その光景はいつかのクリカエシだった。



「あ・・・」

ダレかのテ誰かノ足だレかのナカミ

人がバラバラに散らばっている。
それらは本来有り得ない姿形で血の池を踊り狂う。
折り重なり血に濡れた大地に陸を作るモノもあれば、元のカタチがわからないほどアレされているモノもある。


「あぁ・・・」



止むことの無い誰かノ悲鳴
我が子を守り死んでいく親
親にかけよりソレと同じにサれる子供










―懐かしい・・・









―ドクン  思い出したか?

―ドクン
―ドクン  あぁ・・・



―ドクン





思い出した。

今まで何を思っていたんだろう。
気にしていない?忘れた?ふざけるな。そんな訳が有るか。
憎むことが出来ない?これを見てまだそんなことが言えるか?


―やっと気付いたか?偽善者



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」





ユルさない

―ユルさない?

ナニを?

―あれヲ?

どれを?

スベテヲ

全部?

そうゼンブ。でもまぁ・・・

―マずは・・・アレを・・・





子供を潰し終えた男が嬉々としてこっちに向かってくる。
あんな大きな声を出したんだ。気付かれて当たり前だろう。

男はその巨体に殺気を漲らせている。
目は親子をバラした興奮がおさまらないのかギラギラ光っていて気持ちが悪い。
極度の興奮状態なのかぼくを殺すことしか考えていない。

―好都合

「       っ   だ ?」

「 がな な。は はは あ  く」


ナニか笑いながらこっちに歩いてくる。

コレにとって子供は殺すだけの玩具なのだろう。
たしかに子供の手練なんて世界に片手で数えられるほどしかいない。
この男も常識としてそれを知っているのか油断しきっている。

しかし、何故最悪の場合を考えて動かないのか・・・ぼくにはその愚行が理解できない。

だから自分が死地に無防備で赴いていることすら気付けていないのに。



あと三歩
笑いながら近づいてくる。
ぼくをバラバラにできることを心底喜んでいるようだ。
ゲスの笑い声をこれ以上聞くのが絶えられない。
飛び出してしまいそうな自分を抑え、必殺の間合いまで待つ。

あと二歩
ニタニタ顔を屈めてぼくに話し掛ける。
取って付けた様な猫なで声が首筋を撫でる。とても不快だ。
見え透いた挑発だが胸がむかつく。
余裕があるなら時間をかけてゆっくり殺してやるのに。

あと一歩
ぼくが無反応なのが気に召さないのか声を荒げる。
そんなに無視されるのが嫌なら最初から声をかけなければ良いのに。
それに自分でかけようとした罠に自分がかかるな。阿呆。
訳のわからない罵声を吐きながら大きく前に踏み出した。




―馬鹿が・・・


相手の無防備さに笑いが込み上げる。
そのせいで一瞬殺気が洩れてしまった。

男がそれに気付き咄嗟に身構える。
てっきり快楽主義の殺戮狂だと思っていたがどうやら違うようだ。
反応速度といい、構えといい、ちゃんと訓練された傭兵のそれだ。



―だが 遅い



相手の間合いに警戒もせず隙だらけで入った男がどうなるかは言うまでも無い。





首と身体がサヨナラして、男はこの世を去った。





予想以上の威力に我ながら驚く。

頚動脈を切り裂くつもりで『線』に走らせたナイフはなんの抵抗も無く『線』に沈み、筋肉質な男の首を簡単に両断した。

人の首はそう簡単に切断出来るものではない。
鋸を休まず引いて一時間はかかる。
ましてこの男の首は鎧のような筋肉を纏い僕の胴回りほどの太さになっている。
僕の筋力ではどんな名刀を持ってしても一刀の元に切断することは出来ないだろう。

それをこの『線』は意図も容易く成し遂げてしまえる。
正確に言えばこの『眼』だが、たいした違いではない。



―これならいける




アレを殺すことだって出来るかもしれない・・・

―ホントウニ?

