キーンコーンカーンコーン


学校の終わるチャイムが鳴った。


もうすぐ志貴に会える。


そう思うと心は弾み、今日この後何をしようか考えるだけで楽しくなってくる。


「早く来ないかな〜」



学校の校門の前で、私はただ志貴を待っていた





  
氷月


〜第二話:彼の友人〜
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・遅い。 チャイムが鳴ってから2時間、他の生徒はどんどん下校していく中、 志貴の姿が見当たらない。 「もう、志貴ったら・・  なにやってんのよ・・・・」 校舎の中に入って探してみようか考える。 でも、前に志貴に「入ってくるな!ばかおんな!」と、さんざん怒られてしまった。 ちょっと暗示をかけて、制服を着て入っただけなのに・・・ どうしようか考えていたとき見知った人影が目に入った。 髪をオレンジ色に染め、ピアスという耳飾をつけた男。 志貴と何度か話しているのを見かけたことがある。 確か名前は・・アリヒコ・・・だったっけ。 「ねぇ、君」 志貴以外の男に話しかけるのは初めてだったから、少しどきどきした。 「あ・・・・?」 彼はキョロキョロとあたりを見渡し 「俺?」 と自分を指差した。 「ええ、そう。  君、志貴の友達でしょ?」 「ええ、そうですとも、マダモアゼル」 紳士のように会釈をしてくる彼、日本でこのような礼式があったとは意外だ・・。 「それで、ワタクシめに何か御用でしょうか?」 「ねぇあなた、志貴が何処にいるか知らない?」 「あれ?あいつもう帰ったんじゃないの?」 彼が頭をかきながら言う。 「え・・・・?  それ、どういうこと?」 「昼休みくらいかな・・・・。  あいつ午後の授業さぼってどっか行っちまいましたよ」 「そ・・・・そうなの?」 「ああ、俺はちょいと先生にご指導受けてて遅くなったけど。  教室には誰もいなかったぜ。  それにもう、学校にはいないと思うぜ、あいつ部活してないから」 ま、俺もだけど、付け足して彼は言った。 「志貴、帰っちゃたのかな・・・」 少し寂しくなった。 こんなことならもうちょっと早く来ればよかった。 それにしてもどうしたんだろう・・後で会ってくれると約束したのに・・ また貧血か何かで倒れたのだろうか・・ 「何なら俺が、志貴の行きそうなところに連れてってあげましょうか?マダモアゼル」 私が悩んでいるところに彼が言った。 「え・・・・本当!」 「ええ、あなたのような美しい方となら喜んで」 再び会釈をするアリヒコ。 志貴がいっていたよりはるかに紳士的ではないだろうか。 「えへへ〜、ありがとう。  それじゃあお願いするね」 「イエッサー」 彼は敬礼してから、私の横に並んだ。 「では、参りましょうか!」 その後、彼と色々な所を周った。 志貴に何度も勝っているというゲームセンター。 私も何度か来ているが志貴には一度も勝ったことが無い。 ということは、彼はかなりの使い手ということだ。 また今度教わろうかな・・。 何度か来て1度志貴が大当たりを出し、ぼろ儲けしたというパチンコ屋。 金額を聞いたが、いつも私が携帯している紙幣数枚らしい。 そんなもので喜ぶのならその数百倍くらい『今すぐ』にでも用意できるのに・・・。 アリヒコにそう言うと「あ〜それは多分あいつは嬉しがらないと思うぜ」と言った。 「というか・・・むしろ断るぜ、あいつなら」 アリヒコがにやにやしながら言う。 うん・・多分彼の言うことは正しい。 志貴はきっとこんなもの望みはしないだろう。 私も何度か志貴と行ったヤクドナルド、アリヒコは私よりも多く志貴といっているらしい。 志貴とよく立ち読みしていたという本屋。 まだ私も志貴と行ったことが無い場所を彼は教えてくれた。 少し、羨ましかった。 「いないっすね・・・」 「いないね・・・」 一通り探した後、 公園で一休みすることにした。 「ジュース、何か飲みます?」 「じゃあ、ミネラルウォータ」 「うぃ」 少しして彼がジュースを持ってきた。 「あいよ」 「ありがとう」 ジュースをもらい蓋を開けて飲んだ。 志貴に初めて買ってもらって以来、私はこの味のついた水が気に入っている。 「やっぱ、あいつ帰ったのかね〜。  