ギィィィ・・・・


重苦しい音とともに扉が開く。


一歩足を進めればそこは別世界。


眼前に広がる大ホール。 天井には巨大なシャンデリアが飾られ、大理石の床には赤い絨毯、部屋の隅には芸術品とおぼしき装飾品。


まさに・・・絵本に描いたような城。


その中をこれまた不釣合いな者が一人歩いていく。


足音もせず、その気配も皆無――-―。



唯感じられるのはにあるのは―――――――――――――






――――――漠然とした「死」の気配。




氷月 〜序章(後編):黒の姫〜

「・・・・・・・・」 周りの芸術品には目もくれることなく、ただただ仮面の男は歩いていく。 「・・・・・・・・」 長い廊下を抜け、扉を開く・・・・ 玉座へと続く、その扉を――― ギィィイイ・・・ だが、扉はまるで男を迎え入れるかのように、自ら開いていった。 「・・・・・・・」 無言のまま、仮面の男は歩を進めた。 「そこで止まれ、教会の狗よ」 静かな、美しい声に足を止める。 目線をその声の主に向ける。 陶磁のような白い・・白い肌。 胸元を大きく開いた、ゆったりとした漆黒のドレス。 その漆黒すらも飲み込みかねない、黒い長い髪。 絶世とも言える、整いすぎた顔。 そして・・・・ 宝石のごとき、真紅の瞳。 27祖が第9位にして死徒の姫。 赤と黒、血と契約の支配者。 ―――――――アルトルージュ=ブリュンスタッド 「・・・先ほどの我が騎士との一件、見せてもらった・・・・」 静かに語る・・・だが、その声には少なからず恕の感情が含まれている。 「フィナを殺した時点で、貴様は妾の敵と断定した・・・。  殺す前に問おう、何の真似だ、教会の狗よ。  今になってこの世のバランスを崩して何になるのだ?」 そう・・・今回の埋葬機関の強行は異常だ。 この世の裏社会・・・・主に吸血種によって成り立っているそれ。 黒の姫、アルトルージュ 死徒の王、白翼公 神の代弁者、埋葬機関 この三つの勢力が互いに睨みを利かせているからこそ成り立つ微妙なバランス。 それをいきなり崩すとは・・一体どういうことなのか・・・・ 「―――それは、お前が気にすることではない。 黒の姫よ」 仮面の男から発せられた声。 それは明らかに女性のものだった。 「―――ナルバレック・・・」 苦虫を飲んだような顔つきで男を睨むアルトルージュ。 「もう一度問おう、貴様・・なんのつもりだ・・・・?」 「なんのつもりも何も・・・ただ・・・・・」 「貴様が目障りなのだよ・・・・・・・・失敗作(できそこない)」 右手の中指を立て、無骨なまでの殺気を撒き散らしながら言い放つ。 ・・・と同時に、右足をずらし、体を捻る。 キュバン! そして、その部分を間髪いれず抉る黒い閃光。 「姫への無礼は許さんぞ・・・第一司祭・・!」 アルトルージュの傍らに立つ黒い服装の男がいつの間に抜刀したのか、手には黒い剣を握り締めている。 睨んだだけで人が殺せそうな目つきで仮面の男・・ナルバレックを睨みつける。 27祖第6位、黒の姫が騎士にして黒の騎士。 時の病に伏せし、永劫の咎人。 リィゾ=バール=シュトラウト 「あいかわらずの過保護ぶりだな・・・死にぞこない(リィゾ)」 フンと鼻を鳴らしながら、その男を罵る。 「リィゾ・・・よい。 ・・下がれ」 「・・・御意」 剣を納刀し、再び膝をつく。 だが、ナルバレックには変わらない殺気を放ち続ける。 「妾が気に入らぬことはもとより承知している・・・。  まさか・・真にその程度の幼稚な考えでここに参ったのか・・?」 「・・・・まぁ・・確かに、その考えも理由の一つだが・・・」 「なぁに、単純に"塵どもを一掃する力(貴様等を殲滅しうる戦力)"を得た・・・時は満ちた・・ということだ」 なんてことは無い、といわんばかりの態度で答えた。 「ほぅ・・・・・」 ――――――瞬間、世界が反転する。 温度が急激に下がったかのような錯覚。 