疲れた。

ぼくは今空港のロビーで寝ている。
なんでかって言うと…





「そうだ志貴。服とかあるの?」

そう訊かれ、はたと気付いた。
ぼくは自分の家がどこにあったのか思い出せない。

「わかりません。でも先生が見つけてくれたこれ一枚だけだと思います」

そもそもぼくが倒れていたあの場所は七夜の里だったんだろうか。
思い出せた事が自分個人の事のみなので、七夜の里がどこにあるのかわからない。

必要なことは十分思い出せたと安心していたが、やはり大切な事を沢山忘れてしまっているみたいだ。
気にならないのは思い出す取っ掛かりすら忘れているからだろう。
そう考えると大部分の記憶を無くしたことはある意味では良かったのかもしれない。
これで中途半端に記憶が残っていたら、きっとぼくは物凄く取り乱して七夜を探すだろう。

「どうする?日本で調達する?」

先生は立ち止まり、トランクを漁り始めた。
お金あるかなー。と呑気に呟いているが、聞き逃せない事を仰っていた。

「先生。時計塔ってもしかして日本じゃないんですか?」

ぼくとしてはかなり真剣な話なのだが、先生は軽く、そうよー言って無かったっけ?と返してきた。
その間もトランクを漁ることをやめない。
ぶっちゃけ、先生にとってはどうでもいいんだろう…
と言うか、何でそんなに物が入ってるんですか?明らかに容量より多いような気がするんですけど。

まぁ深く考えないでおこう。

そう言えば先生が何者なのかも未だに話してもらえてない。
とても気になるがその内に話してくれることだろうから今は置いておく。
今は服の事が問題だ。

どうしよう…確かに和服のほうが好きだし、慣れているが、洋服が嫌と言うわけではない。

「あった。どれどれ…げ」

それにお金も無いみたいだから別にいいだろう。

「お金無いならいいです」

ぼくがそう言うと、先生はグッと詰まり、一気に捲くし立ててきた。

「失礼ね。お金ぐらいあるわよ。それに子供がお金の心配なんてするんじゃない」

先生に叩かれ、ぼくの頭がバシッと小気味の良い音を立てる。
意図せずの事だろうが、やっぱり頭が揺れて気持ち悪くなる。

「ごめんね。それでどうするの?本当にお金の心配はいらないわよ」

先生はふらつくぼくを押えながら訊いてくる。

「それに志貴の弟子入り記念もあげたいし」

ごにょごにょと濁しながら呟くが、ぼくの耳にはちゃんと入った。
先生は恥ずかしいのかそっぽを向いている。

これは秘密だが、ぼくは大雑把な先生が時々見せるこんな姿が好きだ。
きっとこれが不器用な先生の見せる最大の優しさなんだろう。
そういう本質を見せてくれる事だけでも十二分に祝いになっているのだが、それを言ったら殺される。

「ならお願いします。ぼくもできれば和服がよかったんで」

だから遠慮は止めよう。
人の親切を無下にするほど酷いことは無い。
ましてや先生にだ。ぼくは間違いなくこれからも先生に世話をかける。
だからせめて気を使わせるようなことだけは避けたい。

「よっし。なら行くわよ」

先生がトランクを凄い勢いで持ち上げる。
トランクはぼくの鼻先ぎりぎりを掠めていった。
あともう少し先生の腕が伸びていたら、間違い無くぼくは伸びていた。
ぼくが冷や汗をかいていると、先生の動きが止まり首を傾げている。

「ねぇ。和服ってどこで売ってるの?」

ぼくを振りかえりながら不思議そうに訊いてきた。

今の人にとって和服とは馴染みの無いもので、勝手がわからないのだろう。
しかしぼくに訊かれても困る。
記憶を無くしたからか、元からなのかはわからないが、ぼくには街に出た経験がまったくない。

都会を知っている先生と、着物を知っているぼく。
二人の知識を足せば一になるはずだが、残念ながらそんなに都合良く行かないみたいだ。

しばらく二人で無い頭を搾ってどうするか考えてみたが、当然妙案など浮かぶはずも無く。

「さがそっか」

こうなる訳である。





あの後、妙にハイテンションになった先生と共に文字通り西へ東へと飛び回った。
当然ぼくはふりまわされた…
それも文字通り。



結局ぼくは先生から、弟子入り記念として二つの物をもらった。

一つは和服。と言うか浴衣に近い。
向こう(具体的にまだ教えてもらっていないが)は日本より寒いと先生が言っていたので、地厚の群青色をした浴衣を買ってもらった。

買った店は手作りの店で、頼んだその日に買えるような店ではなかったのだが、
ぼくの寸法がある客とまったく一緒であることを聞いた先生が店にその客と連絡をとってくれるように頼んだ。
そして、その客に直接事情を説明し、譲ってくれるよう頼んだら了承してくれた。

