第一話
暗い・・・
ここはどこだろう。
「ここは君の内面だろ?」
「だれ?」
「おいおい・・・君は自分の身体の中に自分以外を飼っているのかい?」
「ぼく?」
「そう。僕は…そうだな、君の本能かな?」
「本能?なんで本能が理性と同じ空間にいるの?」
「存外に賢いね」
「とうさんが教えてくれる」
「そっか・・・では君の質問に答えよう。
何故本能と理性が同じ空間に居るかだったね」
「それはね、正直君の身体はもう死んでるんだ。
肉体が死ぬと、次は魂が死に始めるだろ?
それはとても困る。君がいなくなるとぼくも消えてしまう。
だからまぁ僕はそれを防ぐために意識を繋ぎ止める役ってわけだよ」
「ぼく死んじゃうの?」
「君次第だよ。でもまぁ、それを防ぐために僕は今ここに居る」
「どうすればいいの?」
「いま外の連中が君の身体を治している。
それが終わるまで僕と話していればいいだけさ」
「それだけ?」
「そう、それだけ。実に人任せな生き残り方だろ?」
「・・・うん」
「そう落ち込むな。起きた後、君に出来ることで恩を返して行けば良い」
「うん!」
「と、言ってもこの会話は君の記憶に残らない」
「なんで?」
「言っただろ?僕は君だって」
「?」
「つまり、僕は君が生き残るために作り出した鎖なんだ」
「え?」
「だから僕は君であり、また、君ではない。」
「え?え?」
「あぁ…目覚めだ…。良かったね。」
「あっ!ちょっと待って!!」
光
ほんの少し。だけどこの暗闇の中では明るすぎる光。
その光に導かれるようにぼくは目を開けた。
瞬間
ズキリ
「えっ?」
ズキリ
ズキリ
ズキリ
ズキリ ズキリ
「 い たい」
なんだこの痛みは・・・頭が割れてしまいそうだ。
「今は安静にしていなさい。動ける身体じゃないんだよ」
誰かが話し掛けてくる。
でもとても気にかけていられる余裕が無い・・・
「自分がどういう状況に置かれているかわかるかい?」
その言葉に思い出す。
どうしてぼくはこんな怪我をしているんだ?
いつも通り寝ていただけのはずなのに。
それに気のせいなのかもしれないが、この声には覚えが無い。
「 よく わ か りま せ ん」
息も絶え絶えにそう告げる。
しかし何でまたこんなにも息が上がっているんだろう。
たしかに悪い夢を見た気がするが、それだけではこんなに苦しくないはずだ。
これではまるで死にかかった魚みたいだ。
空気を求めて口をぱくぱく開けるけど意味が無く、そして力尽きて死ぬ・・・
自分で考えておいて嫌な最後だと思ってしまった。
何て言うか、そう。救いが無い。
しばらくじっとしていたおかげで息が落ち着いた。
そしてぼくは状況を確認するため、顔を上げだ。
「なっ!」
『線』
ぼくを心配そうに見ている人の顔に、手に、首に、
『線』
ぼくの手に、布団に、壁に、天上に、
『線』
「大丈夫かい?」
『線』が近づいて来る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
堪らなくなって『線』から逃げた。
「まだ動いちゃ駄目だ!!」
『線』が何か言いながら追いかけてくる。
「くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
怖くなって苦しくなって空を見上げた。
それは
『線』で出来ていた…
「あっっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
どのくらい走っただろうか。
喉は焼け、足は笑う。
それでもぼくは止まれなかった。
空が落ちてきそうで、
地が崩れ、飲み込まれそうで、
手がすべり落ちそうで、
怖かった。
ただ怖いだけだった。
走ればその恐怖から逃れられるような気がして必死に走りつづけた。
何故こんなにも簡単に限界が来るのか・・・
息はあっという間に切れ、足も引きずるようにしか前に出せなくなった。
そして、転んだ。
―もうニゲラレナイ
だから
周りにあった線を全て引いた。
木は斧で割ったみたいに綺麗で、
岩は元から砂だったかのようにさらさらで、
地は枯渇したようにひび割れ、
花はそうあるのが自然であるかのように枯れてしまった。
死の世界、いや、死後の世界の真中でぼくは泣いていた。
一人でいるのがとても嫌だった。悲しかった。
だからだれかを呼んだ。
「たすけて」
「たすけて」「たすけて」「たすけて」「たすけて」
「 だ れ か たす け て」
「あなただれ?」
そう、救いは唐突に現れたのだ。