「っ・・・」

頭に浮かんでくる雑念を抑え込み走り出す。

ぼくはここに皆を助けに来たんであって侵略者を殺しに来たんじゃない。
間違っても自分から敵に仕掛けるようなことをして時間を無駄に使わないようにしなければ。

もしそれで間に合わなかったら一生後悔することになる。



当たり前のことを頭の中で何度も復唱し、確認する。

そうでもしないとアレの姿が頭に浮かんで目的を忘れてしまいそうになる。





胸の傷が痛み出す。
どうやら身体はたったあれだけ動いただけで限界のようだ。

胸から触手が伸び身体を犯していく感覚が甦る。
だけど今はそれが心地好い。

頭痛は先から酷くなってきている。
頭に心臓があるんじゃないかってぐらいドクンドクン煩い。
視界が暗くなるたびに激痛が走り、気絶するのを赦してくれない。


これ以上動くことは危険だと訴えてくる身体の警告を無視して走る。
それでもやはり誤魔化せないのか、息はすぐ荒くなり、視界がぼやける。

一際強い眩暈がして、視界が暗転した。

咄嗟に『線』を意識すると頭が割れそうになる代わりに、視界は元に戻ってくれた。

だからまだ走る。
手遅れになる前に見つけ出さなければならない。





女性の声が聞こえた。

抵抗しているのか何かを必死に叫んでいる。

―まだ生きている。

足が地面にめり込むぐらい強く踏み出し、加速する。
急ぎその場に向かった。





三人の男が地面に女を抑えつけている。
少し遅かったが間に合ったようだ。

女が泣き叫び、男達が喜ぶ。

ナニをやっているのかわからない。

戦場で周りを警戒しないなんて死にたいのだろうか。

なら・・・


―ボクガコロシテアゲル


男達の動きが止まる。女が身を捩り男の下から這い出す。

男達はそれでも止まったまま。女が逃げていく。

男達は追わない。その場に止まったまま。





ドサリ



バラバラにナって崩れ落ちた。



ぼくは既にそこにいない。
隙だらけの男達の『線』を引き、死亡を確認せずに走りだしていた。
必殺は必ず殺せるからこその必殺。故に確認など要らなかった。



―どこだ。

どこにもいない。六花も琥珀も翡翠も。

―どこだ

探す。壊れた眼を凝らし動くモノのいない世界を見渡す。

―どこだ

なんでこんなに誰もいないのだろう。

大人も子供も、そして敵すらもいない。


―もうシンダ


うるさい


―生き残れるはずがナイ


うるさい




「ガキだ殺せ!!」

なんて間抜けだ!!
余計な事を考えていて後方の敵に気付けなかった。



「うてっ!」


―馬鹿が!敵に撃つタイミングを知らせてどうする。

瞬間、横の木に向けて跳ぶ。
それと同時に連続した銃声と木の削れる音がする。

どうやら相手は機関銃をぼくが隠れている木に向けているようだ。
無駄弾を気にせずに撃ち続けている所から複数だとわかる。
一人なら弾倉を取り替える時に決定的な隙が出来てしまう為このような乱射は避けるはずだ。
それにしてもこの銃声は多すぎる、おそらく四、五人はいるのだろう。

幸い逃げ込んだ木が立派な為木を貫通して撃ち殺される心配は無い。
だが、このままここに留まっていれば遅かれ早かれ殺されることは確実だ。

どうする・・・

銃声の中、微かに草を踏む音が混じっている。
どうやら撃ちながら近づいてきているようだ。

左右を確認する。
右側に家があるがここから最低でも十歩はかかるだろう。

それだけの間があればこいつらがぼくを穴だらけにするには充分すぎる。
相手もそれを考えてか木が削れる音は右側のほうが多い。

左側には何も無い。
弾は少ないし虚を突けるだろうが、その後が続かないので却下だ。

左右は駄目・・・ならば―


上を見上げる。幸い幹はでこぼこしていて足掛かりは充分確保できる。

相手に悟られぬよう一気に木を駆けあがる。それを助走として空高く舞い上がった。


身体を宙で反転しながら観察する。
相手は四人。訓練されているのか陣形には隙が見つけられない。
幸いまだぼくが木に隠れていると思っていて頭上にいるとは気付いていないみたいだ。

予想通り右に三人、左に一人。ぼくを炙り出すために絶えず銃口を木に向けている。



トッ



着地する際、膝のばねを最大限に生かし音を殺した。
それでも無音とまでは行かなかったが、それは大声を張り上げてもかき消されるであろう銃声の中では無音と称しても良いであろう音のはずだ。

しかしその音に奴らは反応した。

無駄の無い動きで銃口をこちらに向ける。
予め予想していた行動なのだろうか相手には微塵も動揺が見られない。


―まだかっ!

