、艦長・・・そりゃまずいんじゃないのか?」

リョーコさんが真っ赤な顔で言ってます。

「え〜っ、でも小さいときは一緒にお風呂入ってたよね〜。」

『子供ん時の話だろうが!』

テンカワさんの慌てたような声が聞こえます。

多分、テンカワさんは真っ赤になってるんでしょうね。

ウリバタケさんやアカツキさんの声も聞こえますから

二人にからかわれて、アオイさんの声が聞こえないところをみると

テンカワさんでも睨んでいるのかな?

「う〜ん・・・」

ミナトさんは温泉を満喫してるようです。

「ねぇ、ルリルリ・・・寝る前にもう一度入りに来ようか。」

そんなに温泉に入ると、体がふやけちゃいそうですけど

こんなに素敵な所なら、それもアリですね。

「はい。」

短くそう言うと、私も体を伸ばしてリラックスしました。

相変わらず、艦長とリョーコさん、エリナさんの言い合いが続いていました。

 

 

 

「うわぁ!すっご〜い!」

ヒカルさんが目をキラキラさせています。

食事のため、大広間にやって来た私達を待っていたのは

豪華な食事でした。

でも、普段ホウメイさんの料理を食べてる私達が

いまさら、他の人の料理なんて、美味しいと思えるのでしょうか?

この前、テンカワさんと行ったピースランドのピザ屋は

とてもこの世のモノとは思えませんでしたから・・・

とりあえず私達は席に着きます。

ネルガル・・・と言うよりプロスさんの配慮ですかね?

すでに席順が決められてました。

テンカワさんの隣に座るのはどちらかで

密かに争っていたユリカさんは、一番上座でエリナさんが隣にいます。

リョーコさんの両隣は、ヒカルさんとイズミさんのパイロット三人娘。

アカツキさんの隣にはメグミさんとアオイさん。

ウリバタケさんは、更衣室に覗き用のカメラを設置していたことがバレて

一人寂しく反省中。離れたところに席を移され、足枷をはめられてます。

あ、額に『反省中』の札がかかっています。

トイレに行く時はどうするんでしょう?

本当は整備班長で一番年上ですから、

ユリカさんの隣だったみたいですけど・・・

自業自得でしょう。

で、肝心のテンカワさんは・・・両隣にミナトさんと私が座るようになりました。

「ま、無難な配置ね。」

「そ、そうッスね。」

そうこうしている内に、飲み物が運ばれてきました。

ミナトさん達大人はお酒です。

未成年組みはジュースが運ばれてきました。

あ、一応テンカワさんは未成年だからジュースみたいですね。

「じゃ、みんな飲み物は持った?良い、これはあくまでも

ネルガルからの感謝と言うことですからね。」

「エリナ君、長い話は良いから早く食べようよ。」

エリナさんの話が長くなりそうだったのですが

アカツキさんが制しました。

「はいはい、じゃかんぱ〜い!」

エリナさんがグラスを大きく掲げます。

「「「「かんぱ〜い」」」」

「・・・かんぱい」

お酒を飲むときってどうしてこんな事するんでしょうか?

大人になれば分かるんでしょうか?

そんな疑問を抱えつつも、私は目の前に出された料理を口に入れます。

「・・・おいしい・・・」

本格的な和風会席料理です。

「うまいな、これ。」

テンカワさんも隣で言います。

ホウメイさんや、テンカワさんの料理を食べている所為でしょうか

最近は、あれほど食べてたジャンクフードが、不味いと感じます。

テンカワさんが言ってた、料理の温かみってものが感じられないんです。

ホウメイさん達が作る料理は、私たちの事を考えて作ってくれてます。

だから、ピースランドのピザ屋では、あんな事になっちゃいましたから・・・

テンカワさんの横顔をチラリと見ます。

テンカワさんはミナトさんにお酌してますが、

頬のあたりに、あの時殴られた痕が残ってます。

「?どうしたの?ルリちゃん?」

ミナトさんにお酒を注ぎ、私の視線に気が付いたテンカワさんが

不思議そうに聞いてきます。

「い、いえ・・・何でもありません・・・」

私はドキリとします。最近、テンカワさんを見ると

何故かこんな気分になります。今度ミナトさんに相談してみましょうか?

