ここはとある大陸の末端、地図の上に記されていない場所



周りにあるのは荒野



土と岩



そんなものしか見当たらない



そんな場所にそれはあった・・・













・・・・・巨大な、白い城。












  
氷月


〜序章:白の騎士〜









あまりに不釣合いな・・城、




その城を前に一人の男が立っていた。




手が見えなくなるほど袖の長いカトリックの聖人服。




頭には青いローブで覆ったシスター帽のようなもの。




そしてその顔には、




額に十字架の描かれた




白い・・・仮面。




屋敷も不自然極まりないが男も負けじと不自然だった。









――――――――――――「何か用かい?」




突然かけられた声に驚くこともなく仮面の男は声の主を見た。




仮面の男と城との間に"そいつ"はいた。




先ほどまで"誰もいなかった"その場所に




歳は20前後、中世の貴族を思わせる白を貴重とした服、腰にはサーベルらしきものをつけた長い金髪の男。




城の存在が御伽噺なら、絵に描いたような『王子様』そのものだ・・・




「見たところ埋葬機関の者のようだが―――――
 我が主に何か御用かな?」





人を小馬鹿にするような口調で男は尋ねた




「・・・・・・」




仮面の男は無言で背に装備されていた二振りの短刀を取り出す。




「おやおや?
 なんだいそれは?
 危ないじゃないかそんな物だしちゃあ」





金髪の男はおどけたように言う・・だがその瞳は全く笑っていない・・




「・・・・・・」




仮面の男は無言で歩き出す




「――――無視かい?
 それとも口が利けないのか?
 ・・・」





金髪の男の口調が低くなる。




「・・・・・・」




仮面の男はただただ歩いてくる。




「貴様・・・私を"白騎士ヴラド"と知っての狼藉か?」




ヴラドと名乗った男が右手を上げる。




同時に仮面の男の前の空間が一瞬"ぶれた"




そして次の瞬間、


仮面の男の目の前に10体の「骸骨」が生まれる。




ボロギレを纏い手には錆付いたサーベルを持った長身の「骸骨」。




そんなモノが突然目の前に現れたにもかかわらず仮面の男は驚いた様子もなく、ただ前進する。




「まったく・・・・・どこまでも馬鹿にしてくれる・・・!
 分をわきまえろ・・下郎」





静かな罵声とともに10体の骸骨が地面を蹴り、仮面の男を囲む。




だが、四方を囲まれたにも関わらず、仮面の男は相変わらず身構えもせず歩いてくる。









さて・・お手並み拝見といこう――――――――









ブラドは達観しながら思考する。




もとより10体の骸骨・・・"幽霊船団"など捨て駒である。




ようはただの余興、相手の力及び武器を図るための布石でしかない。









「kaAAAAAAAA!!」




それが声なのか、ただ骨が軋んだ音なのか、骸骨たちは一斉に男へと肉薄する。




――同時に仮面の男の両手も動いた。









「!!!」




ブラド繭を寄せる。




「なん・・だと・・!?」




刃渡り30CM程度にもみたない短刀に"突かれただけ"で、


四方から同時に仕掛けた幽霊船団が、一つ残らず"消滅"したのだから・・。




「・・・・・・」




何も無かったかの様に再び歩き出す仮面の男




ブラドは即座に相手の戦力を『危険』と判断した。




幽霊船団とは、自身の生み出す「世界」より「召喚」した雑兵・・・


"この世界"に具現化し戦力とするが、特にこれといった再生能力もなく、物理攻撃によって破壊することも可能。


だが、今行われたのは『破壊』ではなく『消滅』だ。


文字通り、船団は欠片も残さず消え去った・・・


―――――――概念武装か・・?


確かに、「船団」の存在する「意味」を根本から破壊する埋葬機関の有する概念武装、
または対吸血鬼用の退魔処理の施された特殊な武器ならば
可能かもしれない。


だが・・・自身の知識の中には"斬撃"のみで相手の『意味すら消す』ような都合のいい概念武装など存在しない・・・




――――新たな概念武装を持ち込んだというのか・・・


それが一番理にかなった解答・・・だが所詮は『予測』の範囲内でしかない・・。




「なかなかやるじゃないか、人間・・!」




自分の手駒を失い、相手の能力も分からないもかかわらず、ヴラドは余裕の声だった。




そう、どんなにがんばっても相手はしょせん"人間"。




そして何より・・ただの一匹でのこのこやって来たのだから――――!!




