精霊種にして超越種、最後の真祖、白の吸血姫、アルクェイド・ブリュンスタッド。
死徒27祖、その実質的な頂点に位置する黒の吸血姫、アルトルージュ・ブリュンスタッド。
東洋の『魔』を牛耳る一角、社会面において大企業を継ぐ令嬢にして鬼の一族、遠野 秋葉。
白、黒、赤…絶対色を持つ、三人の女帝が、ここ、遠野の屋敷に集った…
氷月
〜第九話:話し合い〜
「馬鹿な事言わないでください!!!」
瓦礫と化したロビーを使うわけにもいかないため、客間で話をすることになり…
部屋が狭くなった分、余計に秋葉の声は響く…。
現在の配置は、机を挟んで秋葉とアルクェイドが同じソファーに座り、その後ろに翡翠が控え、
向かい合わせにアルトルージュ、その後ろにはリィゾが直立不動で控えている。
レンは、猫となってアルクェイドの膝の上に待機している。
琥珀は自室で療養中。
「あれが…あれが兄さんだなんて…出鱈目を言わないでください!!」
今にもアルクェイドの襟首に掴み掛からんといった勢いで秋葉が詰め寄る。
「出鱈目じゃないよ…」
どこか遠くを見ながら、力なくアルクェイドが応える。
「出鱈目だったら…どんなにいいか…」
今にも泣きそうな…いや、既に涙は彼女の瞳から溢れ出していた。
「――っ!!」
ソレを見て――それ以上何も言えなくて、秋葉はアルクェイドから目線を外し、紅茶を一口飲んでから、今度は前方の
女性に目を向ける。
女性と言うには、確実にお門違いなその容姿。
女性と言うよりは少女…だというのに、洗練された雰囲気は確実に自分より「上」という矛盾…。
透き通るような白に、対照的な服装と長い髪。
生き物なのかと信じられないほどに完成された「美」。
先ほどの自己紹介によると…
この上品さ漂う…まさに貴族…いや、王族と言って相応しい女性が、このアーパーの姉だと言うのだから…世の中はやはりおかしい。
そして何よりも秋葉を驚かせたのは、彼女が『あの』黒の姫であると言うこと…。
27祖のことについては、遠野…魔の家系としてある程度の知識はある。
その中でも「実質的」に「世界の魔」のNO1と言ってもいい女性が、目の前にいるという異常事態…。
「アルトルージュさん…でよろしいのですね?」
「ああ」
手に持っていた紅茶を置いて秋葉に向き直る。
「あの、あなたがアルクェイドさんの姉と言うのは…」
「事実だ。…腹違いの、だがな」
「そうですか…」
「一つ、聞いてもよいか?」
「何でしょうか?」
「…ソレはいつからそうなったのだ?」
ソレと言ってから目線をアルクェイドに送る。
相変わらずしょぼんとして、俯き、涙を流し続ける…まるで帰るところをなくした子供のような顔…
「いつから…と言われましても。初対面のときから無礼千万でしたが…」
――今まさに秋葉の脳内では忌まわしい記憶がリフレインしていた。
思い出されるのはアルクェイドと始めてあったあの日。
チャイムを連打し、入ってくるなり「志貴いる〜?」と言うやいなや、図々しくも探し回ろうとするアルクェイド。
無論翡翠に止められ、志貴がいないと知ると断りもせず秋葉の反対側のソファーに腰を下ろし
「じゃあ待たせてもらうね」と言って座り込むありさま…
「ハァ…」
人知れず、秋葉の口からため息が漏れていた。
「?」
それを見て少しだけ首を傾げるアルトルージュ。
「まぁよい、…フ、まさかこれが涙を流すとは、な…」
そう言って誰にもわからないくらい少しだけ笑うと、再び紅茶に口を付ける。
そして一口飲むと、表情を引き締めてアルクェイドに向き直る。
「アルクェイド」
「…」
「アルクェイド…?」
「…ぃ…」
「聞こえておらんのか? アルクェイド!」
聞こえていないはずが無い、彼女は真祖。
あまりといえばあまりな例えだが、100m先の針が落ちた音でも聞き漏らさない。
だと言うのに、相変わらずなにやら呟きながらただ涙を流す。
秋葉とアルトルージュには聞こえている。
彼女がただ「しき」と呟き続けていることを…
「話にならんな…」
一つため息をついて今度は秋葉に向き直る。
「秋葉よ、先ほど言っていた『志貴』というのは何者だ?
