直死の魔眼…かつて神殺しといわれたバロールの眼の類似品…。
モノの死を点と線で認識する超能力。
線を断てばその部分は死に、点を絶てばソレは「終わる」…
根源とつながり、至った力…
人には過ぎた…その力…
氷月
〜第十話:会議〜
「直死の魔眼…ですか…?」
秋葉が少しだけ頭を傾けて尋ねる。
「御主は知らなかったのか?秋葉」
「はい、兄からは『見えざるものを見る眼』と聞いていましたが…
その、直死…死を見るとは一体どういうことなんですか?」
「ふむ…かつてのバロールの眼は睨んだだけで対象を『殺す』というとんでもない能力だったそうだが…
アルクェイドの言うそれは少しばかり違うようだな…」
「ええ、流石に睨んだけで殺す…とまではいかないけど、志貴の眼はある意味バロールのそれ以上だわ…」
「…どういう意味だ?」
「バロールは睨んだ対象を…『見えるもの』を殺すことが出来るけど…志貴の眼はそんな制限なんて無い…。
見えなかろうが、『世界の上に存在する』モノなら『概念』ごと殺す…。
例外は無いわ…」
「「「「「………」」」」」
アルクェイドの呟きにその場の全員が沈黙する。
「なるほど…確かに使いかってはともかく『能力』としてはバロール以上ということか…」
「ええ」
「納得いった…。あやつは具現化する前のイメージの状態で我が空想具現化を『殺した』…
というわけか…」
「ちょ…アルトルージュ、それってどういう意味?」
「そのままの意味だ、あやつは妾の空想具現化を発動前の『イメージ』の状態で殺し、
具現化をキャンセルして見せたのだ…」
その時のことを思い出したのか少しだけアルトルージュの肩が震えた。
「まさに、出鱈目であったか…」
「で、でもアルトルージュ…」
「御主が言いたい事はわかっている」
空想具現化が敗れた理由はわかった…
だが…
「身体能力を極限まで上げているとはいえ、『人間の限界』ごときに我等、三人が敗北したこと…であろう?」
「ええ…、しかも聞いた話だとあなた、リィゾと二人がかりだって…」
「ああ、超越者とまで讃えられた我等が手も足も出なんだ…」
ソレが意味するのは…
「ウソ…あの時の志貴も突き抜けてたけど…でも、…『手も足も』って…!」
「ああ、体術を極限まで極めた、というのは琥珀の話しでわかったが…あの力は、人間のソレではない」
1tもの岩石を蹴り飛ばし、鋼を両断する刃を止め、神速と同等の…『技術』を加えればそれ以上…
人間としての限界など、通り越している…
「恐らく、いや――。 遠野志貴は間違いなく体に何らかの処置を施されている…
それも大魔術並みの、な…」
ギシリ…
秋葉と、アルクェイドの奥歯が軋む。
やり場の無い怒りと殺意が、徐々に膨れ上がる。
「その辺にしておけ、二人とも。…翡翠と琥珀が怖がっておるぞ」
「あ、あは〜」
「「……」」
少しだけ笑いながら。だが、無理をしていると一目でわかる琥珀の顔。
二人には見えないが、後ろに控えていた翡翠に至っては真っ青に近い。
最後にもう一度歯を食いしばり、二人は殺気と怒気を押さえ込んだ。
間をおくように、アルトルージュが紅茶を一口含む。
そして、再び紅茶を置き、二人に向き直る。
「御主等が今憤怒したところで、矛先を向ける相手はここにはおらん。
それに、憤怒するばかりでは奴を喜ばせるだけだと知れ」
二人を見つめていた視線を細めるアルトルージュ。
「…どういう、意味?」
アルクェイドが怪訝そうな顔を向ける。
「――そうか…お前は知らんのだったなアルクェイド。 今の代のナルバレックの名を継ぐ者を…」
「ナルバレック――、そいつが志貴を?」
「間違いない。教会でありながら、魔術処理…魔術協会に繋がりがあるとすれば奴しかおらん」
…もっとも、あと一人協会に縁の在る『道化』もいるが、そこはあえて伏せておく。
「――っ!」
「――いい加減にしろ」
また殺気を放ちそうになる二人に、その二人にのみアルトルージュがそれ以上無い高濃度の殺気で推し留める。
対象を二人にのみ絞った殺気…、二人を遥かに凌駕する数の戦闘を経験した彼女だからこそできる芸当。
それをいきなりぶつけられ、二人は息を飲む。
「フゥ…」
二人が落ち着いたのを見て、アルトルージュは殺気を四散させる。
「現状で判っているのは以上だ。…どれも推測の域を出ないがな…」