静寂を・・さらなる静寂で塗りつぶしていく。 異質なまでの殺気がアルトルージュから噴出しているのだ。 「では・・最後の問いだ・・・。  まさかとは思うが・・妾を殺すことが・・祖奴一人で可能なのか・・・?」 「あたりまえだ・・むしろ・・・"十分すぎる"くらいにな・・・」 一部の迷いも無く、答えた・・・・ 「よくぞ申した。 ではその愚考、死の淵にて考え直すが良い」 そう言い放つと同時に、アルトルージュの傍ら・・・リィゾの反対側に鎮座していた白い獣が、その鎌首を持ち上げた・・ 「人に越えられぬ壁・・・とくと味わうが良い・・・プラミツマーダー」 白い獣の目が開かれる。 人には決して倒すこと適わぬ大地の精霊。 人類を敵対視する世界の意思。 こと人間に絶対的な"殺害権利"をもった白の獣。 27祖が第1位、"絶対王権"をもつ霊長の殺人鬼、プラミッツマーダー。 それに対峙した人間は、何の抵抗をすることも出来ず、ただ一方的に殺されるだけ・・・・ これこそが、埋葬機関がおいそれと黒の姫君に手を出せない最大の理由だ。 つまり・・これさえ居なければ、アルトルージュは決して倒せない敵ではなくなる・・・。 「馬鹿が・・・、何の対策も無く私が動くわけが無かろうが・・・」 仮面の男の手には、どこから取り出したのか、一冊の"聖書" 「愚考はどちらだったか・・・思い知れ・・・」 そして・・ゆっくりと唱える。
「"L=NAHATO"」
呟きと同時に、聖書が淡い光を放つ。 「ZAAAAAAAAAアアアアアアアアァ アァァァAAAAAAA!!!」
「何!?」 ところどころを"銀の杭"で十字架に打ち付けらた紫色のやせ細った体。 そして、その目には皮製の眼帯・・いやベルトらしきもので拘束されている。 光を纏い、突如現れた”ソレ”にアルトルージュの瞳が大きく開かれる。 「馬鹿な・・・胃界教典(エル・ナハト)だと・・!!」 リィゾが信じられないという風に叫ぶ。 「いかん・・・姫!!!」 アルトルージュを庇い、前に出る。 だが・・・・・・・・・ 「馬鹿が・・・・狙いはそんなものではない」 標的は、黒の姫ではなく――― 「"固有結界強制発動"」 十字架に貼り付けられていた男の眼帯がはじけ飛ぶ。 「対象―――『霊長の殺人鬼』 "共に分かつ死の呪い"、発動」 ナルバレックの言葉と共に、貼り付けにされていた男の毒毒しく輝く真紅の眼が プラミッツマーダーを捕らえた・・・・ 「ギュああAAAAAあああああぁぁぁぁぁぁアアアあァアァああああああ!!!!」 おぞましい咆哮。 同時に、プラミッツマーダーの真下に赤い魔方陣が浮かび上がり、赤い球体がその体を覆う。 「はははははは! 120もの折り重なる多層結界の"対消滅"・・・味わうが良い、ガイアよ!!!」 ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ・・・・ 「ガァアア!!?」 白い獣の姿が見る見るうちに消滅していく。 「プラミッツマーダー!!」 アルトルージュの悲痛な声が上がる。 「ぬん!!」 気合と共にリィゾがマーダーを覆っている球体に斬りかかる。 キィィン 「っく・・・!」 だが、鋼鉄をも豆腐の如く切り裂くその剣でも、球体には傷一つつかない。 「くく・・無駄だ、120もの多層結界・・・私のグングニルでも破壊はできんのだからな・・」 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ・・・・・ そうして・・・・霊長の殺人鬼は何も残すことなく・・無へと還っていった。 それと同時に・・・貼り付けにされていた男・・エル・ナハトの肉体も まるで焼死体の如く焼け焦げてしまっている・・・・・。 固有結界”共に分かつ死の呪い”デッド・パートナー 120という桁違いな数の結界、力場をそれぞれに”相反する力”で発生させ それによって起こる”対消滅”を利用した”莫大な反作用の起こる空間”に相手を捕縛する魔術。 