「ちょっと、アキト君。ルリルリに手ぇ出すんじゃないでしょうねぇ。」

その様子を見たミナトさんがテンカワさんに詰め寄ります。

「い、いや・・・そんなんじゃ・・・ミナトさん・・・結構飲んでません?」

テンカワさんが冷や汗をかきながら言います。

「飲んでないわよ。それより、ルリルリに手ぇだすんなら、私を倒してから行きなさい!」

「え、えぇっ?」

・・・ミナトさん・・・顔が真っ赤です。

目が据わってお酒を片手にして、浴衣の前が少しはだけてます・・・

テンカワさんは、目のやり場に困っているようです。

ムギュ・・・

え?!

「そうよ、アキト!ルリちゃんに手を出すんなら私に手を出してよ!」

後ろから艦長が私を抱きしめてます。

少し苦しいです。

「ちょっと、艦長?あんた私のルリルリに何してんのよ!」

ミナトさんが私の手を引っ張ります。

「あ〜っ!ミナトさんばっかりずる〜い!

ルリちゃんは、私のものですよ〜だ!」

私、いつから艦長やミナトさんの所有物になったんでしょうか?

助けを求める人は・・・

アカツキさんはメグミさんに付き合わされてます。

メグミさんは自棄酒でしょうか?

アオイさんも当然メグミさんに付き合わされてます。

パイロット三人娘は・・・あ、お酒飲んでます・・・

この人達って未成年じゃ・・・

エリナさんは酔いつぶれてます。意外とお酒弱いんでしょうか?

ウリバタケさんは足枷のおかげで移動出来そうにありません・・・

と、言う事は・・・

私とテンカワさんの目が合います。

「・・・・」

「・・・・」

相変わらず、艦長とミナトさんは言い争っています。

「・・・ゆ、ユリカ・・・さん?」

テンカワさんは、意を決して艦長に話しかけます。

「あ、アキトだぁ・・・」

艦長は急に私の手を離してしまったので

私はミナトさんの方に倒れこんでしまいました。

「ちょっと、艦長?何するのよ!」

「良いんだぁ、アキトがいれば。」

「艦長?」

ミナトさんと艦長がにらみ合います。

一触即発って所でしょうか?

「ま、まぁミナトさんも・・・ささ、ぐいっと。」

テンカワさんはミナトさんと艦長にコップを渡すと

お酒を注ぎます。

二人は、目を合わせると、一気にコップの中のお酒を飲み干します。

そして、二人そろってテンカワさんの前にコップを突き出します。

「あ、あの〜もう少しペースってもんを・・・」

「「何?」」

「ひっ!ご、ごめんなさい」

ミナトさん達に睨まれたテンカワさんは、慌てて二人にお酒を注ぎます。

二人は、そのお酒すら一瞬で飲み干すと、再びテンカワさんの前に

コップを突き出しました。テンカワさんはあきらめたのか、

二人のコップにお酒を注ぎます。

そんなやりとりが実に15回続くと・・・

「ミナトさん・・・」

「艦長・・・」

にらみ合いが10秒間続いた後、二人そろって倒れこんじゃいました。

周りを見ると、リョーコさん達は大声で訳の分からないことを話し込んでます。

「だから〜、親父のやつに言ってやったんだよ!

俺はミミズじゃねぇってなぁ!」

「リョーコちゃんがミミズなら私カタツムリだぁ!」

「私、ナメクジィ」

・・・訳分かりません・・・

メグミさんは、アカツキさんとアオイさんがダウンしてしまったため

次のターゲットをウリバタケさんに変更しました。

メグミさんって結構お酒強いんですね・・・

「・・・この後始末って誰がやるんだろう・・・」

「そうですね。」

私とテンカワさんは、深くため息をつき

テンカワさんが旅館の仲居さんに頭を下げて

掛け布団を用意してもらい、艦長達にかけて行きました。

その頃になると、メグミさんとウリバタケさんがダウンしてましたし

リョーコさん達は、相変わらず訳のわかんない事言いながら部屋に帰っちゃいました。

酔っ払い、下手に触ると怪我の元って標語はどうかな?