「では―――これはどうかな?」




言葉ととも後方50mほどまで一気に跳躍する




「さあ、我が手の中で踊り狂うがいい!! ―――来たれ、海の露と消えし兵(つわもの)どもよ!!」




リィゾが両手を振り下ろす、同時に仮面の男の周囲の空間"全てがぶれた"―――――――――――




次の瞬間現れる、骸骨の群れ。




いや、群れと言うよりはそれはもはや「軍隊」。




そして何の冗談か、大量の骸骨軍団の後ろには・・・









宙に浮かぶ・・巨大な"海賊船"7隻・・・




どこかのSF映画のような風景・・・仮面の男の視界には幽霊船団以外、もはや空しか映らない。




「くくく・・・・さぁ、いつまでもつかな? 我が"海賊団"は少々乱暴だよ?」


中央の海賊船に乗ったブラドは悠々と右手を上げ、試合開始の合図を送る。同時に地を蹴る無数の骸骨船団。


瞬時に仮面の男を囲んでいた輪が小さくなる。




「・・・・・」




そんな状況にもかかわらず仮面の男はただ、ブラドに向かってゆっくりと歩いてゆく。




骸骨船団と仮面の男の距離が1Mを切ったとき、




仮面の男の両手が―――――――――――









動いた。









音もなく、ただ銀の軌跡をのこし、奔る。




「な・・・・・・・・・・・・!!!!」




ヴラドは言葉を失った。




仮面の男を射程距離に捕らえ振り下ろされる、4本の錆びた剣。


それが、仮面の男に触れる直前、塵になり消えた。


いや、正確には、消えたのが3本。もう1本は触れる直前に切り落とされていた。


そして、瞬きをするまもなく銀の軌跡が煌く。


次の瞬間、仮面の男をかこんでいた4体も突如、塵となり「消滅」した。


その後ろから迫る船団も同じ運命をたどっていく。


攻撃する/当たる寸前に消える。


攻撃する/当たる寸前に切り落とされる。





どちらにせよ、騎士の攻撃は当たることは無かった。





「やっかいだな・・」





誰に言うわけでもなくヴラドはつぶやいた。


仮面の男は歩き続ける、四方からの攻撃をすべて「切除」、または「消去」しながら。





歩く、斬る、歩く、斬る、





其の繰り返し。


だが着実にヴラドに近づいていく。


――――――物質を易々と切断し、消滅させる!?


―――一体どういう仕掛けだ・・??




「く・・・、1番から4番! 砲撃(ファイア)!」
ヴラドの号令と共に轟音が響き渡る。


海賊船の大砲が火を吹いたのだ


ドゴォオオン!!

ドゴォオオン!!




数十体の船団を巻き込みながら、巨大な質量の『弾』が地面を抉ってゆく。


だが・・放たれた大砲は、どれも標的を捉えることはなく


仮面の男は平然と爆煙の中を歩いてくる・・・


「・・・か・・・かわしたのか・・?!
く・・! 全砲門開け(フルオープン)!」



7隻の海賊船の砲門が開かれる


「消えうせるがいい!! 一斉掃射(ファイア)!!!」




ドンドンドンドンドンドンドンドンドォォオン




27祖中、随一の火力を誇るヴラドの固有結界"幽霊船団"『パレード』


かつての魔城の中でも最大級のゴーレムを屠った大砲の嵐が仮面の男に降り注ぐ



「・・・・・」



砲撃と同時に仮面の男の体が爆せた・・・


地面すれすれまで体を倒し、一息に"最大速度"へと移行したのだ・・・



「な・・・に・・!?」



その異常なまでの速度変更。


残像を残し、仮面の男は一条の矢となった。


ドガガガァッァァアアアアアン!!!


仮面の男の後方で爆発が起こる。


先ほど放たれた砲撃が着弾したのだ。


砲撃と同時に跳躍し、砲撃を避ける・・・・つまりは・・



「た・・大砲の弾よりも速いだと・・・!? チッ・・連続掃射!!」



今まで冷静だったヴラドが顔をしかめる。


ドンドンドンドンドンドンドンドン!!


次々と放たれる砲撃の嵐。


だが、どれも一つとして仮面の男を捕らえることができない。


海賊船団だけが、まるでガラクタのように吹き飛んでいくだけ・・・・


仮面の男は全く速度を落とすことなく、船団を"消し"ながら疾走する。


ヴラドとの距離が10m近くまで狭まる。



「急速上昇!!」



号令と共に海賊船が上昇を始める。



―――いくら優れたる戦闘能力があろうとも・・・上空の敵を落とせはすまい!!!











そう・・相手が自身と同じく、巨大な船をも落とす火力があるのならば・・・・・・・・




















トス・・・











聞こえたのはそんな音。



軽い・・音・・・・。





























「――――――――は?」
















ヴラドは一瞬、自身の置かれた状況が理解できなかった。









真下から吹き抜ける風。









景色が上へと流れていく・・・・









つまり・・・・・




















―――落下している!?







「なんだ・・と!?」






その驚きは当然だ、


自身が今まで足場としていた海賊船が突如"消滅"したのだから・・・・






視線を降ろす。





そこには、


こちらに向かい、右手を掲げている仮面の男。


その右腕の袖口からは白煙が上がっている・・・



「・・・! 隠し武器・・!?」



間違いない・・・・


奴は『アレ』で自身の乗っていた海賊船を消滅させたのだ・・・・・






だが・・それはあまりにも・・・・・






「――――馬鹿な・・・!! 小型の飛び道具ごときがグングニル並の威力を持つというのか!?」





ありえない武器。



「・・・・・・・・」





ドキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ!!!!!!





