月姫〜悪魔の館〜

月姫〜悪魔の館〜

短編〜恐怖の三大悪魔〜








私は今、悪魔の館の前にいる。

此れから私は、この悪魔の館へと侵入する。

それは、私の大好きなお兄ちゃんを救出するためだ。

私のお兄ちゃんは一年くらい前に、私の家からこの悪魔の館へと移り住んだ。

だけど、この館へ移り住んでから、ちっともお兄ちゃんは私に会いに来てくれない。

きっとこの家に住んでいる、悪魔たちに邪魔をされているに違いない。

私はそう思って、怖いのを我慢して、この悪魔の館へと侵入するのを決心した。

お兄ちゃんを救出したら、私がどれだけお兄ちゃんの事が好きかを言うんだ。

私はお兄ちゃんの前に立つだけで、体中が熱くなり、緊張して、まともにお兄ちゃんの顔さへ見れないけれど、

この悪魔の館から救出できれば、きっとお兄ちゃんを目の前にしても、言える気がするんだ。

「すぅ〜〜〜・・・はぁ〜〜〜・・・」

一回大きく息を吸って吐いた。

「よっし!頑張るぞ〜〜〜!待っててねお兄ちゃん。今助けに行くからね!」

そう言うと少女―――有間都古は、その悪魔の館へと静かに進入して行った。

館の名前は遠野家―――

有間都古にとって大好きな兄―――遠野志貴が住む屋敷である。

そんな都古を、1つの機械の目が捕らえていた事を都古は知る由も無かった。





進入してまず目に付いたのは、大きな扉―――

「むむむ・・・」

都古は扉を目の前にして、大いに悩んでいた。

「一体どうやって、屋敷に入ればいいんだろう?」

つまりは、志貴を救出する事だけを考えて、玄関に鍵が掛かっているのをすっかり失念していたのである。

いっそうのこと、八極拳を使って玄関を破壊するか、窓を壊そうかと思ったが、理性でそれを押し止めた。

「だってそんな大きな音を立てたら、いくらなんでもあの悪魔達に気付かれちゃうじゃない」

都古は誰にとも無く声に出した。

「うぅ〜。本当にどうしよう?このまま何もしないで帰るなんて、絶対に嫌!どうにかして屋敷に入れないかな?」

そう思って都古は、何気なく玄関のノブに手を掛けた。

「・・・あれ?」

都古は不信そうにその眉を顰めた。

「玄関の鍵が掛かってない?」

都古の言う通り玄関に鍵は掛かっておらず、その重厚な扉は都古が軽く力を入れると簡単に開いた。

「何で鍵が掛かってなかったんだろう?」

都古は不審に思った。

何故ならば、今は午後9時―――

都古の家では既に、玄関の鍵は掛けられている時間であったからである。

「う〜ん、何でだろう?・・・まっ、いっか!」

きっと鍵を掛け忘れたんだろうと思う事にして、都古は深く考えるのを止めて、その悪魔たちが住む屋敷へと一歩足を踏み込んだ・・・





「むむむ・・・」

またしても都古は悩んでいた。

屋敷の中に進入できたのは良いが、肝心の志貴の部屋が分からないからだ。

「うぅ・・・一体どうすれば良いんだろう?お兄ちゃん・・・」

分からない結果、都古はし〜んと静まり返った玄関ホールに立ち尽くしていた。

「ん?」

そんな時、都古の目に何か白い物体が目に入った。

「何だろうアレ・・・?」

都古は不審に思いながらも、その白い物体に近づいて確かめる事にした。

「あれ?これて・・・!!」

都古が目にしたのは、この屋敷の見取り図。

しかも何やらマーカーで線が引いてあり、幾つかの時間と、この屋敷に住む4人の部屋が何処に在るのかまでもが書かれていた。

マーカーの線と時間は如何やら、三大悪魔の一人の翡翠の巡回ルートと、その時間が印されている物らしい。

勿論、都古がそう判断したのには訳がある。

ご丁寧にも、その見取り図の題名が『翡翠ちゃんの夜の巡回ルートですよ〜。あは〜♪』

な〜んて、ちょっとふざけた題名だったからだ。

それを見た都古は、これは悪魔たちが仕掛けた罠に違いないと判断した。

しかし、他に頼れる情報も無い。

「う〜ん・・・如何しようかな〜・・・」