電話をぼくに渡してくれるよう頼みぼくも礼を言ったのだが、返ってきた声が女の子の声だったことに驚いた。

余談だが、ぼくはその子と約束をした。
その子の声が持つ気質が、記憶の中でぼやける白い誰かに似ていたからかもしれない。
凛と響き、聞く者の心を否応無しに引き込む…
壊れそうな儚さと、壊れることの無い強い意思が同伴している不思議な声。

それに中てられて、ぼくはこう口にした。

―会う事があったら必ず恩を返します

そして名前は七夜志貴だと名乗ったら、その子は小さく笑った。
その笑いも誰かに似ていて、聞いていて何か良くない事を思い出してしまいそうで怖くなった。

私もシキ。両義式。その子は笑いながらそう名乗り返してきた。

うん。確かに背格好も名前も一緒なんて物凄い偶然だ。
可笑しくてぼくも笑い出した。ふたりで笑いあった。
そのおかげで漠然とした不安が消えてくれた。

笑いが収まり、そして式はこう言った。

―ありがとう。約束忘れないでね

また笑った。今度は嬉しくて。
約束は守る。ぼくは最後にそう伝えて電話を切った。



「ずいぶんと話していたわね」

先生が拗ねたように言ってくる。
実際拗ねていたんだろうが、そのあたりを考えないであげるのが弟子の優しさだ。

「はい。約束しました」

口約束。それも子供同士の他愛無い。
それが果たされるのか、果たすことができるのかわからない。
それでも大切にしたい。

『今の自分』になってから出来た二番目の友達との約束だから。



二つ目は刀。
こっちは完全に先生の趣味だと思う。

浴衣を買った後、互いに疲れていたので公園で休もうということになった。
それなのに先生は忘れてたという顔をして、ぼくにここで待っているように言うと、どこかに向かって行った。

そして、もうすぐ一時間経つというところで細長い布袋を担ぎながら帰ってきた。
何を買ってきたのか訊くと、得意げに笑い、手に持っていた袋から刀を抜いた。

それは小太刀だった。
ぼくが呆然と見ていると先生は、気に入った?と訊ねてきた。

ぼくの反応があまりにも薄かったため自分が選んだ刀が間違いだったのか心配してしまったんだろう。
しかしぼくは先生が考えているものとは違う理由で呆けてしまったのだ。

その小太刀はキレイな物ではなかった。
店主の手によって毎日磨かれていたのだろうか、手入れが行き届いていて今すぐにでも使えるぐらいだ。
それでもその刀は光を失っていた。
きっとその刀は光沢を失ってしまうほど長い年月を過ごしてきたのだ。
光沢を失い、名刀はただの鉄くずになった。

しかしその芯にあるものはまだ輝き、己の担い手達の栄光を確りとぼくに伝えてくる。

そのせいでぼくは、見た目には決して美しいと言えない刀に魅せられてしまっている。

「とっても」

先生の問いにそう応えるだけで精一杯だった。
この刀の前で声を発することが悪いことのように思えてしまうのだ。

結局先生が刀を鞘に戻すまで食い入る様に見つづけていた。

「そんなに気に入ったの?」

先生が戸惑った声で訊いてくる。
それもそうだろう。
あんなに夢中になってしまったら逆に自分への気遣いで気に入ったふりをしているんじゃないかと疑ってしまう。

「はい。なんて名の刀なんですか?」

こういう時、下手な説明では勘違いさせてしまう。
ぼくは生憎、上手く説明できる器用な奴じゃないから説明するのはやめることにした。

「名無。それがこの刀だって」

名無…ますます気に入った。

名将と呼ばれた人が持っていた刀には良い物が多い。
だが、将とは命令を下し、配下を動かす者を指す。
それ故にその多くは戦場で使われることは無く、軍の象徴としてそこに在った。

その中にもたまに戦場を駆け抜けた刀がある。
それらこそ、本当の名刀と呼ぶに相応しい刀だ。
その一太刀は山をも崩し、軍を壊滅させると言われる。
これは比喩ではなく、事実なのだ。
多少の誇張はあるだろうが、名刀には『何か』が宿る。
それは聖霊だったり、魂だったり、時には悪魔だったり。
それらが宿った刀、もしくは剣を人は『聖剣』と称す。

しかしこの刀は残念だが前者とも後者とも違う、言うなればただの刀が名刀に昇華した刀だと言えよう。

なぜならこの刀は常に時代の影にいたからだ。
影に名など要らない。

故に名無。

表舞台で華やかに散って行く者達の影でこの世の為に身を削り、水面下で戦ってきた者達。
その中にこの刀の担い手がいた。
如何に偉大な功績を残そうとも歴史に名を残すことが無かった者達と共に、戦場を駆け抜けた刀。
戦うためだけに生み出され、その中で磨かれ名刀になったもの。
故にその存在は戦いの中でしか輝かない。戦場の名刀。
それがこの刀だ。