御主の兄であることはわかったのだが…」
「何者…といいますと?」
「率直に聞こう、アレは人間か?」
「…はい、人間です」
「…だが、御主は――」
少しだけ言いにくそうなアルトルージュ、だが秋葉は真っ直ぐに応えた。
「はい、私たち遠野の人間は貴方たちに近い者を祖とする混血の一族…
兄は私たちの敵…日本では最高位の退魔の一族の末裔です…」
「他の魔に対する懐刀として、そのシキ殿を養子になされたのか?」
その発言にすこしだけ驚いてリィゾが聞く。
「…わかりません。 父がただの道楽で連れ帰った…と」
「失礼」
「いえ…」
そう言って目を伏せるリィゾに秋葉も目を伏せて応える。
「退魔の人間か…。秋葉よ、その一族は何か特別な力でも備えているのか?」
「…詳しくは判りませんが…。 父の書斎で見つけた文献では『一子相伝の超能力』を代々に受け継ぐ家計…だと」
「超能力…魔法の域にあるそれを受け継ぐ、か。ふふ…末恐ろしい一族もあったものだ…」
どこか呆れたように笑うアルトルージュ。
「それ以外には判らないのですか?」
「はい…調べれば出てくるかも知れませんが…」
「――それでしたら、私がお話いたします…」
突然、横から入った声に全員の視線が集中する。
「姉さん!」
客間の扉の前に立つ琥珀に向かって、翡翠が駆け出す。
「大丈夫なのですか?」
「うん、少し休んだから大丈夫よ、翡翠ちゃん…今はそれよりも…」
そう言って、翡翠をなだめ、アルトルージュたちの席に近づく。
「…掛けなさい」
「ありがとうございます」
琥珀の顔色を見て、アルトルージュが、ソファーの端にずれて人一人座れるスペースを空ける。
それに礼を言って、琥珀は座る。
では、と区切って琥珀は語り始めた、志貴の生い立ち、何故遠野屋敷に養子にされているのか…
………
「なるほど…超能力と体術…文字通り人間の持ちうる『究極』にて魔を狩るか…」
「末恐ろしい組織もあったものですな…」
「はい、他にも巫淨、両儀、浅神…これらと七夜を合わせ四つ…四大退魔とまで言われた、日本最大の退魔の一族です…」
「だとすると…シキとやらの能力は何だ?」
「それは…」
「…直死の魔眼」
琥珀が言い止まると同時に、アルクェイドが呟いた。
「「――!!」」
その言葉に文字通り目が点になるアルトルージュとリィゾ。
「ち、直死…『バロールの眼』にございますか!?」
リィゾが少し声を上げて尋ねる。
「うん…間違いない…」
「馬鹿な…確固たる証拠でもあるのかアルクェイド?」
「――志貴は、出会い頭に私を殺した」
「「「「「な!!!?」」」」」
その意味不明な言動に、アルクェイドとレンを除く全員の声が重なる。
「そ…それは――」
なにかの間違いでは? 白い顔を蒼くしたリィゾが聞こうとして――
「出会い頭にザックザクの滅多切り。 17個の肉片にされて、再生も復元も効果なし…
仕方なく私は『蘇生』をせざるを得なかった…」
「「・・・・・・・・」」
リィゾとアルトルージュは声を失っている。
だが、秋葉や琥珀は何のことかさっぱりわからない為、頭をか傾げる。
「あ、あの? 殺されたって、どういうことですか!?」
「文字通りの意味よ。 志貴は私と始めて出会ったとき、私を殺した…これ以上無いって位芸術的に…一瞬で」
「「「――」」」
琥珀、秋葉、翡翠が息を呑む。
それは志貴が殺しを行っていたのを驚くのではなく――。
「本当、衝撃的な出会いだったな〜」
自分が殺されたと言って、そのことをとても楽しそうに…これ以上無いと言うくらい嬉しそうに笑みを…
女神に相応しい笑顔を浮かべ、そっと涙を流すアルクェイドに息を呑んだ…
「……」
それはアルトルージュも同様だった。
いや、アルトルージュだからこそ息を呑んだ。
アルクェイドの過去を知る彼女だからこそ…。
かつて、真祖の『兵器』として『使用』され続けたアルクェイド。
感情と言う感情を削り取られ、無機質に、無感動に魔王を狩り続ける『機械』。
その機械であった彼女を知るからこそ、この女神のような彼女の笑みに…息を飲んだ…。
そして…
「よかったな…アルクェイド…」
誰にも…アルクェイドにのみ聞こえる声で…そう呟いた。
後書き
あんまり関係ないけど、こういう話になるのは予定通り!!
なぜなら!!次回のお題が「会議」だからだ!!!!
引っかかった人〜?
あ、ごめんなさい枕投げないでください!
痛い!石は…!!ってだれだよ宝具投げたやつ!!!
とにかくごめんなさい、次回はきちっとした「会議」です。
また話オンリーっぽい…