敵がぼくに銃口を向け、トリガーが引き絞られる。



その時

ズドォォォォォン




奴らの後方からさっきまでぼくが隠れていた木が倒れてきた。




・・・木を駆けあがる前、根元の部分を『殺し』跳ぶ時に奴らに倒れるよう角度を調整しておいたのだ。



今度こそ完全に動揺した。

さすがに木を駆け上がるとは思っても倒してくるとは思っていなかったのだろう。
二人は反応できず木に押し潰された。
幹と地面の間から勢いよく血潮が飛び仲間の顔を濡らして行く。
はみ出した臓物はその威力を物語り、押し潰された二人が既に生きていないことを教えてくれる。

後の二人は木を呆然と眺めている。


―間抜け


地面を蹴り相手の足元に潜り込む。

こいつからも、そして木を挟んで立っている男からも木の影で見えない完全な死角に入り込んだ。

我に返った男がさっきまでぼくがいた所にふりかえる。
いなくなっていることに驚き先の動きを思い出したのか空を見上げる。

しかしぼくはこいつの足元。
いつは決定的な隙を見せてしまっている。

そのまま上に飛び跳ね一人目の首を飛ばす。

同じように僕を探していた男が突然刎ねられた横の男の首に驚く。
足を広げ、関銃を隙無く左右に構えているがやはり怯えているのだろう。

人は怯えたり驚いたりして冷静さを失うと視界が極端に狭くなるのだ。
そんな視界で上空にいるぼくを見つけられるはずがない。

空中で身体を捻り仲間の死に身体を凍らせ怯えている男の『点』に向けナイフを投げた。







動かなくなった男の胸から七つ夜を抜き取る。

今はただの肉塊に成り下がっているが『点』を穿つその一瞬前までは確かに生きていた男だ。

なんてことだ・・・『点』は『線』に優る絶対的な死。
おそらく、どんなものでも『点』を突くだけで殺せる・・・

これならアレを殺すこともできるだろう・・・



―ドクン

「うぁ・・・」

さっきから何を考えているんだ?
今はそれどころじゃないはずなのに。

繰り返すがぼくの目的は皆を助けることだ。人殺しじゃない。

顔を叩く
しっかりしろ志貴。余計なことは考えるな。
今は助けることだけ考えて行動しろ。



石に躓いてこけた。

「ガッ・・・」


それでやっと気が付いた。

視界はぼやけ、どんなに『線』を意識しても戻すことができない。
それも当然。頭は疾うに感覚を失っている。
手足も動かそうとしてから僅かに遅れて動くほどに鈍っている。


―早く見つけないと僕が終わる


焦る気持ちをなだめながら走りつづけた。






そうして、この広場に出た。









そこには沢山の人がいた。
ただ、生きているのは一人きり・・・

ここで生きていることが正しいのか、死んでいることが正しいのか・・・
その答えはここに転がっている人達じゃなきゃわからない。





その男はただ呆然と立っている。
己の功績を誇るでもなく、殺戮の余韻に浸り笑うでもなく、ただ立っている。
この男もその命題に耽っているのか、それとも何も考えておらずただ空虚を見つめているのか。

はたまた、そのどちらでもないのか・・・





それを知るのはその男だけ。

―名を軋間紅摩 遠野が誇る死の具現である






奴の周りには沢山のナニかが落ちている。
生前とはあまりにも形が違う為に人と同視出来ないナニかが。



―ドクン―やつを―ドクン―シッテ―ドクン―いる?
いや、知らな―ドクン―・・・い?
―ドクン―いや―ドクン―見たこ―ドクン―とガ・・・ある。
既視感?チがう―ドクン―かンチがい?ちがウ―ドクン―
ぼくを―ドクン―  た奴?― ド ク  ン ―








「はは・・・」


可笑しくてつい笑ってしまう。

ぼくは馬鹿か?
アレを せる?自分の力量を知っているだろ?