今は光を失いただの鉄くずに成り下がっているが、一度戦場に出ればその真価を発揮することだろう。

先生が刀を差し出してくる。

喜びに震える手を抑えつけ、両手でしっかりと刀を握り締める。
刀がそれに応え、チャキ。と鈍い音を鳴らした。

「これからもよろしくね。志貴」

顔を上げる。
己の生を誇るが如く背を反らし、揺らぐことの無い自信と共に優しく微笑んでいる。
そして迷いなく右手をぼくの前に差し出す。

―あぁ

この人が師で本当に嬉しい。これなら迷わずに後を追って行ける。

刀から右手を離し、左手で腰に帯びさせた。

「これからもおねがいします。先生」

先生の手を握る。先生が軽く握り返してくれた。
先生の温もりが伝わってきて安心できる。

この時、やっとぼくは先生に弟子入りできたんだと思う。

これから何をどうするとか、何を成すとか、そういう事は一切考えていない。
だけど大丈夫。先生が見ていてくれるならきっと道を間違えない。
だから進もう。今はまだ振りかえらず。



目標と呼ぶにはあまりにも陳腐な想いを胸に、
これから道を共にする師の影を追い、影に呑み込まれて行く公園を後にした。





「志貴。起きなさい。行くわよ」

いつの間に現れたのか、先生が椅子の後ろに立っていて、頭を小突かれた。
疲れていたとは言え、七夜である自分が感ずることなく後ろに立たれ、殺気がなかったとは言え無防備に触れられてしまった。

これから足を踏み入れる世界がどういうものなのかは知っている。
それなのにこんなに隙だらけで良いのだろうか、いや良いはずが無い。

仮に今のが先生でなく、敵だったら死んでいた。
これから気をつけなければ。

「どうしたの?難しい顔して」

ぼくが眉を寄せて考えていると不機嫌そうに訊いてきた。
先生としては隠し事などをして欲しくないんだろうし、悩み事も隠して欲しくないんだろう。
ぼくも先生に隠し事をするつもりは無いがこれは例外だ。

これはぼくが自分の甘さを認識しただけだから。
今ここで心を改めればすむ事をわざわざ言う必要も無いだろう。

「ちょっと思うところが」

だから適当にはぐらかした。

「ならいいわ。行くわよ」

先生もぼくを信用してくれているのか、あっさりと引き下がってくれた。
しかし声はやっぱり少し拗ねている。

「それでどこに行くんですか?」

反応してくれない。
どうやら少しじゃなくて結構拗ねてしまったみたいだ。

「先生。ぼく自身で解決できる問題は一人でやらせてください。そうじゃないと強くなれません。
本当に一人じゃ無理な時は迷わず先生に相談しますから」

どうやら先生にはちゃんと自分の考えを伝えておかないといけないみたいだ。
ぼくはどんな時でも人に頼らずに、一人でちゃんと成し遂げたい。
それでもやはり無理な時があるだろう、その時だけ先生に助けを借りたいのだ。

虫が良い話だが、そうしたい。
それが、今の自分に思いつく最良の考えだから。

「わかったわ。そのかわり遠慮したらぶっ飛ばすからね」

しかし先生は理解してくれたようだ。
ぶっとばすと言いながらもぼくを穏やかに見てくれている。

先生は、ちょっと待ってね。と言いながらポケットの中から紙を取り出した。

「これからロンドンに行くの」


―どこだそこ?


「えっと…日本からどのくらいですか?」

まともな教育を受けていないぼくにはわからない。
それでもぼくの第六感が危うさを告げてくる。

「んー…だいたい地球の裏側かな?」

正確にはだいぶ違うけど、そんなもんよ?と付け足してくる。

外国と聞き、ある程度は考えていた。
しかし想像していた以上の距離にくらっと来てしまった。
さすがに地球の裏側まで遠征するとは夢にも思うまい…

「でもまぁすぐよ。飛行機に乗ってればあっという間だから」

先生は、とりあえず荷物置きに行くから着いて来なさい。と現状を把握するのに精一杯なぼくを置いて歩いていく。

でもまぁどこだろうと関係無いか…
先生に着いて行くって決めたんだから。



「って先生。荷物に刃物禁止って書いてありますよ?」

先生が渡してくれた案内を呼んでいると「危険物禁止」と書いてあり、例にしっかり刃物が載っている。

「あー大丈夫だから。さっき私のトランクに詰めたでしょ?」

先生は自身満万に笑顔で言いきる。
それは別にいいんだけど…それって犯罪ですよね?