「ルリちゃん、手伝ってくれてありがとう。」

「いえ、では私は部屋に帰ります。

ミナトさんを連れて帰ろうかと思ったのですが

私の力じゃ運ぶ事なんて出来ませんから

ココで寝かせておこうと思います。」

ミナトさんは艦長と仲良く寝てます。

「そだね、気持ちよく寝てるんだから起こすのも気の毒だね。」

テンカワさんはそう言うと、男性陣を部屋に連れて行こうとしてました。

いくらなんでも同じ部屋じゃユリカ達に悪いからと

優しい笑顔で言ってました。

そんなテンカワさんの優しい所って結構好きです。

私は、そんな事を考えながら部屋へと戻りました。

誰もいない部屋に一人・・・

ナデシコも一人部屋ですが、こんなに広くありません。

内風呂に入ってみようと思いましたが、ミナトさんが寝る前に

もう一度、露天風呂に入ろうと言っていたのを思い出したので

私は露天風呂へと行きました。

さすがに、夜も遅くなってたので露天風呂には誰もいません。

私は、ゆっくりと露天風呂に入ります。

地上で見る月って、どうしてこんなにきれいなのでしょうか?

普段、ナデシコから見る月ってゴツゴツした単なる衛星なんですけどね。

星空もきれいです・・・温泉の暖かさと

月の優しい光が私を包み込みます。

ミナトさん・・・私にこの風景を見せようとしてたのかな?

そうしていると、誰か入ってきました。

ミナトさんでしょうか?

私はゆっくりと人の気配がする方を見ます。

すると、タオル片手にツンツンした髪・・・

「テンカワ・・・さん?」

「う、うわぁ!ルリちゃん?

どうしてココに!」

テンカワさんは、慌てて湯船につかり、後ろを向きました。

「テンカワさんこそ、どうして女湯に?」

「お、女湯?ル、ルリちゃんこそどうして男湯に!」

ひょっとして・・・

「もしかして、時間が来ると混浴になるんじゃないですか?」

「こっ・・・混浴!?」

テンカワさんが上ずった声で聞き返します。

確かに、昼に入ったときにあった男湯と女湯を仕切る壁が

なくなっています。と、言うことは・・・

「入り口が別々でお風呂は一緒だったと言うことです。」

「ル、ルリちゃん・・・そんな冷静に言わなくても・・・

と、ともかく俺上がるから!」

テンカワさんが湯船から上がろうと立ち上がります。

「待ってください、せっかくですからゆっくりしていけば良いじゃないですか。」

おかしいです、普段だったらこんな事言えないんですけど・・・

「で、でもルリちゃん一応女性なんだから・・・」

優しい言葉です・・・でも・・・

「こんな綺麗な景色を見て行かないなんてもったいないですよ。

それに・・・私、少女ですから気にしません。」

「こっちが気にするんですけど・・・」

テンカワさんは困ってます。

「それに、チョッと寂しいかなって思ってたんです・・・

ホントはミナトさんと一緒に入るつもりだったんですけど

ミナトさん、寝ちゃいましたから。」

「・・・分かったよ、ルリちゃん。でも、あがる時は言ってね。

後ろ向いてるから。」

そう言うと、テンカワさんが湯船に入り私のほうに向き直ります。

「お湯・・・にごり湯だから良かったな。」

確かに、この温泉は白くにごってますのでハダカを見られることはありません。

だから混浴になるのかな?

