斬る、斬る、斬る、斬る、斬る…
まるで精密な機械の如く、まるで猛る蛇の如く。
両の腕は他の意志を持ったように振るわれ続けた。
剣術になき剣術。
獲物に頼りきった、児戯。
…されど、その児戯は、一万の死者を凌駕した――
氷月
〜第十三話:騎屍団〜
「ふぅ…」
溜息。
別段疲れたわけではない。
魔力で強化した脚力と、ありあまる持久力。
時速60kmで数十kmを走ったくらいでは、疲労はほぼ無い。
そう、走ったくらいでは…
ちらりと後方を…後ろの崖下を振り返る。
蠢く影影影…
そしてつんと臭う腐乱の空気。
百万マイナス約二万…
その程度減ったくらいでは、この死者の海に変化は見られない…
「ここを、越えた…のですね…」
今更ながら冷や汗が出る。
少し間をおき、気持ちを整えるように掌を開き、閉じる…それを見つめる。
魔力の残量は十分。
そのための重火器、黒鍵だったが…
「余り過ぎ、ですよね…」
百万の死者の海を『ほぼ無傷』でしかも魔力の消費量は4分の1程度…
余りあるほどのおつりだ…
――ありえない。
バサ…
乾いた風に吹かれ、大きめの袖が翻る。
濃い蒼の法衣は大量の返り血で黒く染まり、その白い仮面も、両手の『白い聖典』も真っ赤に染まっている…
ありえないことを目の前でやり遂げた人間。
熾天使の名を持つ、正体不明の男…セラフ。
「………」
自身にこびり付いた血を何の気にも留めず某と、ただ前を見続ける。
「あなたは、何なんですか…?」
シエルが鋭い視線を向けて尋ねる。
「………」
だがセラフは前を向いたまま、答えない。
――――もとより、答える意思などない。
そして、そのまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと!?」
慌てた。
それはもう慌てた。
見るからに何も考えてなさそうに歩き出す…
それだけなら慌てないのだが…
「しょ、正気ですか!? まだ解呪
うわあああああぁあ、ぎゅ…ぶっ!!ぎゃぁああ、…ぐしゃ!!
な、何、ぐげゅ!?
奇怪な声とも音とも取れないモノで、叫び声が塗りつぶされていく。
化け物の形状をしたその『瘴気』の塊は『暴食者』となり大地を抉りながら直進し、
その先に居る、魔力恩恵を受けた騎士の鎧を事もなしに食い破り、引き裂き、吹き飛ばしながら前進する。
その光景を例えるなら、整然と並べられた人形を子供が巨大な玩具で散らかし廻る…そう言って間違いないだろう。
一直線上に並んだ騎士は正に格好の餌。
言うなればドミノ倒し。
ココに来て、完璧な陣形は逆に仇となった。
轟音と絶叫を轟かせながら、一直線に『魔王』は突き進む。
前列の半数をあっという間に喰らい尽くし、ディオルへと肉薄する。
「ぬうぅううううあああああああああああああぁぁぁあああ!!!」
気合一閃。
怒号と共に、シエルたちに対して振るわれるはずだった剣を、向かい来る暴食者へ見舞う。
ディオルが持っている剣、大気の大源を集約し放つという
マイナーな機能であるが、その性能は聖剣の類に匹敵するほどの収集力と、収束力を持っている。
まるで相反するかのように、黒い暴食者を両断する白い閃光が放たれる。
爆発。
否、爆音は無く、音が消え、閃光が辺りを一瞬白に染める。
余りの眩しさにシエルも思わず眼を瞑る。
その一瞬遅れて、大魔力と大魔力の衝突から、その余波がもれ衝撃波が辺りを襲う。
魔術障壁のおかげで、シエルたちに被害は無いが、ディオルの近くに居た重武装の鎧を着込んだ死徒たちが、
数メートルほど吹き飛ばされていくほどの衝撃波。
衝撃で砂埃が舞い視界を覆う。
「紙一重、か…」
舞い起こる砂埃の中ディオルは冷たい汗を感じながら呟く。
その足は大地に付き、巻き起こる砂埃が鎧の隙間から不快感を与える。
巻き起こった衝撃で、愛馬は肉解に変えられた。
実際ギリギリだった。
多少なりとも、食潰された部下…ディオルに辿り着く前に犠牲となった死徒の魔術の付加がある鎧や盾のおかげであろう。
それらの障壁のおかげで、少しは威力の弱まった暴食者を食い止めることが出来た。
残念ながら、威力や集約力以前に武器の『位』が違いすぎた…。
聞こえた名は『魔』。
――魔剣仇なす者――
死徒として身をおくもの…それも27祖に使える者ならば、まず知らない者はいないであろう。
その剣も、それを振るう怨念の戦士の名も。
片刃の忌み名を持つ、復讐の騎士。
「エンハウンス…」
「ああ、はじめましてさようなら」
「――!?」
聞こえたのは、若い男のそっけない初対面の挨拶と別れの挨拶。
はっとなり辺りを見渡すが土煙のせいで視界はゼロ、気配も多すぎて感じられない。
カラン…
まるで空き缶を転がしたような、軽い音。
それはディオルの足元から。
不意に、視線を下に向ける。
自身の足を覆うミスリルの甲冑に当たったのであろうソレ。
一見すれば、黒いビンに見えるが――
「幾ら頑丈でもこれだけの熱量はごまかせねぇよな?」
声が聞こえる。
汗が吹き出る。
視線に入った黒いビンの数は、優に6つ。
自身を囲むように、転がっている…
「キサ――-」
「Good-luck, imitation knight」
戦場に大きな、緋色の花が咲き乱れた。
<あとがき>
エンハウンスキターーーー(ぉ
どうも、黒獣です。
黒の姫は出すわ、エンハウンスは出すわ、メレムは出すわ
反則武器黙示録は出るわ
やりたい放題し放題の氷月。
こんなものですが、見捨てずに見てくださっている方、真にありがとうございます。
さてさて、今回はエンハウンスのとーじょー。
登場といっても正式に『〜参上!!』みたいなことはやってないけどね〜(ぉい
では少々彼の武器、アヴェンジャーについて補足を少し…
そんなもんイラネって人は戻っていいですよ〜、だたの自己設定ですからw
魔剣『仇なす者<アヴェンジャー>』
大気のマナと術者の魔力、両方から魔力をほぼ『奪う』形で無理矢理収集する。
その暴力的なスピードで行われる略奪を制御しうる高い精神力を必要とする魔剣。
収集するだけなら今回のディオルさんの剣と変らないのですが(収集要領と速度は段違い)。
その力のより所として、使用者の心の『闇』に比例する。
妬み、憎しみといった、憎悪…復讐気。
それを糧として、より『醜悪』なバケモノとして放つ魔剣。
その放出方法も変っていて、『振るわれた力』とも比例する。
どれだけ早く力強く振るわれたかに比例するので、剣術において最速かつ力の篭る『突き』を
繰り出した、というわけです。(居合い切の方がいいのじゃないかとも思いましたが、剣が大きすぎるので却下)
イメージは牙突零式(ぉ
回転えねるぎぃの連動です。
では次回、復讐騎でお会いしましょうw