「よっし!決めた!きっと此れは罠だ!そうすると、お兄ちゃんと秋葉おば―――お姉ちゃんの部屋が逆に書いてあるんだ」

途中、おばさんと言おうとした時に、物凄い寒気を感じた都古は慌てて言い直した。

「巡回の時間やルートも嘘に違いない。そうと決まれば早速、秋葉様の部屋と書いてある方の部屋に行って見よう」

そう言うと都古は、玄関ホールを後にした・・・

ちなみに都古が手にした見取り図には、隅っこの方に、黒いフードを被った魔女が、箒に乗っている絵がデフォルメされて載っていた・・・





都古は見取り図を頼りに、屋敷の中を緊張した面持ちで進んでいた。

幸い足音は、毛の長い絨毯によって殆ど消されているので問題はなかった。

都古が注意しているのは、お兄ちゃんを閉じ込めている悪魔達に見付からない様にするために、前後に気を配る事だった。

見取り図上では、秋葉様の部屋と書かれている場所までは、あと廊下の角を二つ曲がるだけとなった。

だが問題なのは、見取り図に書かれている翡翠ちゃんの巡回ルートと、時間がもうそろそろだと云う事だった。

勿論都古は、偽の情報だと思っていたが、万が一の事を考えて、前方の曲がり角から来る筈の翡翠をやり過ごす為に、

廊下にあった大きな壷の中に隠れていた。

ちなみにその壷が、時価数百万は下らない代物という事は、都古は知るはずが無かった。

都古にしてみれば、自分が隠れるのに丁度良かった大きさだから隠れたまでである。

カツン、カツン、カツン・・・

絨毯によって殆ど消されているが、都古の耳には確かに足音が届いた。

ごっくん・・・

都古はその音に緊張して、思わず喉を鳴らした。

・・・あの情報・・・本当だったんだ・・・

都古は心の中でそう思ったが、一体誰が、何の為に、あんな見取り図を用意していたかは見当も付かなかった。

一瞬、大好きなお兄ちゃんが用意したものかとも思ったが、あんなふざけた題名は付け無いだろうと思って、その考えは頭の中から追い出した。

そんな事を考えている内に、足音はどんどん此方に近づいて来た。

カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、

カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン・・・

そして足音は徐々に遠のいて行った。

「ふぅ〜〜〜」

都古は安堵の溜息を吐くと、こっそりと壷から顔を出して、足音が遠のいて行った方を窺った。

そんな都古に、メイド服を着た赤い髪の女性の後姿が、ちらりと目に入った。

「ふ〜〜〜・・・。危なかったな〜、一応この見取り図の情報を信じて良かった」

完全にメイド服の女性が遠ざかったのを確認してから、都古は静かに壷の中から這い出した。

「それにしてもさっきのは・・・」

都古の脳裏に、お兄ちゃんを閉じ込めている、三大悪魔の一人の情報が過ぎった。

確かあの女の人は、翡翠と云う名前で、掃除などは得意でも、料理が壊滅的に駄目だとか・・・

そして、大好きなお兄ちゃん付きのメイド―――

べ、別に羨ましくなんてないんだから!

別名、洗脳探偵翡翠・・・だったかな?

久我峰のおじさんに貰った情報に、そう書いてあったのを思い出した。

「う〜ん。でも、この巡回の情報があっていたなら、部屋の方も本当なのかな?

う〜ん・・・どうせ秋葉お姉ちゃんの部屋まで近い事だし、確かめに行って見よっ!」

少し悩んだ都古だったが、どうせだからと確かめる事にした。





都古は、廊下に漏れる一筋の光を発見した。

見取り図を見て確かめると、秋葉お姉ちゃんの部屋からだった。

都古はそっと扉へと近づき、部屋の中を覗き見た。

すると其処には―――

秋葉が椅子に座って、鏡を見ながら何かブツブツと呟いていた。

都古は興味を覚えて、耳を澄まして、その呟きを聞き取ろうとした。



「・・・はぁ〜・・・何でこんなに私の胸は無いのかしら?

はぁ〜・・・兄さんは胸は大きい方が好きなのかしら?