なんでも先生のトランクには魔術がかけられていて、ドラ○もんのポケット状態らしい。
そして現代の検査機ではそのポケットを見破れないらしい。
さらに詳しくトランクの自慢話を聞いていると目的のカウンターに着いた。

「ちょっと待っててね」

先生は早足にカウンターに向かって行く。

それにしても人が多い。
先生と話している間はそんなに気にならなかったが、やることがなくなると嫌でも目に入ってくる。

先生とは十メートルも離れていないのに、絶え間ない人の流れに邪魔されて見ることもできない。

暇つぶしに周りを眺める。
ここにいる全ての人が何か目的を持って動いているのだろう。
そう言うぼくも目的を持ってここにいる。
これから先生と共に時計塔に行き、そこで先生の手伝いをしながら修行する。

しかしこれは目的ではなく、あくまで手段。
なんか手段と目的が同義になってしまいそうだ。
だから気をつけなければ。
目的を見失ってしまったら、どうなってしまうか想像できない。
ぼくは手段を手に入れるために先生と共に行くことにしたんだ。
それだけは忘れないようにしなくては。



―なら、ぼくの目的はなんだ?



改めてそう問うとわからない。
ぼくは何がしたくて力を手に入れるんだ?

―日常を守る?

それがぼくの行動理念生き方

―日常ってナニ?

わからない

―なんだ…

―結局、目的すら持っていないんだ

違う。それは違う…と思う。

―どこが?

わからない

違うはずなのに…

―理由が見つからない



「君、迷子かい?」

その声に引き戻された。
声をかけられなかったら何か悪いことが起きてしまいそうだった。
ありがたい。感謝しなくては。

「違います。もう少しで保護者が帰ってくるので大丈夫です」

助けてくれた事はありがたいが、今は誰とも話す気にはなれない。
抑えることはせず、不快感を纏わせたまま言葉を吐き出した。

「そっか。でも間違えたお詫びとしておじさんもここにいよう」

その人は気付かないはずが無い陰険な言葉を軽く受け流し、ぼくの横に座った。

「…」

無言で睨む。
今は誰かに話し掛けられて返事ができるほど心が穏やかではない。
早く消えろ。と思いながら睨みつづけた。

「怒らせちゃったかな?」

穏やかに笑いながら寂しい声で呟く。
笑っているのにその目には暗い影が差していて、泣いているように見えた。

「はい。でも別にいいです。暇でしたから」

その声、それよりもその姿が悲しく、とても憎むことなんてできなくなってしまった。
きっとこの人は優しい。優しいが故に、どこか歪んでしまっている。
それはとてもキレイで歪な在り方。

「そうかい?なら暇つぶしにおじさんの話を聞いてくれないかい?」

知らず汗が流れ落ちる。
心の何処かで警鐘が鳴り響いている。

―この人の話を聞いてはいけない。

だが、ぼくは黙って頷いた。

それを見て、ほんの少しだけだけど、この人が嬉しそうな顔をした事が嬉しかった。

「おじさんは今から戦争に行くんだ。その戦いはとっても危険でね。多くの人が捲き込まれてしまう。だからおじさんはそれを止めたい」

その人は寂しげな笑みを更に深め、とつとつと語り始めた。

戦争に行くという事は人を殺すと言うこと。
でもこの人はただ止めに。つまり人を一人も死なせたく無いと言う。
殺し合いに行き、殺さない。

それは最初から間違っている気がする。
故に不可能。
子供でもすぐにわかることをこの人は悩み続けている。
いや、子供でもわかってしまうからこそ悩みつづけているのか。

「おじさんには子供がいてね。
 イリヤって言うんだけど君と同じぐらいかな?とっても可愛いんだ」

可愛いと言う顔には苦悩しかなく、どこにも喜びを見つけられない。

「その子と母親、つまりぼくの家族の為に勝たなきゃいけない」

争いたくないが、勝たなきゃいけない。
誰も殺したくないが、殺さなくては誰にも勝てない。

こんな矛盾した考えしか浮かばないのはぼくが子供で、知識も経験も少ないからだろうか。
大人ならばもっと合理的に考え、誰も殺さずに勝つこともできるのだろうか。

「だからぼくの取る道は決まっている」

それはきっと一番正しい道なんだろう。
この人が考えに考え抜いた答えが間違いのはずがない。

でもそれはきっととても悲しい道。
だって、もし幸せになれるならこんな辛い顔をしているはずがないのだから。

「だからぼくはやらなきゃいけない」

その言葉はぼくに向けられた物ではなかった。
覚悟を決め、逃げ道を自分で消すための言葉。

強張っていた顔に微笑を戻し、ぼくに頭を下げてきた。

「聞いてくれてありがとう。つまらなかったね」

下げていた頭を上げる。
そしてまた笑う。
ぼくは泣きそうになってしまった。

目に布が捲かれていて、泣くことも出来ないことが今はありがたかった。
溢れそうな感情を振り払うために首を振る。
本当はもっと強く、全てを消してしまえるように強く振りたかったが、消したら後悔すると漠然と思ってしまった。
だから自分を誤魔化すように弱く振る事しかできなかった。

「いえ。役に立てたのなら嬉しいです」

己より他人を優先する。
この人はそうやって生きているんだ。
ぼくもこの人と同じ道に進もうとしている。
だからこの人はぼくの理想。

でも、その在り方にはどこか間違いがある気がする。
どこに?と訊かれたら答えられない。そんな些細で根本的な間違いが。


「志貴おまたせ。…ん?」


帰ってきた先生がこの状況に驚いている。
まあ当然だろう。自分の連れが知らないおっさんと話しているんだから。

しかしこの人がそれ以上に驚いているのは何故だろう。

「驚いた。君は魔法使いの弟子だったんだね」

どうやらこの人も『こちら側』の世界の人だったみたいだ。
それにしても魔法使いって先生のことだろうけど、魔術師と違うのかな?