志貴が何らかの…洗脳に近い物で操られ、それを操っているのは埋葬機関NO1、ナルバレック。
当の本人は体に『強化』の類の魔術処理、それも大魔術並みのものを施されている。
「でも、埋葬機関が関わっているなら――」
シエルが――と言いかけたアルクェイドの言葉をリィゾが妨げた。
「恐らく、此度の…志貴殿の洗脳、及び使役はナルバレックの独断…。
埋葬機関でも関わっている者はごくわずかでしょうな」
「独断って、そんな――!」
「あ奴ならやるさ――、あのナルバレックならば、な。
志貴のことを知った経緯もだいたいは予想できる」
「そ、そういえば、何で埋葬機関が志貴のことを知ってたの!?」
今更ではあるが、アルクェイドが今まで気づかなかった事を指摘する。
「シエルは…シエルは嫌な奴だけど、志貴のことは黙っててくれるって!!」
「第七司祭…ではない。恐らくは第八司祭…『記述士』の仕業だろう」
「記述士って…でも私ですらそんな奴は…」
「無理だ、例え精霊種であろうとも『アレ』は別格だ、アレの気配を察知するなど
妾でも無理だ」
「そうなの!?」
これにはアルクェイドも驚いた。
アルトルージュが、死徒の姫があっさりと「負け」を認めるのだから。
「そもそも、第八司祭はもはや人間ではない――。奴はただ『記す』事のみを求められた生きた人形だ」
「生きた…人形」
その言葉を琥珀が小さく呟く。
「それはどういう意味ですか?」
かつて、自身を人形と縛っていたからか、琥珀が感情を露にして前に出る。
「そのままの意味だ。 外部から得た『情報』のみをただ『記す』人形…
意識はあるが自意識はない、意思はあるが自我はない…。
感覚はあるが反応はない…無論感情などありはしない…。
『気配』として必要な要素が全くのゼロ…『戦闘』では司祭どころか騎士団以下…だが『偵察』の部類ならば
真祖以上…例え真横に立っていようともアレは壁とさして変わりないだろうな…」
「そんな奴が…いるの…?」
アルクェイドが眉を顰める
「いるのです、実際に…」
「会ったんだ…」
リィゾが眼を伏せて応える。
「私は『アレ』が同じ部屋の…しかも真正面に立っていることさえ気づきませんでした…」
「妾も同じだ、ナルバレックに教えられるまで気づかなかったのだからな…。
奇襲などされていたら、あの時妾は滅んでいただろうな…」
「でも、そんなに凄い奴がいるなら…」
「――先ほども言っただろう、奴は『記述するだけ』…そのためだけに存在しているのだ。
戦闘は愚か、会話など出来はしない…『それをしているだけ』だからこそ妾やリィゾすら
気づくことが出来んのだ…」
――それをしているだけとはつまり、そこに『在る』だけと同意。
ソコに在る『もの』としてしか感知できない。
確かに存在するのだから『モノの気配』はあるが…『気づけない』
『草むらの中にある一個の小石』…そんなものに気づけと言うのは絶対に無理だ。
姿を『隠す』のではなく、『既に隠れていた物』になるのだ…最初から見えていない『モノ』の気配など掴もうとは思わないし、
最初からそこに在ってしかも隠れていて見えないものなど…知りえるはずがない。
「そいつが…私と志貴のことを――」
「記述…していたのだろうな」
「……」
場を再び静寂が支配する。
琥珀、翡翠、秋葉は自身の知らない世界を垣間見た驚きに。
アルクェイドはその存在を知らなかった不甲斐なさに。
アルトルージュはただ、静かに紅茶を傾ける。
その後ろでは、リィゾが本来どおり騎士として佇んでいる。
「ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか…」
その沈黙を破ったのは、意外にも琥珀でだった。
「志貴さんが、まるで別人、いえ…全く別の『女性』の声で話していましたが、あれは一体…?」
「恐らくはナルバレックの術の一つだろう、『憑依』もしくは『遠見』にちかい魔術だろうが、生憎と
断定はできん」
「そう、ですか。 それで、志貴さんの洗脳、その魔術処理とやらは解く方法があるのですか?」
「――そればかりは判らん、質や量にもよるが、恐らくは大魔術…。
ちょっとやそっとでは解けぬだろう…。
それに対象が『意識』にある以上、余り迂闊な干渉はできん…」
「やはり、埋葬機関に直接乗り込んで――!」
「阿呆、そうなればお前はまた志貴と闘うことになるのだぞ?
