戦場に轟音を立て巨大な緋色の華が咲く。

私が放ったミサイルランチャーの3発分に匹敵するほどの熱量。

あの『向こう見ず』の声が聞こえたとたん、黒い化け物が騎屍団の真横から現れ、

死徒たちを食いつぶしながらディオルと名乗った団長へと肉薄。

迫る化け物は私たちの代わりに彼の剣の餌食となり、土煙を盛大に吹き上げ相殺された。

そして、今度はこの大爆発。

爆発で再び巻き起こった土煙で相変わらず視界は最悪。

私たちは結界を張っているから土煙に攫われることは無いが、騎屍団はそうではない。

唐突すぎる大事の連続と、司令塔の消失という事態に一部の隙も無かった統率は見る影も無い。

……いや、実際は土煙で見えないので視認はできないのですが…。

だが、声が聞こえる。

悲鳴に近い、情けない声。

さすがにこんな異常事態は想定していなかったのか…。

何にせよ、こちらに意識が向けられていない絶好の好機。

これを逃す手は……無い。







  
氷月


〜第十四話:復讐騎〜
攻守変換フェイス・チェンジ我が盾よ、剣と成れガーディアン」 守護から一転して攻撃魔術への転換。 展開していた魔術障壁をそのまま利用する、低コストの魔術。 銃撃の嵐すら物ともしない三層の結界がシエルの前方に収縮する。 分厚い壁から、サッカーボール並の小さな球状へ。 圧縮し、悪質な硬度を持つ、凶器が完成した。 「変換完了コード・クリア、行きなさい…貫き、止まらぬ強靭な槍ファランクス!!」 ダイヤモンド以上・・・・・・・・の硬度を誇る『槍』が、高速を越え音速で飛翔する。 キィィンという高い音を立てながら一直線に光が走る。 その速度によって生まれた衝撃波が立ちふさがる土煙に巨大な穴を開け、統率を失った騎屍団に襲い掛かる。 「―――!?」 死徒の一人が、人を超えた動体視力で目の前に迫る蒼い硬球を捕らえた。 ボッ …が、捕らえた時には、その硬球は魔力で強化されているはずの兜を頭ごと吹き飛ばしていた。 ボッ! バン! グシャ! 鈍い音を立てながら、蒼い硬球は突き進む。 突然の乱入物に対応できず、死徒たちは頭部、或いは胸部を根こそぎ抉りとられていく。 ニ十対ほど貫通し、その『槍』が役目を終えたかのように薄れ四散した時 三人は既に行動を起こしていた。 ザン!ザシュ!! ズバァ!! 手にしているのは2振りの洗礼済みの大型ナイフ。 そして全体に施した微量の・・・強化。 まるで回転…いや、舞うように獲物を振り、鎧の隙間を縫って斬撃を見舞う。 側面の2体がそれぞれに顔と首から鮮血を撒き散らしぐらりと倒れていく。 それを確認せず。前方へ跳躍。 ヒュン、と言う風きり音。 姿勢をさらに低く倒す。 遅れて轟音が頭上を、逃げ送れた頭髪を数本散らして通り過ぎた。 相手を見やる。 いや、見上げる。 優に2mはあろう巨躯の死徒。 着込んだ全身鎧も相成ってまさに鉄巨人と言えるだろう。 両の手には2振りの戦斧。 斧の二刀流とはまた珍しい…いや、それよりも。 その斧は獲物であるシエルの身長に匹敵するほどに巨大だ。 「――」 鉄巨人は無言で巨大な戦斧を振るう。 「シっ!!」 それと同時に左手のナイフを投擲する。 円を描く軌道と、線を描く軌道。 距離が同じである以上どちらのほうが早いかは非を見るよりも明らか。 ナイフは吸い込まれるように巨人の兜…視界を確保するため細く横一文字に空けられたの部分を貫いた。 「ぐ――!」 苦悶、振るわれた戦斧もそれに呼応して速度を落とす。 その隙を見逃さず、シエルが鉄巨人に向かって跳躍。 そして、顔面を貫いているナイフに手をかけ――。 「ei-men」 バチン はじけるような音と閃光が、鉄巨人の鎧の隙間から漏れる。 そしてゆっくりと煙を上げながら倒れる鉄巨人の兜からナイフを引き抜き、肩を足場にして大きく前方に飛ぶ。 着地点には、まだこちらに気づいていない槍兵。 「はぁっ!!」 体を空中で一回転させ、高く上げられた踵を振り下ろす。 回転の途中、右手のナイフを口に咥えた。 跳躍と回転が加わった踵が、槍兵の頭へと炸裂する。 ゴズン 形容しがたい鈍い音、槍兵の頭は半分近く胴体に沈んでしまっている。 