「へぇ…何様か知らないけど志貴に手を出すなら殺すわよ」

先生は自分の正体を一目で看破された事に警戒したのか本気で殺気を放っている。

「待ってください。迷子かと思って話し掛けただけです。他意はありませんよ」

慌てて弁護している姿が、何故だかこの人には似合っている。
その姿に毒気を抜かれ、先生も元に戻った。
ただ、信用は出来ないのか、ぼくに来いと手招きしている。

「志貴それ本当?」

あまりにも裏の無い態度に疑問を持ったのか、ぼくに訊いてくる。
視線を逸らすことなく、油断無く警戒している。

「本当ですよ。それに危害を加える気があったのならぼくでも気付けます」

ぼくがそう言うと、先生はしばらく思案した後、ため息をついた。

「まぁいいわ。悪かったわね。でも、魔術師如きが志貴に近づくのは自殺行為だから気をつけて」

口調は刺々しいが、どうやらこの人を敵と見るのは止めたみたいだ。
でもなんでぼくに近づく事が危険なんだ?

「それはそうでしょう。あなたに目をつけられて生きていられる筈が無い」

この人が必然であるかのように言う。
そんなに先生って凄い人なんだ。

そんな風にぼくが感心していると、

「いえ。そうじゃないわ」

先生が冷たく、温度を感じさせない声でそう返した。
そしてどこか悲しみを帯びた声で続けた。

「魔術師では、いえ、魔力を使うことでしか戦えないような者が志貴を殺そうとしたら、何も出来ずに殺される」

そう告げる先生の目は真剣でそれが嘘でも冗談でもなく、先生が本気でそう思っているのだと語っている。

「仮にあなたが志貴を殺そうとしていたのなら、あなたは死んでいたわ」

変な気を起こさなくてよかったわね。と笑っているが、ぼくは、ましてはこの人は笑うことが出来なかった。

「もうそろそろ行かなきゃいけないわね。それじゃ失礼するわ」

先生が一方的に話を打ち切り、ぼくの手を掴んで歩き出す。
先生はぼくの手を強く握っている。
そんなに不安にさせてしまったんだろうか?もしそうなら悪いことをしてしまった。

さよならも言えなかったが、それはしょうがない。
先生を心配させてしまったのだからそれぐらいは我慢だ。

「志貴君!!」

その人は突然ぼくを呼びとめた。
先生の突き刺さるような視線を気にしながらこっちに走ってくる。
先生が立ち止まり、ぼくに小声で、少しだけよ。と呟いた。
先生にお礼を言い、立ち止まってその人を待った。

「今からいう事はとても身勝手なことだ。だから君には拒否する権利がある。
君に聞く気が無いのならこのまま立ち去ってくれてかまわない」

その人はぼくの前にかがむと同時にそう一息で告げる。

そしてぼくの目をまっすぐ見つめてくる。
その目に強要や懇願の念などなく、ただ結果のみを待っていた。

ぼくが動かず、自分のいう事を聞く気があることがわかるとその人は安堵のため息をついた。

「ありがとう。聞いてくれるだけでも嬉しいよ」

「これはぼくの勝手な願いだ。君には人を守れる人になって欲しい」

嬉しいと言いながらも、その目には懺悔と後悔の色が強く出ている。

守る。
きっとこの少しの言葉はこの人にとってとても大切な、そして大変な言葉なんだ。
それをぼくに押し付けようとする自分の弱さを蔑み、悔やんでいる。

守る。その言葉にどれだけの意味があるのかはわからない。
その意味は、きっとこの人でもわかっていないのだろう。
それでもこの魔術師はそれを追いかけ、実現させることを誓っ夢見た。
そして苦しみながらも、その誓いを破ろうとしていない。