それに埋葬機関にはまだあ奴のほかに9人のエクスキューショナーがいるのだ…
――妾とリィゾ、そして御主が出て行っても今回の相手では唯ではすまん。
下手をすれば封印どころか、完全に消去されてしまうだろうな…」
鬼気迫る表情で言うアルクェイドを真っ向から切り伏せる。
「でも、だって!!」
駄々っ子のようにアルトルージュに詰め寄るアルクェイド。
――本当に、変ったものだ…
内心苦笑しながら、アルトルージュは表情を崩さずに、冷静に対処する。
「――今ここで騒いだところで、我等には相手の情報が少なすぎる。
何の対処も考えずに向かったところで、どうにもならん…。
志貴を助けたいのならば、もう少し落ち着け、アルクェイド」
「――」
志貴を助ける、という言葉に途端に静かになるアルクェイド。
「じゃあ、じゃあどうすればいいのよう…」
またしても泣き出すアルクェイド。
「「「…」」」
その様子を見て、苦虫を噛んだような顔で俯く翡翠、琥珀、秋葉の三人。
少しでも気を抜けば、目の前のアルクェイドのように泣き出してしまいそうだから。
相手は世界レベルの『極秘』機関。
いくら遠野グループが巨大とはいえ、その情報を得るには無理がある。
「せめて、志貴とやらが掛かっている魔術処理の内容さえわかれば…」
――自身の契約の力を行使して、魔術処理…その効力を束縛、封印、よければ解除まで可能かもしれないのに…
三度、沈黙が部屋の中を支配する。
――と、それを破ったのは、今度は意外なものだった。
ジリリリ…ジリリリ…
古めかしい音を立てながら、実用性よりも美術的価値の高い電話が音を立てる。
ジリリリ…ジリリリ…
客間にあった電話に、翡翠が近寄り受話器を取る。
「――はい、遠野ですが…」
全く覇気の無い声で応対する翡翠だが――
「翡翠さん!
そこにアーパー吸血鬼はいますか!!」
その受話器の向こう側から聞こえた、あまりにも大音量で、意外な…意外すぎる相手の声に驚愕した。
後書き
ごめんなさい、あんまり会議になっていない…
駄文で申し訳ない…
↓からは本文をぶち壊す次回予告です。
シリアスなまま進みたい方は読んではいけません、無論文句も聞きません。
<本文をぶち壊す次回予告(危険を感じたら読まないこと参照)>
突如掛かってきた電話、それはカレー司祭、シエルからのものだった!
意外な人物からの電話に思わず、
「か、…カレーは間に合ってます」といって受話器を切る翡翠!
そして物語はしばし過去へと遡る!
「わしが一番偉いんじゃぁぁぁ!!」がモットーの自称、死徒の王様。
対するは険悪魔女ナルさん好みにプリチーな改造をされた遠野志貴ことセラフ!
同じく、カレーを片手に参戦する我等が尻エルさん!
自慢の尻で、並み居る死徒をなぎ払い、今日も火を噴く第七聖典!
イケイケ、ゴーゴー、かれーいんど、いんどしえる〜。
次回、「試運転」にファイナルフュージョン不許可ぁ!!!