朝、志貴様を起こすことが私の日課であり、楽しみでもあった。


まるで彫像のように眠る志貴様。


しだいにそのお顔に血の気がさし・・・ああ、お目覚めになられる、と内心ほっとするような


残念なような・・・けれどもかけがえの無い瞬間。



「おはようございます、志貴様」



いつもどおり頭を下げ、朝の挨拶を行う。



「おはよう、翡翠。
 いつも起こしてくれてありがとう」



そして私の主人は、そのはにかんだ笑顔でいつものように挨拶をしてくださる。


最近はアルクェイド様に先を越されるものの、


志貴様との朝の挨拶を交わすのが私は楽しかった。


でも・・・・・・


今日も志貴様と挨拶を交わすことはできませんでした・・・・



志貴様が屋敷にもどらなくなり、はや5日・・・・・・



貴方は・・どこに居られるのですか・・・




  
氷月


〜第四話:手紙〜
秋葉様は、警察に届けを出し、遠野家の財力を使い、 アルクェイド様は血眼になって志貴様を探しています。 姉さんは、たまに白いリボンを着けて 「志貴さんに見てもらうんです・・  あは、もう・・・・似合わないかな?」 と、普段は笑顔のままですが、時折とてもさびしそうにしています。 志貴様になついておられた黒猫のレンさんも最近は姿を見かけません。 私は・・・・・ 今の私にできるのは いつ志貴様が帰ってもいいよう、 部屋の掃除をしておくだけ。 そしていつも通り、表情を引き締める。 夜、見回りに来ても、志貴様はいらっしゃらない。 たまに、アルクェイド様がいつもどうり窓から入って来ては 「志貴・・まだ帰ってない?」 と、不安と微かな希望にすがるような目で私に問いかけて来られる。 私は首を横に振って答えるだけ。 そんなことを繰り返して 10日が過ぎました・・・・・・・ 秋葉様は食事もろくに喉を通らず、少しやつれられ、 アルクェイド様は 「志貴ぃ・・・・何処行ったのぉ・・・・」 と、志貴様のベットで泣いているお姿を何度か見かけるようになり、 姉さんも最近は笑顔が少なくなり、呆としていることが多くなりました。 だんだん屋敷の中での会話が無くなってきました。 ――――――――志貴様・・・・今あなたは何処にいるんですか? 返事をしてくれるわけでもないのに。 ただただ月に向かってそんなことをつぶく毎日。 「私は、志貴様がいないと・・・・・駄目なんですよ・・・・」 ああ、 志貴様が帰ってきても心配されないように、耐えていたのに・・・・ あの人は、いつもいつも・・自分のことなんかそっちのけで・・他人のことばかり心配してしまうから・・・ 優しすぎるから・・。 ああ、そんなことを考えてしまったら・・彼の困ったような笑顔を思い出してしまったら・・・ 困りました・・・・・ 涙が・・・止まりません・・・・ 涙が・・・・ 止まりません・・・・ 「志貴様――――――」 その日の月はとても蒼く澄んでいました・・・、まるであの人の瞳のように・・・・ 志貴様がいなくなって12日め・・・・ 一通の手紙が届きました。 そこには、差出人の住所もなく、ただこう書いてありました。 「2日後、帰ります。  みんな屋敷の居間で待っていてください―――遠野 志貴―――」と――――――――