その威力は、物理的、精神的にも強大であり、相手が例え”霊体”であろうとも完全に崩壊させる。 だが使用するエル・ナハト本体の魔術回路を焼き尽くしてしまうため、 その儀式スペルには自身の”再生”の呪詛も含まれており、10年という 長い年月の末、体を再構築することが可能。 だが、『魂を縛る十字架』に捕縛されているため、教会の手から逃れること適わず。 現段階における”切り札”として封印という名目の元、”保管”されている。 「・・・次の使用は十年後・・か。 まぁガイアを屠れたのだ・・よしとしよう」 ぼろぼろになったくエル・ナハトを見ながら呟く。 「さて・・・失敗作(黒の姫)に、死にぞこない(黒騎士)・・次は貴様等が逝く番だ・・」 「貴様が逝け!!」 奔る黒い閃光。 「フン・・・」 それを横へのステップで避ける。 同時に、大理石の床に縦一直線の綺麗な亀裂が走る。 「魔剣ニアダーク・・相変わらずの無節操さだな・・・。 だが黒騎士よ・・お前の相手は私ではない・・・・"コレ"だ」 手で自身の胸元を叩く。 「くくく・・精々、懺悔の言葉くらい考えておくのだな・・・・"SERAFU!"」 ナルバレックの人格が消え、男の・・本来の"兵器として"の人格が浮上する。 「ほざけぇ!!」 リィゾが再び剣を振るう。 男との距離が10m以上もあるに関わらず・・・・ ガキィイイイン 仮面の男・・・セラフは"ソレ"を短刀で受け止める。 リィゾの握っていた剣・・"10m以上も刀身が伸びた"ソレを・・・・ 伸縮自在の魔剣"ニアダーク" 使い手の意志力により、その刀身を無限に伸ばすことが可能。 固有結界を持たないリィゾの獲物とする"レンジ無制限の剣"である。   「ぬ・・・! 貴様の武器・・・魂食らい(ソウルイータ)か!?」 セラフの持つ短刀を目にリィゾが言う。 魂食らい"ソウルイータ" 物騒な名前どおり、対象の魂を削り取るというおぞましい武器。 元々魂食らいとは幻想種の中で魂を糧とする"ソウルイータ"の『魂を噛み砕く牙』を研いで作られた 概念武装の一つである。 だが解せない・・・・アレでどうやって相手を"消滅"させたのか・・・・ 先ほどの戦いが脳裏に浮かぶ。 片っ端から容赦なく"消される"骸骨船団。 ソウルイータの持つ能力は『魂を削ぐ』であり『意味を消す』などという効力は持っていないはず・・・・。 ――――――この男は不可解な部分が多すぎる!! 「はぁぁあああああ!!!」 黒い閃光が奔る。 10mの距離から連続しての斬撃。 ソレのどれもが音速を超えている。 ギィン ガキィ キィイン ガキキィ キュイン バキュン 連続して鳴り響く甲高い音。 リィゾの猛攻にセラフは防戦一方である。 だが人以上の力を得たリィゾの一撃を受け続けている時点でその男の異常さがわかる・・・。 「消えよ」 アルトルージュの呟き。 セラフの頭上にはいつの間にか巨大な岩石が迫っていた。 その真横からは首を分断せんと迫る黒い刃。 回避不能の連携。 「・・・・」 だが・・それは人の域にある者の限界。 超人たるこの男の前にはそれは窮地とはいえないモノらしい。 一瞬にして地面すれすれまでかがみこむ。 その頭上を紙一重の差でリィゾの刀身が迫る。 そして・・・・・・・・刀身と岩石が交差した瞬間。
"閃走―――六兎―――"
大地に手を付き、全身をばねとした渾身の蹴りが真上に炸裂した。 ガギャアアアアアアン!! 「ぬぅ・・!!」 「何!?」 凄まじい衝撃音。 セラフの放った尋常ではない"蹴り"は迫っていた岩石を"押し戻し"、魔剣の一撃を跳ね上げる。 岩石にその異常な力で叩きつけられ、リィゾの剣を持つ手が一瞬鈍る。 その一瞬を狙い、蹴り上げた体制のまま右腕に装着されている隠し武器が火を噴いた。 ドキュキュキュキュキュキュキュ!!!! 「く・・舐めるな!」 魔剣を握っていた両手のうち、左手だけに持ち替え、残った右手でニアダークの鞘を振りかざす。 ガキキキキキィィィン 見事な打ち払いで迫り来る針を全て叩き落す。 その間にセラフが空中で体勢を立て直し、バックステップで1m程下がる。 <1番から6番リミッター解放> セラフの体から光が漏れる。 膨れ上がった魔力をそのまま力へと変換する。 セラフの体が―――爆せた。