そして力を失った腕から槍をもぎ取り、踵落としをしたのとは逆の左足で、頭の埋まった槍兵を蹴り飛ばす。 どのような力で蹴られたのか、槍兵は5メートルほど吹き飛び、数人の兵を押し倒す。 そして着地して直に槍を両手で握り体を大きく反らせ弓なりに振りかぶり・・・・・。 前方へ向かい、槍を投擲する。 投擲された槍は押し倒された兵の頭上を掠め、その後ろで構えていた別の兵の鎧を易々と貫き 鉄甲作用により、その身を大きく後ろへと弾き飛ばす。 360度、全体が敵、敵、敵、敵。 本来ならば今以上に苦戦するであろうが、相手は軍隊。 『迎え撃つ』を前提に立てられた完璧な陣形は、内部からの攻撃には対応できるようにはされていない。 手に持った武装は一級品だが、飛び道具は勿論、槍などといったリーチの長い武器はこのような 仲間が乱雑する戦場では使えない。 ……それらの武器を捨て、吸血鬼本来の「腕力」で戦えばいいのだが、そんな思考は働いていないようだ。 だからこそ、コレほどまでにシエルは大多数を相手にこれほど有利にことを進めることができる。 無論、彼女の類まれな戦闘センス、技術、そして経験も関係しているが。 それより何よりも… ドゴォォォオオオオン!!! ズガァァァアアアアン!!! ドォォォオオオオオオオン!!! ――――私の数倍は派手な戦いを、あの男が行っているおかげでもある…。 ドゴォォオオオオオン!! 一体どれほどの量をあの赤いコートの下に携帯しているのか… 先ほどから狂ったように爆発が起こり、灼熱を撒き散らし、塵のように兵士を吹き飛ばしていく。 ちらりと目線を送る。 視界に入るのは銀髪の男。 気のせいか…どこか楽しげに携帯型のグレネードをばら撒きながら、私の方へ走ってくる…。 今の騎屍団の混乱のまさに引き金となった半吸血鬼。 復讐騎、片刃の忌み名をもつ異端の騎士。 ――27祖第20位、エンハウンス。 どうやってここまで辿り着いたのか、まったく持って不明だが、心強い味方であることに変わりは無い。 ドゴォォオォォオオオン!!! 一際大きな爆発音。 私のすぐ近くだ。 「久しぶりだな、弓」 「そうですね、片刃」 突然後ろから掛けられた言葉に簡潔に対応する。 予想していたのでさしも驚くことではない。 後ろの…彼の気配が急激に加速して私の真横に並んだ。 ガォンガォンガォン!!! そして響く轟音。 これが発砲の音だと言うのだから、彼の持っている銃がどれほど異質なモノなのかよくわかる。 三発のハンドキャノンは前方に居た3体の死徒の兜ごと頭蓋骨を粉砕した。 「製作した私が言うのもなんですが…、相変わらずの馬鹿げた火力ですね」 「ああ、吸血鬼の腕力特権は活かさないとな」 私の皮肉にそっけなく返す。 左手に無骨な…片手で扱うにはありえない大きさの銃が軽々と握られている。 彼の言ったとおり、特権…吸血鬼の腕力でもない限り反動で肩が壊れるであろう『怪物』。 私が製作した、彼専用の重火器であり、別名聖葬砲典。 本来は聖水で清め『神の言葉』を刻んだ銀の弾丸を打ち出すが…今はどうやら通常弾のようだ。 通常弾といってもこれもまたオーダーメイド…65口径という極めて論外な大きさだ。 「ところで弓」 轟音を轟かせながら彼が尋ねてきた 「アレは何だ?」 目線だけでその先を示す。 その先に居るのは―― ザンザンザンザンザンザンザンザンザンザン!!!! 死者の群れで見た光景の再現。 荒れ狂う大蛇はその牙を容赦なく振るい、周りの騎屍を抹殺して行く。 その移動は蜘蛛の如く地面を『滑る』という奇怪。 ――死徒の削岩機と化したセラフは既にシエルたちよりも50m以上先を進んでいた。 「見ない面だが、新入りか?」 「私も初対面です」 「あの獲物は何だ?」 「ヨハネの黙示録…アポクリプスと言う教会最強の概念武装で、すっ!!」 ガキィイン! 横合いから放たれた剣の一薙ぎをナイフで受け止める。 ガォン! 同時に真横から轟音。 私に向かって剣を振るった死徒の顔が吹き飛んだ。 「最強・・…ね。 お前が言うと説得力がある」 「それはどうも」 「しっかし…反則だな、アレは…」 少々疲れたように呟くエンハウンス。 