それがどれだけ強いことなのかわからない。
でも、その姿がぼくにはとてもキレイで、純粋に見えた。


それだけは真実。


「ぼくにはまだ力がありません。だからここで出来るのは約束だけです」

今のぼくには理解できない事が多すぎる。
だからこの人と同じようにはなれない。
でも。この人が望む『守る人』を自分なりに叶える事は間違えじゃ無い。

だから守る。人を、命を、そして日常を。

それがぼくの誓い。
日常だけでなく、さらに大きな範囲を守れる力を手に入れる。
目的とその手段。それが今、決まった。


「ありがとう」

ちゃんと伝わったのだろうか。
いや、伝わる必要は無い。
この魔術師はわかっている。
自分とぼくが違う事を。
そして自分とぼくが同じ志を持つ事を。


「ごめんね。でも、良かった」

これで未練無く死ねる。そんな言葉が続いた気がした。





「じゃあこれで本当にさよならだ」

そう言うとその人は先生に深くお辞儀をした。
そして背を向け、雑踏の中に消えて行った。

「さよなら」

少し、ほんの少し遅れた言葉。
時間にしてほんの二秒。たったそれだけでもう届かない。

結局名前も知らないで出会い、別れた誰か。でもとても大切な言葉を残して行った魔術師。

きっと誰かに何かを望む事なんてなかった人。
その人がどうしても残したかった想い。

守る

そう誓ったその瞬間から、ぼくはあの人とは違う道を進んでいると思う。
だってぼくはあの人じゃないから。
それでも、"守る者がいる"いや"守る者が要る"ことは忘れない。
「さっ。行くわよ」

先生の声にもどこか険がある。
きっとあの人がぼくに残した言葉はそれほどまでに歪んだものなのだ。

「怒ってますか?」

だから先生が怒るのも当然。
あの人が残した言葉がぼくに影響を与える。
それが良いものが悪いものなのかは終わってみないとわからない。
そして終わったときには、当然全てが手遅れになっているのだろう。
それだけはわかっている。
だけど排除するにはあまりにも遅すぎる。
もう伝わってしまった。受け入れてしまった。

故に怒るのは必然。
一人の人生を歪ませた言葉を嫌悪するも必然。
それを吐いた魔術師を憎悪するも必然。



「安心して。私が許さないわ」



しかし必然とは凡人の行いに限られる。
蒼崎青子。彼女は魔法使い。
必然を超越し、蹂躙する者。

彼女にとって必然とは、気に食わないのなら蹴り飛ばせば良いだけの小石。

己の弟子が間違えるのなら己が間違えなければ良いだけ。
必然に拒否権など無い。
どうして蹴り飛ばされるだけの存在が自分に対抗できようか。

故に七夜志貴は間違えない。
それを己が許さないから。





「先生らしいですね」

言外の意志に志貴が笑う。
さっきまでの何かに迷っているような表情は既に跡形も無い。

そう。彼が迷うようならば己が道標になれば良いだけの事。
今の彼に迷いは無い。そしてこれからも迷わせない。
志貴は危うい。純粋で、歪んだものを拒む事が無いから。
自分が賞賛する物を素直に受け入れてしまうから。
だから自分が見守らなければならない。
間違えたものを彼が受け入れることが無いように。

それが彼を弟子にした己の責務。

志貴が道を間違えてしまったらなら、世界が彼を止めに来るだろう。
それだけの力を志貴は持っている。
だから間違えさせる訳には行かない。
己の名に賭けて。

「まぁねぇ。それじゃ行こっか」

志貴の手を引き、歩き始める。
志貴も調子を取り戻し、元気よく付いてくる。

これなら心配いらないだろう。
私は少し安堵しながら歩きつづけた。










「先生。物凄く寒いです」

志貴が私のコートの中にもぐりこみながらそう言った。

まぁ当然だろう。
こっちは日本と違って寒い時は極端に寒いし、ましてや着物一枚で凌げる寒さではない。

「先生。ぼくが悪いんじゃないですよ」

どちらかと言うと先生が悪いと思います。
そんなことをほざいたからコートから蹴り出してやった。
志貴が居なくなった分寒くなってしまったが、追い出されたほうは更に寒いだろう。ざまあみろ。

「ぼくが悪かったです。だから入れてください」

志貴がとても悲観な声を出したからしぶしぶといったふうに入れてやった。
うん。やはり暖かい。
なんで小動物ってのはこんなに愛くるしいのだろう。

あ…そうそう。
私達は今、イギリス連合大国の首都ロンドンにいる。
幸運なことに、初めての海外と言うのに志貴は時差ぼけしていない。

「それでどうするんですか?」

暖を確保でき、心に余裕が出てきたのか本題を切り出してきた。
心の中でもう少し虐めてやればよかったなぁとか思ったりもするが、私もこんな寒い所に長居したくない。

「これから協会の私の部屋に行くわ」

だからまずは本拠地に行くことにする。
これから志貴と私の住処兼、鍛錬場となる重要なところだ。
それに魔術師の工房を志貴に一番に見せてやりたい。

「早くしましょう。凍死しちゃいそうです」

今はこうだが、志貴も活発な子供だ。
きっと興味津津で見て回るだろう。それがとても楽しみだ。

と言うより私も甘い。少し前までなら自分でも考えられないぐらい甘い。
これが良いことなのかは正直微妙だ。
でも今が楽しいからそれはそれで良いのかもしれない。
だから感情を殺すなんて無粋なことはしない。
志貴と共にいる時は精一杯日常を謳歌しよう。