アレ相手では すどころか、 されるだけなのに・・・



静寂の中、ぼくの口から洩れた声は奴の耳まで届いたようだ。
ゆっくりとこちらにフリムく



なんだあれ・・・

喉がカラカラに乾く。

がたいだけならさっきまで殺していた男達の方が数倍はある。
見かけの強さならあいつらの方が圧倒的なはずだ。
なのに何故、一目見ただけでこの男のほうが強いと、それに圧倒的だとわかってしまうのか。
この男が鋼のような筋肉のみで構成されているからか?

それとも・・・

あの男を包んでいる紅い靄に恐怖してしまっているからだろうか。



得体のしれないものが目の前に立っている。


―勝てない


どこからどう見てもそうとしか考えることができない。
唯一勝機があるとすれば髪を垂らし隠している目が、何かによって潰されていることだけだろう。

―しかしそれすらもこの男の誘いだとしたらどうする?


ぼくを次の標的に決めたらしい。
隠す必要が無いのか奴から溢れ出す殺気が空間を支配する。
それだけ、それだけでどちらが食う側で、どちらが食われる側なのかを僕は理解してしまった。

―ニゲロ

本能と理性の意見が一致する。
当たり前だ。アレを前にして戦うことなどできようか・・・
それにどう対処していいのか未だにわからない。
こんな状況でアレを相手に戦う事など自殺に等しい。

―ナニを捨ててでも逃げろ

そう逃げなければ・・・





まて、ぼくは何をしに来たんだ?

―関係ナイ ワガミヲ守れ

ここでこいつを倒さなければ・・・

―リッカの死体が・・・

そうだ。ぼくは逃げるわけにはいかない。
なんとしてもアレを殺さなければ。



―例え されようとも


相手に悟られぬよう、ゆっくり傍目に動いて見えぬよう足を開き重心を落とす。
覚悟は決まった。
まだどう戦うか決まっていない。
その焦りがさらなる焦りを呼び、反応速度を鈍らせた。


奴が動く。いや、動いた。

―しまった

だが奴は愚直にぼくに向けまっすぐ進んでくる。

それは戦闘においてやってはいけない実に愚かな行為。
直線の動きは読み易いし、合わせ易い。

それにぼくには『眼』がある。
動きに合わせ『点』を突いて、それで終わり。





そう。相手がアレでなければ終わっていた。





速い。速すぎて視認できない。
それだけで全てが狂った。

いくら動きを読んでもその動きについていく体力がぼくには無い。
仮に合わせられるとしても『線』がどこにあるのか正確にわからない。
こいつの線は異様に細い。故に少しのずれでただの斬撃に変わってしまう。
そんな中途半端なモノでこいつが止まるわけが無い。

故に仕掛ければ死ぬ・・・



これがこの眼の弱点・・・
それを今になってやっと気付くなんて!間抜けにも程がある。





「くっ・・・」

抗う手段が見つからず、間合いを取り一度仕切り直そうと後ろに跳ぶ。
足を曲げ重心を傾けたその刹那。
奴は加速し必殺の間合いまで詰めて来た。そしてそのまま鋼鉄のような腕を振り下ろしてくる。


―シヌ


身体を無理矢理捻り腕の軌道から身体を逸らす。
脇の間ギリギリをやつの腕がかすめていく。
それだけで脇からは鮮血が飛び散る。
一息もつかず、そのままの体勢から後方に跳んだ。

しかし僅かに遅かった。

やつの腕が地面にぶち当たった際起こした暴風に軽々と吹き飛ばされる。



暴風が吹き荒れ石がまるで弾丸のように飛んでくる。
腕を交差させ顔だけは守ったが胸の傷にまで注意が向かなかった。
石が傷にめり込み今まで感じていた痛みが優しく思えるほどの激痛に襲われる。