その前方では相変わらず猛進するセラフ。 剣も槍も矢も巨大な戦斧も、どれひとつとなく豆腐のごとく切り裂かれ、その死神の鎌から逃れることが出来ずに解体されていく。 無論、盾も鎧も兜も、その役割を全く果たせていない。 その切れ味の前には攻撃は切り裂かれ、防御も意味はなく、その速度ゆえ逃れること叶わない。 絶対的な死が猛攻を続ける。 その光景に臆したのか、セラフの前を立ちはだかっていた死徒達が悲鳴を上げながら道を開ける。 口々に「バケモノ」と叫びながら…… 「バケモノか…鏡見て出直せバケモノ供…」 その光景に呆れながらセラフを追うべく速度を上げる。 「……」 シエルも無言で続く。 そこでふと、エンハウンスが眉を寄せ、神妙な顔つきになる 「もうひとつ聞きたいんだが…」 「なんですか?」 「アレは…斬れるだけの概念武装か?」 「斬る事に関しては特化しすぎている・・・・・・概念武装。私にはその程度しか分かりません」 「見ろ」 そう言って再び視線をセラフに向ける。 ちょうど死徒の振るった剣を切断して、そのまま首を切り裂いたところだ。 「妙だ」 「何が、ですか…」 「…もう一度見てみろ。右の槍を持った奴だ」 「…?」 視線だけで催促する彼に首を傾げながら、もう一度セラフへ視線を向ける。 見れば、セラフに向かって猛然と特攻していく無謀極まりない死徒が見える。 もはや冷静な判断は皆無、圧倒的な恐怖に思わず手が出た…といったところか。 死徒が「蛇」の射程内に入った途端、大蛇は容赦なく槍を切り落とし胴体を薙いだ。 「…あ…」 そこで違和感…そして直ぐにエンハウンスが言いたかったこと理解した。 「槍を切り落とした…」 おかしい。 それはおかしい。 「そうだ…叩き落してるんじゃない。切り取られた箇所がそのまま垂直に落下している・・・・・・・・・・・・・」 それは本来あり得ない運動だ。 …いや、普通の剣なら考えれなくもないのだが…セラフが持っている獲物のことを考えればありえないことなのだ。 黙示録の切れ味はそれこそ絶大。 よほどの…それこそ伝説クラスの宝具、魔道具でなければまともに刃も交えられないという反則の一品。 故に、現在相手にしている死徒達が持っている武装程度ではなんの力も必要とせず・・・・・切断が可能。 それはつまり、ほぼ『すり抜けている』と同意。 故に、一直線に動いているものにほとんど何の衝撃も与えていないのだ。 そう考えれば、切断された槍の先はそのまま運動エネルギーが尽きるまで前方に向かって移動し続けるはず…。 死徒の腕力を考慮すれば、そのエネルギーの量とて半端なモノではないはずだ。 しかし、今見たのはその常識を覆している。 切られた先は、切られたその場で『停まる』…まるで全ての運動エネルギーが唐突にゼロになったかのように…。 そして、無論エネルギーを持たないそれは、重力に引かれるままに真下へと落下する…。 ――異常が、そこに在った。 「斬る意外にも、何か別の力が働いているのでしょうか…」 「さぁな…」 そう呟いて、エンハウンスは思考する。 ――味方であるならば、問題することは無い。 だが…―― 彼は…予測不可能、防御不可能、相殺不可能、回避困難なその攻撃の攻略法を頭の中で練り始めていた。 ちらり、と自信の背に背負われた相棒アヴェンジャーへと視線を送る。 ――――コイツでも、耐えられるか…? その応えは、出ない。 「――ま。なるようにしかならんだろう…」 シエルに聞こえないように呟いた後二本の手榴弾を取り出し、 すぐさま指で安全装置をはずすと、投げ捨てるように後方へと放り投げた。 爆発、そして上がる悲鳴。 魔王の城は、もはや目前へと迫っていた。 <あとがき> かなり間が空いてしまい、申し訳ありません(汗 しかし…無駄に長いな…(ぉ 次回やっとこさ白い人登場〜。 <氷月ショートコント> エンハウンス「概念武装を切り裂いた…埋葬機関の新入りはバケモノかっ!!!」 シエル「……」 セラフ「遊びでやってるんじゃないんだよぉおおお!!!!」<死徒を惨殺しつつ。 エンハウンス「ははは!見ろ、死徒が塵のようだ!!」 シエル「……どこから突っ込めばいいんですか?」