そんな事を考えているとハイヤーが通りかかった。
手を上げ、それを止める。
ドアが開くと、志貴が嬉しそうに跳びこみ、私はそれに続いた。

「ロンドン塔までお願い」

もちろん時計塔時計塔協会時計塔のことではない。
だか当たらずとも遠からず、協会もその通り名である塔の近くにある。

運転手は観光かい?と気さくに話しかけてきながら車を出した。

初めて見る外国の景色が物珍しいのか、志貴が窓に貼り付いている。
それを見た運転手が私に通訳を頼みながら、それぞれの名所の説明をしてくれた。
志貴は一々お礼を言いながらその説明に聞き入った。

時計塔に着き、運転手にお礼を込め多めにチップを渡す。
運転手は良い旅を。と笑いながら走り去って行った。

「良い人でしたね」

志貴が笑いながらそう呟く。
…なんか目的を忘れてない?

「それで協会ってどこにあるんですか?」

そう思ったのも束の間、志貴はしっかり覚えていた。
むしろ今まで以上にやる気を出している。
きっと日本と違う雰囲気の国に魔術のイメージを重ね、興奮しているのだろう。
倫敦はこの雰囲気だけで何か神秘がありそうな気がするから無理も無い。

「すぐそこよ。付いて来て」





そうして今、私の工房で向かい合っている。

「とりあえず志貴に質問があったら先に言ってちょうだい。説明する前に知っておかないと混乱するでしょ?」

今から魔術協会について簡単に説明するつもりだが、その前に色々答えてあげなければいけない事も多い。
例えば私の正体。空港で会った魔術師に魔法使いと呼ばれた事は聞いているだろうが、それだけではわからないだろう。

「先生ってどういう人なんですか?普通の魔術師ってわけじゃないと思うんですけど」

予想通り魔法使いの意味を訊いてきた。

「魔法使いって事はあの魔術師が言ってたわよね?」

志貴が頷く。自惚れかもしれないが、知りたがっていた正体を教えてもらえることを喜んでいるようだ。
普段は嫌悪と言って良いぐらい嫌なのに、志貴に訊かれると何故か嬉しい。
我ながら物凄い現金さだと思う。

「魔法使いとは魔法を操る者を指すわ。魔法は魔術と似たようなものだけど、大きく異なる物。
前に魔術についての説明があったでしょ?実はそれに一つ加える必要があるの。
魔術とは時間をかければ人の手で実現させれる神秘を指す。
例えば火をおこす事。これはライターがあれば誰でも簡単に実現可能でしょ?
それに対し、魔法は今の人の手では実現させる事が出来ない神秘を指す。
残念だけどこれには例を出せないわ。
魔術にも通じる事だけど、基本的に神秘は秘匿するからこそ神秘と成り得るの。
だから私の魔法も志貴には話せない。ごめんね」





うむ…難しい。
今の説明を受けて、感想はそれだけだ。

内容は漠然としか掴めないが、先生が凄い人なんだということがわかった。
まぁ今はそれがわかっただけでも僥倖と見て置くべきだ。

「他には無いの?」

先生がどんな人なのかわかれば、他の疑問はそんなに急ぐ必要が無い事ばかりだと思う。
それらは先生の説明の後で良いだろう。
あ…でも、あと一つ今訊いておきたい事がある。

「魔術協会ってなんですか?」

今自分が居る場所が何なのかを知らないでいる事は危険だ。
何でもない一般の場所なら警戒する必要は無いが、ここは魔術協会と言うぐらいだから、魔術師の協会なんだろう。
そこに無防備で居ることにぼくの勘が警鐘を鳴らしている。

「それは私が説明しようとしたことだわ」

先生は丁度良いと言わんばかりに説明を始める。

「でもまぁ説明する必要も無いかな?要するに、先も言った通り魔術って秘匿するのが常識でしょ?
だから散らばってるより集まっていた方が隠すのが楽だし、もしばれても事後処理が楽になるって理由で集まっただけ。
 魔術協会なんて名前は後付けみたいなもんよ。きっと」

との話だ。
ぼくが聞きたかった事と細部がずれているんだが、それを気にしたら負けだろう。

先生の話から察するに、魔術協会とは魔術を隠匿するために自然と出来た集まりなのだろう。
その後で制約や、階級などを決めて組織にしたのかもしれない。

しかしここで問題になるのは先生だ。
先生は魔法を使えると言っていて、先生の説明からするに魔法とは本当に希少な物だと思う。
それならば先生は魔術協会でどこらへんの地位にいるんだろう。
それによってぼくに振りかかって来る火の粉の量も違う。
ちなみに上に行けば行くほど量が多くなるのは必然だ。