「グゥッ・・・」



痛みに我を忘れ受身を取れずに地面に激突する。


「グガァッ」


―イタイ


辛うじて残っている意識を総動員しても視界は霞んでいる。
それでも生物の本能として死を怖れるのかやつの姿だけはしっかり見える。
霞み輪郭を失った世界の中、やつ一人の存在だけが確りと見え絶対の死を予感させる。


素早く身を起こし、相手を見やる。
身体が痛む。
もう無事なところを探すほうが難しくなった身体に鞭を打ち迎撃体制を取った。

腕を地面に突き刺したままその隻眼をこちらに向けている。

その眼には必殺を避けられた動揺も、己の一撃を避けることが出来るモノを見つけた喜びも、なんの感情も映っていない。

ただ単に、避けられた。としか考えていないのだろう。

やつが腕を引き抜き立ち上がった。


腰を落とし何をするかと思えばまたまっすぐこちらに向かってくる。

しかし、今回は本当に愚かな行為だ。
七夜に同じ動きが通じるとでも思っているのだろうか。
たとえ視認できなくても動きさえわかればいくらでも対処は出来る。



足を限界まで引き絞り、好機を待つ。

腕を振り下ろす時奴は僅かだが速度を落とす。
その僅かな間がぼくの勝機だ。
それに合わせ奴の死角に跳び込み『点』を穿てばそれで死ぬ。
その一連の動作が奴の腕よりも遅ければ僕が死に、速ければ奴が死ぬ。

先でわかったことは打ち合うにはあまりにも相手に分が有り過ぎ、その他の手段でもぼくに分は無い。
故にこれが最初で最後の機会。
だが最大の機会でもある。
自分は相手を把握し向こうはこちらの『能力』を知らない。

慢心はしていないだろうが鋼鉄を誇る己の肉体をナイフで切り裂くことが出来るとは思わないだろう。
その微かな、当人でさえ気付かない油断が勝敗を分ける。





だがこの時ぼくは重要なことを忘れていた。





奴が腕を振り上げる。

―ここだ

引き絞った足を爆ぜさせ右前方に跳ぶ。
あまりにも強く蹴りすぎた為足の筋が切れた。

しかしその対価としてやつに触れられるより早く己の間合いに入ることが出来た。

―取った



が、





そう。なにも相手の情報を得たのはぼくだけではなかったんだ。






ズガッッッッッ!!




気付いたのは木にぶつかってからだった。


奴は腕を振り下ろしたのではなく、横に薙いだ。
ぼくはそこに自分から跳び込んでしまったらしい。

やつはぼくの行動限界範囲を先の衝突で割り出していたのかぼくの行動を読んでいた。
それに能力を知る必要などなかったのだ。
要するに触れられなければいいだけ。どんな能力であれ相手に触れなければ何も出来ない。

なんだ・・・慢心していたのはぼくの方か。

直撃をくらいまだ生きているのは微かに右に跳んでいたからだろう。

運が良かったのか、悪かったのか飛ばされた方には林がありぼくは木にぶつかってとまったらしい。

その際頭を強く打ってしまったのか意識が朦朧とし視界は白濁している。
おまけに指一本も動かせないし、口からは何かが垂れている。
おそらく血だろうが確認のしようがない。


誰かの足音が聞こえてくる。
きっと奴が止めを刺しに来たのだろう。

―何も出来ない。

足音がやんだ。顔をあげようとしても首はピクリとも動かない。
動かそうとした代償なのか視界は白一色に埋め尽くされる。
それでも『線』は消えない。

―なにもできなかった。

六花も琥珀も翡翠も誰も救えなかった。
それだけが悔しい。

何故死ぬ前にこいつを殺せなかったんだ・・・

―まだ間に合う。

そう思うが身体がピクリとも動いてくれない。

―ごめ ん   な   い

何も守れない。
何も出来ない。

無力。

せめて、目に写る人だけでも守りたかった。









何も感じられない。
視界は変わらず白一色。静か過ぎて耳が痛い。







意識が無くなって行く。


全てを手放す前に

輪郭だけの花が咲き誇る、花畑を見た・・・