"閃走―――六兎弐式ー改『劉砲』―――"
再び全身のばねを使った前方への両足蹴り。 だが、その速さ、威力たるや、先ほどの比ではない。 先ほどの真上への蹴りが矢ならば、この蹴りはレーザーである。 そして、その的は さきほど跳ね上げ、再び落下してきた岩石―――。 ゴ!! 閃走:六兎弐式(改)『劉砲』 その攻撃方法は六兎とは異なる。 六兎が純粋にただの強力な蹴りだとすると・・こちらは中国武術の八勁に近い。 衝撃をぶつけるのではなく、"相手に衝撃"を流し、吹き飛ばす攻撃方法。 故に――― その岩石はその衝撃を受け、横方向へと移動を開始する。 その、ありえない物理エネルギーを持って・・・・ ゴォオオオオオオオオオオオ!!! 軽く1t以上はあるであろう巨大な岩石がリィゾに向かって発射された。 その速さたるや、時速200kは優に超えているであろう。 「な・・・!?」 信じられない攻撃方法に驚き声を上げる。 「く・・!」 判断の遅れから回避不可能と判断し、魔剣ニアダークを縦に構える。 ガガガガガガガガガガァァァ 「ぬぅうううぅぅうううううう・・・・!!!!」 真正面からその"剛球"を受け止める・・・・ 全身の筋肉の筋がぶちぶちと千切れていく。 「ぐ・・おああああああああ!!!!」 それでも、もったのは約1秒。 圧倒的な"力"で押され、岩石ごと後方の壁へと激突した。 ズガァァァァァァン 轟音の後、這い出したリィゾは壁と岩石に押し潰されたために、体はへしゃげ、手足は力なく垂れ下っている・・・。 「ぐ・・・ぁ・・ぅ・・」 ドサリと、前のめりに倒れこむ。 「リィゾ・・・!? おのれぇえ・・!!」 アルトルージュの瞳が真紅から黄金へと変貌する。 ―――その瞬間、世界は彼女の僕となる。 セラフの周りに数十・・いや数百の"火の玉"が現れる。 「消し飛べ!」 号令と共に火の玉が矢の如くセラフへと肉薄する。 だが・・・それよりもなお速く、セラフは行動を取っていた。 ドゴォオオオォォォォオン 爆発音。 それも二つ。 そのどちらも・・・セラフの両サイドからだった。 "火の玉が出現したのと同時"に四方に投げ込んだ計4個手榴弾が爆発したのだ。 爆風によって火の玉が吹き飛ばされる。 だが・・・全てを吹き飛ばすことはかなわなかったが、"余りモノ"程度でこのセラフを倒すことは不可能。 迫る火の玉をはじきながら、弾丸の如くアルトルージュに迫っていく。 「く・・こしゃくな!!」 前方に6本の真空刃を生み出し、セラフに向かい放つ。 だがそれに臆することなくセラフはさらに速度を上げる。 「・・・っ!」 何か感じたのか、アルトルージュはさらに真空刃を続けざまに打ち出す。 セラフの両手に装備されたソウルイータが銀の軌跡を残しながら舞う。 それだけで、迫り来る真空の刃が文字通り『かき消されていく』 続けざまに出した真空の刃も同じ結果だ。 「おのれ・・!!」 やけになって次々と真空の刃を生み出す。 だが、やはり足止めにもならず、距離を詰めたセラフはすかさず斬りかかった。 その速さたるや、リィゾに勝るとも劣らない。 「く・・・!」 音速を超えて繰り出される斬撃を神速を持って躱ていく。 スピードは流石にアルトルージュに部があるが、セラフはそれをありあまる技術で補っている。 予測し得ない角度、死角、フェイント、急激な速度変更、それらをいり交え確実にアルトルージュの肌に傷を残していく。 それでも紙一重に交わしているアルトルージュも流石と言うべきであろう。 