「先生も魔術協会に所属してるんですよね?」

何を今更。と怪訝な顔をしながらも頷いてくれる先生。

「どのぐらいの位置にいるんですか?なんか魔法使いって偉いような響きがあるから…」

ぼくがそういう事を気にするのが可笑しかったのか先生が笑った。
そしてぼくの質問に答えようと口を開けて、そこで止まる。

「意外と難しいわね…答えにならないけど、今この世界に魔法使いは五人いるわ。正確に言うと四人だけど、それは気にしないで。
魔法使いは"根源"に辿り着いた者達の代名詞みたいなもの。そして全ての、まぁ例外もいるけど、魔術師は根源を目指す。
そう考えると、私たち魔法使いはトップなのかしら?でも学長とかは普通の魔術師だし、よくわからないわ」

つまり魔術師はその"根源"と言う物を目指し、辿り着いたら魔法使いになれるという事か。
そして今魔法使いは五人。その内の一人が先生…ん?

「それって凄いことじゃないですか!?
 普通に考えて世界で五指に入る魔術師ってことですよね?」

自分の幸運を喜ぶ。
そんなに凄い魔術師が師なら才能が薄いと言われたぼくでもちゃんとした魔術師になれるかもしれない。
そんな夢と共に先生を見つめる。

しかし先生は苦笑いをしながら首を横に振っている。
頭に手をやり、実に恥ずかしそうに白状してきた。

「わたし魔術の腕はひどいから。魔術師に例外がいるなら、魔法使いに例外がいてもおかしくないでしょ?
 と言うか魔法使い自体が既に例外だから」

なんか空恐ろしい事を言っている気がしてならない。
しかしまだそうと決まった訳ではない。
魔法使いの基準から見たら下なだけで、一般魔術師から見たら雲の上の御方なのかもしれない。

こういう夢想をしている時点で諦めている自分がいる事を自覚してしまうが、それは気合で捻じ伏せた。

「酷いってどれくらいですか?」

神に祈り(志貴は知らないが協会では御法度の行為をし)ながら訊いてみる。

「んー志貴といい勝負できるかもね」

そんなレベルの低いことを意気揚揚と言ってきた。
きっと先生にとっては初めて見た"同じレベル"の魔術師なんだろう。

きっと今まで、どんなにひどい奴でも自分より魔術の腕はあったんだろう。
だからわかる。同類を見つけた時の、その喜びは…

しかし、しかしだ。
ぼくはこれから魔術の修練も積むつもりだった。
それなのに師がいないとなるといったいどうすれば良いんだ。

「あのね…志貴。
私魔術は駄目だけど、魔力の扱いは世界一の自負を持ってるのよ?
そして志貴に大切なことはは魔術じゃなくて魔力操作でしょ?
志貴の場合、魔術はいくら学んだって効率が悪いんだから。魔力の操作を極めれば随一の強化の使い手になれるわよ」

考えていることがそのまま顔に出てしまったらしい。
先生は機嫌悪いですって顔を隠さずにそう説明してきた。

悪いことをしてしまった。

「ごめんなさい。でも安心しました」

やはりぼくは幸運らしい。
先生は偶然なのか必然なのか、ぼくが学びたいことに長けている。

そして先生は魔術が苦手。

ぼくに境遇がそっくりだ。
それならぼくにも魔力の扱いを極める事が可能だろう。
もちろんそれは人並み以上の鍛錬の元に生まれる技量。
軽く見るつもりは毛頭無い。

しかし達成地点が薄っすらとだが見える。
それだけでも心の持ち様が全然違うものだ。俄然やる気が出てきた。

「やる気出してくれるのは嬉しいけどそんなに張り切ると続かないわよ。
 結構な長丁場になるんだから、それこそ三年四年は当たり前なぐらいの。だからリラックスして行きましょ」

先生はそう言うがやはり気を引き締めるべきだ。
ぼくは一分一秒でも早く力が欲しい。

「だからそんなに力まないでよ。
 魔術ってのは精神に染み込ませないと意味無いのよ。がちがちに固まった粘土に水が染み込むと思う?」





…もっと早く言って欲しかった。

でもまぁぼくの魔術修業もなんとかなりそうだ。
不安なんて微塵も無い。

だから少しでも早く力をつけたいと思うのはもう止めよう。
その焦りこそが最大の邪魔なんだから。





大丈夫。あの先生が保証してくれるんだ。
何を心配すれば良いのか見つからないだろ?

だから落ち着け。
そして徐々に強くなればいいじゃないか。

「よし。良い子ね志貴。先生がしっかり教育してあげるからドーンと任せなさい」

うんうんと何度も頷かれると、今の一言で不安になってしまったなんて口が裂けても言えない。

「よっしゃぁぁぁぁ!俄然やる気が出てきたし、早速始めるわよ志貴!!」

妙なハイテンションの中、こうして僕の魔術修業が始まった。












始めての後書き

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