あのアーパー吸血鬼やなんちゃって高校生は、私よりもありますし・・・。

使用人の琥珀や翡翠よりも無いなんて・・・はぁ〜・・・。

けれども、兄さんが特殊な趣味の持ち主なら話は別よね。

あの使い魔のレンって云う証拠もありますし・・・。

えぇ、そうよね!要するに、最後に笑うのが私なら良いのよ!

そうよね。うふ、うふふふふふふふふ・・・・・」

最後の方は、かなり危ない不気味な笑い声を出し始めた。



「・・・・・・・・・・え、えぇ〜っと要するに、胸の話だよね?」

都古の脳裏に、久我峰からの情報が蘇った。

遠野秋葉―――

お兄ちゃんを閉じ込めている三大悪魔の一人―――

戸籍上のお兄ちゃんの本当の妹。

その胸はまるで呪われているが如く、まっ平ら。

可愛そうになるぐらい成長の兆しが無いとか・・・

別名、鬼妹。無い乳娘とかなんとか・・・

「う〜ん・・・お兄ちゃんはやっぱり、大きい方が好きなのかな?

もし大きい方が好きでも、私には未来はあるもんね!」

そう都古は結論付けると、秋葉の部屋の前を後にした。

「・・・・・・・・・・でも、特殊な趣味ってなんだろう?」

首を傾げながらポツリと漏らし、悩みながら志貴の部屋へと向かうのだった。





ゴクリ・・・

私は緊張の余り、無意識に息を呑んだ。

一旦手元の見取り図と、目の前の部屋とを見比べる。

本当に此処がそうなのか―――

見取り図と、目の前の部屋とを間違えていないか―――

先程から何十回とも繰り返した行為だ。

そして、何十回目かは忘れたが、私はやっと目の前の部屋がそうだと確信した。

思えば此処までの道のりは長かった・・・。

ブンッブンッブンッ

思いに浸りそうになるのを、頭を振って振り払った。

いけないいけない。

思いに浸るのは後でもできる。

今は目の前の扉を開け、お兄ちゃんを救出するのが先だ。

私は緊張の余り震える手を、扉のノブへと伸ばした。

ドックン、ドックン、ドックン・・・

緊張のせいか、それとも静けさのせいか、心臓の音が五月蝿いまでに聞こえて来る。

カチャ・・・

遂に私の手が、扉のノブへと掛かった。

「すぅ〜〜〜・・・・・・・・・・はぁ〜〜〜・・・・・・・・・・・」

一回大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を引いた―――

キィーーー・・・

小さな扉が軋む音と共に、扉はゆっくりと開いていった。

私は緊張した足取りで、部屋の中へと入った。

部屋の中は、至って質素だった。

思えばお兄ちゃんは、有間の家にいた頃からあまり派手ではなく、質素な生活を好んだ。

食事なども、洋食よりも和食のの方が好きだった。

部屋が和式ではく洋式なのは、この屋敷が洋風だからだろう。

そんな事を思いながら都古は、一歩一歩、志貴が眠っている筈のベットへと歩み寄った。

ドックン、ドックン、ドックン・・・

気のせいか、いや、気のせいではなく、先程よりも心臓の音が高まっているのを感じた。

もう直ぐだ、もう直ぐ大好きなお兄ちゃんに会える。

都古ははやる気持ちを抑えながら、ベットの傍らへと立った。

お兄ちゃんだ!大好きなお兄ちゃんが今、目の前にいる!

都古は、以前と変わらぬ志貴の寝顔を見て歓喜した。

都古は其処で、部屋の中をキョロキョロと見渡して、志貴以外に誰もいない事を確かめた。

志貴以外には、部屋の中に他に人がいない事を確かめた。

いたのは、志貴の顔の隣で丸くなって眠っている黒猫だけだった。

「・・・・・・・・・・・他に誰もいないんだから、キスぐらい良いよね?

だって私はこんなにも、お兄ちゃんのことが好きなんだから・・・」

その黒猫以外に人がいない事を確認した都古は、ゆっくりと志貴の唇へと自分の唇を近づけた。

後30cm―――

後25cm―――

思い切って、後15cm―――

後10cm―――

顔を真っ赤にしながら、後5cm―――

ブルブルと全身を震わせながら、後4cm―――

息を止めて、後3cm―――

ゆっくり、ゆくっり、後2cm―――

至福の時を味わいながら、後1cm―――

そして唐突に、その至福の時は破られた。





「あは〜、それ以上は流石に見過ごせませんね〜♪」

至福の時を破った突然の声に、都古は驚いて振り返ろうとした。

だがそれよりも速く、首筋に何かが刺さる刺激と、其処から何かが進入してくる感触がした。

首筋から何かが抜き取られる感覚がすると、急激に強い眠気を感じた。

都古は最後の力を振り絞って、背後に立つ何者かを見た。

その何者かを見た時に、都古は激しく後悔した。

あぁ、何で最後でこんなにも気を抜いてしまったんだろう・・・?

