「さて、それでお前さんはどうするつもりなんだ?」

「知れたこと、野暮な質問をするな」

その一言を言い残し、男は帰った。

ソレが儂−時南 宗玄−が奴−七夜 黄理−を見た最後の姿であった。

 

「新月ニ飲ム」

 

0/序

儂と彼奴との出会いは幾分か前に遡る。

なんてことは無い、ケガをした奴の治療をした、ただソレだけの出会い。

奴には感情らしい感情など無かった。

その特異な生まれ故、特異な環境故に、

感情など一切不要であった。

奴を一言で表すとしたら殺人機械。

一片の無駄も無く

ただ「殺す」ことに特化した存在。

儂の処に治療に来るのも仕事を冷静にこなす上での調整にすぎないであろう。

 

1/愁

「そして機械は人間の心を手に入れた・・・か」

独り呟く。

奴と話すことはもう無いに違いない。

もう仕事をすることなどはなく、ただ隠れ生きるモノになったのだから。

儂との接点なぞ、もうどこにも無い。

しかし、機械が人間の心を手に入れて果たして幸せなのだろうか。

少なくとも断言できるのは、彼奴の場合は不幸としか言えないこと。

当主が仕事をしない、ということは七夜と退魔組織との繋がりが弱まったことを意味する。

黄理の有能さが故に後ろ盾の無くなった七夜は排除されるだけだ。

次期当主が、また退魔に組する可能性は否定できないのだから。

まぁ、七夜は優秀であるから安易に襲われることなど無かろう。

とはいえ、黄理は人間の心を得るには遅すぎた。

当主となってしまったのだから。

子を生し魔を狩るのを止めるのが当主になる前であったのなら個人で止めるだけすんだものを・・・。

 

2/ 想

そして儂は独り酒を飲む。

魔と退魔の駆ける漆黒の刻に。

この閑に独り酒を飲む。

凍てついた大地に腰を降ろし。

上天を仰ぎ独り酒を飲む。

月は無く星の弱き光が瞬く空を。

或る哀れな男を肴に酒を飲む。

これは告別の宴。

杯を注ぐ音のみ響く静かなる宴。

甘い感傷は無く、今生にての別離のみ語るのみ。

そこにいるのは儂独り。

唯一七夜以外で奴を弔う者。

其は義理としか言えないような関係なれど・・・

 

3/終焉・・・そして開幕

七夜の里が滅びたのはソレから6年後のことであった。

儂の患者といえる遠野が滅ぼしたというのも、また縁というものであろう。

さて、聴いた話によると奴の息子はいみじくも遠野本家の息子と同じ名前らしく、

ソレを面白がった槙久が引き取ったということだ。

神というものが存在するならよほど冗談というものが好きだと思われる。

なんという−−−−−−−偶然。

コレは何かあるであろう。

さて、その物語では儂は一体どのような役割であろうか。

七夜黄理という暗殺者の物語では、傍観者であったこの儂は・・・。

そう思いつつ酒を飲んだ

 

To be continued

"Blue Blue Glass Moon, Under The Crimson Air"

This Story is Another Side of

"Red Lion"