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

お互い気まずい時間が流れます。

テンカワさんは出来るだけ私の方を見ないようにしています。

「・・・月・・・綺麗だな・・・」

そういったテンカワさんの横顔って何か不思議な感じがします。

「ええ、ホントに・・・テンカワさん・・・」

「何?ルリちゃん?」

「その頬の傷・・・」

「ああ、良いんだよ。俺はあの時ナイトだったんだろ?」

「でも・・・」

「今日の料理に比べたら、あのピザなんて絶対食えないって。」

テンカワさんは笑顔で言います。

「・・・そう・・・ですね・・・

でも、本当にありがとうございました。」

テンカワさんにペコリと頭を下げました。

「いいって、それに俺だってルリちゃんには結構世話になってんだし

・・・お互い様だって。」

「でも!オモイカネの時だって!」

そう、テンカワさんは何時だって私の我侭を聞いてくれました。

何時だって・・・そう考えた時、私は思わず立ち上がりました。

「ル、ルリちゃん!?」

テンカワさんの驚いた顔が見えたかと思うと、

私の意識は急に遠のきました。

テンカワさんが私を呼ぶ声が聞こえつつも・・・

 

 

 

 

次に私が気が付いたのは、脱衣所に備え付けられているソファーの上でした。

「あ、気が付いた?ルリちゃん?」

「・・・テンカワさん・・・えっと・・・」

まだ状況が理解できません。

「ルリちゃん、のぼせちゃったんだよ。」

そうです、たしか私・・・

露天風呂であった出来事を思い出し、整理していきます。

「あ、テンカワさんが私をココまで?」

そう口にした時、ある事に気が付きます。

下着・・・ちゃんとつけてます・・・

「これ・・・」

浴衣までちゃんと着ています。

「い、いや・・・その・・・ルリちゃんが倒れた時

慌てて運び出したのは良かったけど

仲居のおばちゃんに見つかって言い訳したけど

勘違いされちゃって、何て言うかそのハダカのままじゃ

風邪ひいちゃうかもって思って、ああっタオルは巻いていたから

正確にはハダカじゃないんだけど、そうしているうちに

仲居さんがルリちゃんの着替えを持ってきたから

てっきり仲居さんが着せてくれるのかと思ってたら

『お兄さんが着させてあげないと』なんて

ニヤニヤしながら言うし、でもこのまま放って置くのもいけないって

そう思って・・・その・・・」

「ぷっ・・・」

テンカワさんの慌てようが凄かったので思わず笑っちゃいました。

「ル、ルリちゃん?」

「良いですよ、私まだ子供ですから。

それより、この事は内緒にしておいたほうが良いんですよね?」

テンカワさんは、きょとんとしています。

そして、大きく頭を上下に振るのでした。

そう、この事は二人だけの秘密・・・

大切な旅の思い出・・・

 

 

 

次の日、艦長を筆頭に全員二日酔いで動けず

テンカワさんと二人で観光しました。

・・・美術館でイネスさんと出会い、延々と説明を聞かされましたけどね。

 

 

その後。ナデシコに帰り、私が食堂で食事を取ると

決まってテンカワさんがサービスと言って

注文してない物まで持ってくるようになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ちょう・・・んちょう・・・艦長!」

私を呼ぶ声がします。

「・・・ハーリー君、どうしたの?」

「いえ、先程からボウッとしてましたので・・・」

そう、ココはナデシコCの中・・・

今は定期パトロール中・・・

そして・・・

「いえ、何でもありません。」

私は、自分宛に来ていたメールを閉じます。

メールはエリナさんからで、タイトルは『慰安旅行パート5』・・・

今年はユリカさんもいます。ミナトさんもいます。

イネスさんもいます。そして、あの人も・・・

今から楽しみです。

 

 

 

 


作者言い訳

はじめまして、M.H.Kと言います。

黒獣さんには、Actionに投稿した私の作品

機動戦艦ナデシコ Re Tryのイラストを頂きました。

今回、ホームページを開設なされたと聞きましたので

記念に投稿しました。

 

さて、今回の話ですがルリ様がピースランドに行った直後のお話です。

タイトルどおりになってない様な気がしますが気にしないでください。

あんまり考えなしに作ったので文法や

描写がおかしい点が多々あるかと思いますが

平にご容赦ください。