この屋敷に住む、三大悪魔の内、もっとも注意しなければならない悪魔―――

琥珀―――

いろいろな資格を持ち、秋葉お姉ちゃん付きのメイド兼秘書的な存在。

もう一人のお兄ちゃん付きのメイド―――

双子の妹の翡翠とは逆に、掃除は壊滅的だが、料理の腕前はプロ級。

別名、割烹着の悪魔、遠野家の陰の支配者、ミスター陳、ほうき少女まじかるアンバー等といろいろ二つ名がある要注意人物・・・

三大悪魔の内、もっとも注意しなければならない悪魔だった筈なのに、完全に忘れていた・・・

「・・お・・・・にい・・・・・・・ちゃ・・ん・・・・・・・・・・」

最後にそう言うと都古は、力尽きて倒れた。



「まったくも〜、折角志貴さんに会わせてあげたのに、キスは許しませんよ?」

琥珀は少し怒った口調で言う。

「でもま〜此れは、都古ちゃんを会わせてあげた、ご褒美と云うことで・・・」

ちゅっ・・・

そう言うと琥珀は、志貴の唇にキスをした。

「ふふ、それでは、此方の方もお片づけと行きますか・・・」

そう言うと琥珀は、眠っている都古を抱きかかえると、志貴の部屋を後にした。





チュン、チュン、チュン、チュン・・・

「う、う〜ん・・・」

朝、小鳥たちの囀りで目を覚ました都古。

「あ、あれ?・・・何で私、自分の部屋の布団で眠ってるんだろう・・・?」

目が覚めたら、自分の部屋で眠っていた事に、驚く都古。

「夢・・・だったのかな?」

首を傾げ、悩む。

余りにも現実的すぎて、夢だとは思えない内容だった。

「ん・・・!」

何げ無しに、首筋へと手を当てると、何かが刺さった後の様な感触を感じた。

「夢・・・じゃない・・・?」

そう意識すると、僅かに首筋が痛み、体も普段よりもだるく感じた。

「という事は、後少しでお兄ちゃんと・・・」

其処まで言うと都古は、自分が何をしようとしたのか思い出し、顔を真っ赤に染めた。



「すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜・・・すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜・・・すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜・・・すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜・・・すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜・・・」

何度か大きく深呼吸を繰り返す内に、何とか気持ちも落ち着いていった。

「うぅ〜〜〜、後少しで、お兄ちゃんゲットだったのに〜〜〜!!」

都古は、悔しさを顔一杯に浮かべた。

「うぅ〜〜〜、でも、次こそは!次こそは、お兄ちゃんゲットなんだから〜〜〜!!」

「さ〜、次に向かって、またコンフーを積むぞ〜〜〜!!」

都古は拳を握り、天へと突き上げた。

都古は次の再戦へと向けて、決意を新たにしたのだった。







〜あとがき〜

初めまして、ルーンです。

電波大量受信・・・

って事で、この短編が出来あがりました。

何だか琥珀さん一人だけ、良いとこ取り?

ま、ま〜別にいっか!

何たって、琥珀さんだし・・・

琥珀さん・・・割烹着の悪魔らしくできたかな?

都古の性格や台詞もですね・・・

翡翠に至っては、台詞が一言も無いし・・・(汗)

???:「あは〜、それはいけませんね〜。お注射です♪」

プス・・・

ぐはっ・・・い、いきなり・・・あとがきに乱入・・・・・・ですか?・・・がふっ・・・

???:「あは〜、体かピクピク痙攣してますね〜♪」

???:「いい実験体が手に入りました〜♪」

ズルズル、ズルズル、ズルズル・・・ゴン!・・・ズルズル、ズルズル、ズルズル・・・

ルーンの足を掴み、引き摺りながら???が退場。

途中、何やら鈍い音が発生・・・