全くこんな美人をほっといて、なんと罰当たりな」 「あはは・・  そうだよね〜、志貴、罰当たりだよね〜」 「ええ、まったく、そのと〜〜り」 志貴と違って、この人間は面白い。 ぶっきらぼうだが、どこか志貴とは違うようで、似たような感じがしたからか 私は始めて、志貴以外の異性に興味をもった。 もちろん・・・好意ではあるが、志貴への好意とはまた違った感じ。 「ねぇ、君と志貴との関係、教えてくれないかな?」 「アリヒコ」 「え・・・?」 「アリヒコって呼んでくれたら、話しましょう。  マダモアゼル」 くすっ・・・ ほんとに、彼は面白い。 「教えて、アリヒコ」 「了解!!」 シャキーンという効果音付き(自演)で敬礼をした後、アリヒコは話し出した。 志貴との出会い。 志貴との喧嘩。 志貴との語らい。 志貴がどれだけ苦労をしたか。 そこにはいっぱい私の知らない志貴がいた。 聞いててすごく楽しかったけど、 ああ、私はまだ、志貴のこと全然知らないんだって思った。 「では・・・・」 「ん?何?」 「こっから先は、アルクさんが志貴とどんな関係か教えてもらってから話しましょう」 「え・・・・・・」 志貴との・・・関係・・ 「どれくらいの仲かで話は変りますぜ」 ・・・・人間と吸血鬼・・・・確かにそうだが、根本的に何かが違う。 ・・・・男と女・・・・・・それは唯の体の形状 ・・・・知り合い・・・・・それはそうだが・・でも違う。 ・・・・恋人・・・? ううん、そんなんじゃない。 もう、これは決めたこと、私が絶対と決めたこと。 「私はね、志貴と永遠を誓った仲だよ」 そう、あの日。 私が死んだ日。 志貴が私を殺した日。   あの日、あの瞬間にそれは決まっていたこと。 志貴が私に誓ってくれたこと。 だからコレは決定事項。 自信を持ってこう言える。 「志貴は私のフィアンセ<婚約者>、私は志貴のフィアンセだよ」 「・・・・・・・・」 アリヒコは私を見つめてくる。 先ほどまでとは違う、真剣な目だ。 私もアリヒコを見た。 真剣に。 どれくらそうしていたんだろう。 不意に有彦が目を逸らし、語りだした。 志貴と二人で交わした、「ありがとう」と「ごめんなさい」の決定的な違い。 志貴と友であろうときめたあの日。 志貴が自分と似ているようで、全く違うと知ったあの日を 彼は話してくれた。 「はぁ・・・・まったく・・・遠野にはホンっとかなわねぇなぁ」 横目に私を見ながらアリヒコは言った。 「?」 それがどういう意味だったのか、私には分からなかった。 それから少ししてアリヒコは時計を見た。 「そろそろ、帰ったほうがいいんじゃないですかい?」 時刻は午後8時をまわっている。 夏だからまだほんのり空が明るい。 「そうね、やっぱり志貴、帰っちゃたんだろうな〜」 「わりぃっすね、力になれなくて」 「ううん、私は楽しかったよ。  ありがとう、アリヒコ」 「!!ど・・・どーいたしまして」 「?」 どうしたんだろう、アリヒコ、顔が赤くなってる? 「そ・そうだ、なんなら送っていこうか?」 アリヒコは何か思いついたように言ってきた。 「ちょっと前まではこの辺は何かと物騒だったからさ。  女性一人だと危ないかもよ」 とくに、あなたのような美人はね。 と志貴なら絶対言わないようなことをずばっと言ってのけた。 「いいよ。 これから志貴のうちに寄ってみるから。 ・・・それに」 「それに?」 「私、強いから」 むんっ、とよくTVで見かける筋肉隆々の男性がするポーズをしてみせる。 「・・・そのようで・・・。  そいじゃ、俺はこっちだから」 「うん、またねアリヒコ。  今日はほんとに楽しかった、ありがとう!」 「俺も楽しかったっすよ〜。  それじゃあ!!」 わたしは手を振りながらアリヒコに言った。 「うん、志貴と一緒にまた遊ぼうねー!!」 アリヒコは笑ながら手を振って答えてくれた。 でも、アリヒコと別れてから少しして、 「遠野の裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 という、雄たけびが聞こえてきた。 あれは何だったんだろう? ――――――――――その後、志貴のいる屋敷に向かった。 今日アリヒコに聞いたこととか話をしようと、考えながら。 すごく楽しみだった。 だけど・・・ ・・・・屋敷に着いたけど、志貴はまだ帰っていなかった・・・・・・・・・・・・・