ソウルイータの一撃ごときでは、アルトルージュほどの強大な存在には致命的なダメージを与える ことはできない。 だが、それは"普通の使い手"だった場合のみだ・・・今は特例中の特例。 魂を削ると同時に『意味ごと消去』するというとんでもないおまけ付き。 防御などできようはずがない。 ―――――解せぬ・・・。この体に付けられた傷は妾の力を持てば再生が出来ている・・・・        あのように『意味を消去』されてはそんな事は出来ぬはずだが・・ 並外れた反射神経でセラフの猛攻を避け続ける・・・・ と、 「何!?」 突然、セラフの姿が掻き消えた――― 「!!」 頭の中で鳴り響く警報に従い、アルトルージューは後ろに跳ぶ。 だが・・コンマ2秒遅い。 一瞬でかがみこんだ状態から、一条の矢が放たれた――― "閃走―――六兎―――" ズドン 腹部に強烈な衝撃が生まれる。 「―――か・・は・・ぁ・・!」 1tの岩石を押し戻した雷光のごとき強烈な蹴りが炸裂した。 ボールのようにふっとぶアルトルージュ。 さらに追撃を加えるべく駆けるセラフ。 あっという間に地面と水平に飛んでいるアルトルージュに追いついた。 ―――殺られる・・・・! ガキィイイン 目前まで迫った銀の閃光を、黒い閃光が弾き飛ばした。 目線を送ると、そこには、魔剣を握り締めた半死半生の騎士の姿があった。 「ヒュー、ヒュー・・・ヒュ・ヒュー・・・・」 器官が潰れたのか、風の通る音を口から吐きながら、鬼気迫る眼光でセラフを睨みつけるリィゾ。 「ふっ!」 追撃を逃れたアルトルージュが体を一回転させ、"壁"に着地する。 「ぉおお・・・おおおおぉおお!!!!」 ボロボロの右腕だけで魔剣に力を送る。 "―――流星―――" 自身が持つ至高の剣技の一つ。 伸縮自在ゆえに可能な槍の如き連続突き。 ガキキキキキキキキキキキキキキィィ だが・・両足は立っているだけがやっとの状態。 ガキキキィィ 構えもまともにできない剣術・・・『ただの速い突き』程度では、目の前の男には足止めにすらならない。 ガキィィィン 現に、繰り出される突きの嵐の中を平然とこちらに向かって走ってくるのだから―――。 "閃走―――六兎弐式(改)『劉砲』―――" 再び放たれた大砲。 撃鉄はセラフ・・・・ 弾丸・・・・はリィゾ本人・・・・ ゴガァァァァアアアアン 直径1mはあろうかと言う大理石の円柱を貫通し、再び壁へと突き刺さる勢いで激突した。 「ご―――ふ・・・」 白目をむき、大量の血液を吐き出してリィゾは今度こそ倒れた。 それを一瞥し、再びアルトルージュに向き直る。 「貴様あぁぁぁぁぁ!!!」 アルトルージュからもはや物質化したといえる殺気が放たれる。 だが、目の前の男にそのようなものは通じはしない。 「―――逝ね!」 下される死刑判決。 金の眼光がさらに光を放つ。 同時に奔る銀の軌跡――――――。 「な・・・!?」 アルトルージュは目の前で起こった光景に目を見開く。 目の前には"何事もなく"佇むセラフ―――。 「・・く!」 再び世界を変革する。 ・・そして、再び同時に奔る銀の軌跡。 "何も起こることなく"セラフはゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。 「ば・・馬鹿な!」 変革。 奔る銀。 ・・・依然、何事もなし――― 「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!」 再び繰り返される攻防とは言えない攻防。 依然周りに変化はなく・・あるとすれば確実に縮んでいくセラフとアルトルージュの距離だけ・・・・ 「馬鹿・・な・・。 空想具現化を・・具現化する前の・・イメージの段階で削除するだと!?」 空想具現化 世界そのものを書き換える究極の神秘。 自身が思い描くイメージを、そのまま世界へと投影、具現化するありえない能力。 