仮面の男の袖口の銃口が火を吹く。





「く・・・! "―――汝等が剣、全て我のために・・・・ナイツ(騎士よ)!!!"」



瞬間、ヴラドの目の前の空間がぶれる・・




キキキキキィイィィン!!




甲高い金属音。


ヴラドの目の前に現れた"ソレ"は、自身の体を持って、仮面の男からの攻撃から主を守ったのだ。



身長のほどは180cm、その全身を覆う真っ白な全身鎧(フルプレート)。




固有結界・・・"幽霊船団"を超える"幻想騎士団"






ヴラドはやっと、目の前にいる相手を現段階における自身の最大の障害と認識した・・・・



































だが・・・・それは、あまりにも遅すぎた。








ドキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ!!!!!!!





再び火を噴く仮面の男の武器。










それは・・・『初弾』で騎士を消滅させ、残りは全てヴラドの体へと容赦なく襲い掛かった。








ドスドスドスドスドスドス!!!!




「―――か・・・ぁ・・」






ヴラドに落ち度は無い。


自身の盾として幻想騎士を瞬時に使用したことは賞賛に値する。


だが、いかんせん、自身の状況が"落下中"ということが最悪だった。


いかに優れたる身体能力を有していようとも、翼の無きモノに空中での回避行動は不可能。


幻想騎士を地上にも具現化させ、仮面の男に攻撃を仕掛けていれば、
あるいは無事に着地できたかもしれないが――――







ドスン!!



「がっ―――!?」



20m近い高さから、受身も取ることが出来ず無様にも背中から地面に激突する。



落下から激突までの約3〜4秒の抗争、軍配は仮面の男に上がった・・・



「ぐ・・・」



自身の体を見る。


体のいたるところには・・10cmほどの銀の針が刺さっている。



「聖水で清めた銀の針・・・!? ・・・・・舐めた・・真似を・・・」



銀と聖水・・・・・、古来より吸血鬼を倒すための武器として有名なそれ・・・


だが、ヴラドほどの上級の吸血鬼となれば、その効果は激減する。


激減するが・・・・・・・




体に計100本以上も打ち込まれれば別である。




そこでヴラドは気づいた――――






自身が――――――






震えていることに。






「人間・・・ごときに・・・・・私が・・・」






茫然としつつ歩み寄る相手を見る。



1000体以上もの船団を物ともせず、



降り注ぐ大砲の嵐ですら『無傷』で潜り抜け、



自身の最高傑作たる幻想騎士すらも一撃の後に屠った次元違いのバケモノ。







このバケモノが一体どんな獲物を持ってして自身の攻撃を無力化したのかはわからない。



あの針で海賊船を消去したのなら、何故自身はまだ存在しているのか・・・・



全く・・理解できないのだ・・・・



――――――ここまでか・・・・





ゆっくりと目を閉じる。







―――――――――姫を頼んだぞ・・・相棒<リィゾ>・・・・・























「"幕は―――悲劇にて、終幕とする――――――"」











ドゴォオオオオオオオン!!!



ズガァァアアアン!!




「・・・・!」



上空で起こった爆音に、目をやる仮面の男。



残った6隻の海賊船が、突如炎上し始めたのだ。
































「"フィナーレ"」








それが合図。


6隻の海賊船は炎上しつつ、ありえない速度で旋回し、仮面の男へと特攻を開始する。



























だが・・・白騎士の最後の攻撃すら、この男の前には無力だった。




どこから取り出したのか、両手には計8本の投擲用ナイフ。




それを、回転しつつ迫り来る海賊船へと投擲する。




・・・・・それだけで




自身に迫り来る、6隻の巨大な船を消し去った・・・・・・









「ふ・・・」





「ふふ・・・・」





「あは・・・・は」







「あーはははははははははははははははは!!!!」



ゲラゲラと、涙を流しながら笑う。




―――おかしい。




「はははははははははははははは!!!」




――――――これが笑わずにいられるか・・




―――――――――人を越えた吸血鬼・・その中でも頂点とされる27祖




―――――――――その中でも白騎士とまで言われる私が・・・












―――――――――――――――たかが人間に、手も足も出ないのだから・・・・・・













「はは・・ははは・・は・・・」




自身の目の前には死神の鎌を振り上げた代行人。




静かに・・・その鎌は振り下ろされた。



















「バケモノめ・・・」




トス









自身が感じた素直な感想を最後に、白い騎士は長かった舞台に幕を下ろした。








to be next

























<あとがき>

す・・すまねぇフィナ・・!!!

そしてやっちまったよ新連載・・・・・

饗宴と一緒にやっちまったよ・・・

・・・まぁいいか・・・・(ぉおい!

努力!根性!勇気と妄想!

これを糧にがんばるぞ〜〜〜。

次の掲載は遅いですからね〜、気長に待っててください(土下座)