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遅い。
時計はもう時をとうに過ぎているというのに。
兄さんは一向に帰ってくる気配が無い。
翡翠も兄さんが心配なのか、どこか落ち着きが無い。
またあのアルクェイドとかいう、人外生命体とどこかほっつき歩いているのか・・
全く、今日という今日は、きつく言わせていただきますよ・・兄さん!
氷月
〜第三話:崩れだす日常〜
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「誰かしら・・・こんな夜遅くに・・・。
琥珀」
「はい、秋葉様」
琥珀を玄関に向かわせ、私は紅茶を一口飲んだ。
しばらくして・・・琥珀が客を連れて来た・・
「秋葉さま、アルクェイド様が参りましたよ〜」
「やっほ〜、妹!」
その聞き覚えのある能天気声に、思わず噴出しそうになるのをこらえ、
私はその"敵"に目をやった。
「何の御用ですか?
・・・・アルクェイドさん・・・」
「志貴に会いに来たに決まってるじゃん♪」
よくもまぁ、ぬけぬけとそんなことが言えるものだ。
・・・・・あれ・・?
兄さんに会いに来た?
「アルクェイドさん・・・今日は兄さんと一緒ではなかったんですか?」
「ううん、ちがうよ。
志貴とは今日、あれから会ってないよ」
では、今兄さんはこんな遅くまで何を・・・・・
そう考えて、兄さんの友人の顔が思い浮かんだ。
「そうですか・・・・、ではきっと、ご友人と夜遊びを楽しんでいらっしゃるんでしょうね・・・・。
全く・・・兄さんと来たら・・・!」
「友人って、有彦のこと?」
「えぇ・・・と、確かそうだったと思います。
兄さんは彼以外とはまず夜遊びなどしませんから」
目の前にいる"例外"を除いては、ですが。
「あれぇ、でも私、今までずっと有彦と一緒だったよ?」
「え・・・・?」
アルクェイドさんとも、ご友人とも一緒じゃない?
「では・・・一体兄さんは何処に・・?」
「あれ・・・志貴、帰ってないの?」
一瞬の静寂。
「大丈夫ですよ秋葉様。
志貴さんなら、きっともうすぐ帰ってこられますって」
それをいち早く琥珀が破った。
「そう・・・ね・・」
兄さんのことだ、きっと「たまには1人であそぼう」とでも考えているのだろう。
そうしてもうすぐ兄さんが。
「いや〜、た・・ただいま〜」
と、情けない声をあげながら帰って来るはずだ。
・・・・・そうに、ちがいない・・・・
だが、その日常は脆くも崩れ去った。
その日、兄さんが帰ってくることは無かった。