その超神秘を・・この男は『物理攻撃』でこともなげに破っているのだ・・・ 驚くな、と言う方が無理というものだ。 「そ・・そんな・・・!」 思わず後ろに下がる黒の姫君。 依然として世界に変革を試みるが。 セラフの持つソウルイータが奔るだけで・・具現化することもなく四散してしまう。 「あ・・あ・・」 アルトルージュは気付いた。 アレは―――『削除』などという上品なモノではない・・・・ 迫り来る総てのモノを・・・ただ片っ端から殺しているだけ・・・・ 「い・・や・・」 先ほどまでの威厳の有る声ではない。 「来ないで・・」 発せられるそれは、むしろ少女のそれに近い。 体は小刻みに震えている。 だが・・・目の前の死刑執行人はその声を前にして変わらず距離を詰める。 「あ・・・あ・・・あ・・・」 へたり・・と尻餅をつく。 その姿にはもう、気高き黒の姫としての威厳などドコにも無い。 あるのは・・・ ただ、純粋に目の前に迫る死に怯える・・・か弱き乙女・・・ ―――怖い。 死徒の姫とまで称される自身の攻撃・・・・ 最強とまで言われた、自身の騎士たち・・・ それら・・・その巨大な力すらもねじ伏せる・・・圧倒的な殺戮者。 そして――― 死神の鎌が振り上げられる 「ひっ・・・!」 余りの恐怖に目を瞑るアルトルージュ。 ドス・・・・・・・ 鈍い音・・・・ だが・・それが聞こえたのは自分の少し前の方。 疑問に、重い目を開ける。 「―――え?」 そして、目の前の光景にさらに驚く。 セラフの振り下ろしたソウルイータが自分の目の前で止まっている。 ”セラフが”止めていたのだ・・・・ ・・・振り下ろした右腕を、左手に持っていたソウルイータで貫くことによって―――。 「????」 目の前で起こっている光景に目を閉じたり開いたりするアルトルージュ。 「・・・・・ぉ」 セラフの口から・・・声が漏れる。 「・・・げろ・・」 ナルバレックの声ではない、男の・・・青年というべき声が・・・・ まるで何かに耐えるかのように、絞り出されるその声は頼りない。 だが・・・その蒼い瞳は必死に語りかけていた・・・・・ 「早く・・・に・・げろぉ・・・・!」 セラフはぶるぶると痙攣しながら声を絞り出す。 その声にハッとなり、アルトルージュがその場を一気に離れる。 セラフは追わない・・・・依然自身の腕を貫いた状態で振るえながら立っている。 それを一瞥し、アルトルージュはリィゾの元へと駆け寄る。 「リィゾ!」 「・・・ひ・・め・・さま・・・」 朦朧とした視線。 声には全く力が入っていない。 リィゾの状態は酷いものだった。 内臓はことごとく潰れ、背骨、肋骨共に粉砕。 まだましだった左手の修復は完了しているが右手と左足は潰れてしまっている。 ・・・・それでも魔剣を握り締めているその強い意思は、賞賛に値しよう。 普通の死徒ならば、これだけの傷では再生は不可能。 もはや滅びるしかないが・・・・ リィゾの体はまるで時間をさかのぼるかのように"服ごと"再生を始めている。 現に"潰れていた頭"はもう既に再生してしまっているのだから・・・ アルトルージュとセラフとの攻防が約50秒程度だったとすれば・・異常な回復速度だ・・・ 「時の呪は健在か・・・・だがこの時ばかりはこれに感謝だな・・・」 そう呟くと、リィゾを抱え上げ、一気に出口へと駆ける。 セラフと名乗る男が再び自分たちに襲い掛かってこないうちに―――。 そして・・・ 玉座を出る寸前。 アルトルージュの聴覚は、確かにそれを捕らえた。
「アルクェイド」と呟く・・死神の独白を・・・・
<あとがき> プラミッツ・・・・続いて死亡。 エル・ナハト・・・・使用されて死亡・・・・。 う〜ん、ヤヴァいくらい死亡率高いな・・このSS(滝汗) というか・・・技名からして・・もうバレバレ? まぁいいか・・・・(ぉい さてと・・・やっと次回から導入編です。 物語の始まり始まり〜。 さて・・・寝よう・・・・