【これで汝に残されたものは何も無い。
魅了の魔眼も、汝自身の力も、そして空想具現化も…………全て我には通じぬ。
最早、理の矛盾も致し方無し。朱い月、汝は此処で終焉を迎えるのだ】
朱い月の頭を踏みつけて、力の差を見せ付ける蒼き大地。
それを見て、アルトルージュは涙を零す………これから失う者へ。
今まで誰にも言ったことは無いが、アルトルージュはアルクェイドを妹として愛していた。
自分のような紛い物と違い、アルクェイドは本物であり………それが彼女の救いだったから。
「……き………めぬ」
原因となった朱い月を、憎んだことは一度や二度ではない。
祀り上げられた七夜を、憐んだことは一度や二度ではない。
【まだ囀るか……朱い月よ。遥か古の汝の方が、余程利口だったぞ】
結局、蒼き大地の誘いに乗り……七夜を犠牲にして、アルクェイドを救おうとした自分は、全てを失おうとしている。
もう自嘲すら浮かばない。残されたのは、ただただ圧倒的な虚無感だけ。
「わた………あ…ら………ぬ」
だというのに…………。
「私、は………………諦……め、ぬ!」
だというのに…………。
「私は諦めぬッ!」
勝てる要素など、欠片もありはしないというのに……………。
【愚かな……………最早、汝は朱い月では無い】
「御主に認められなくとも構わぬッ! 私はただ七夜と共に在れれば良いのだッ!!」
何故、朱い月は立てるのだろうか?
アルトルージュには、朱い月が何故こうも力強く在れるのか理解できない。
時折、人間の中にもこんな風に勝てぬと解っていても向かって来る者は居る。
けれど朱い月の場合は、少し違う。
朱い月は、この状況下に於いても負けるなどと些かも思っていないのだ。
【狂っているな、朱い月。これ程まで醜悪な姿を晒すとは我とて、思いもよらぬ】
「醜悪…………?」
蒼き大地の言葉に、朱い月は初めて笑みを見せる。
「フッ…………憐れだな、蒼き大地」
【――――――――何?】
「御主は憐れだ、蒼き大地」
朱い月の言葉に蒼き大地は僅かに困惑し、朱い月が足の下から抜け出すだけの隙を与えてしまう。
特にそれを気にした様子も無く、蒼き大地は朱い月を見据えて言葉を作る。
【戯言を…………汝が我を憐れむだと? 何を莫迦な……………】
「御主は憐れだ。私のように愛すべき者も居らず、ただ自己の存続に執着する御主は……」
そこで一度言葉を切り、心の底から吐き出すように朱い月は言葉を続けた。
「余りにも、憐れだ」
ギリッ……という歯を噛み締める音が、蒼き大地の歯の根から漏れる。
戯言だと、冷静に判断しながらも蒼き大地は非常に不快だった。
蔑むでもなく、憎むでもなく……ただ純粋に自分を憐れむ朱い月が不快でならない。
だが、不思議と直ぐに殺そうという気にはなれない。……………いや、何故か動く気にすらならない。
動けない訳ではないのだが、奇妙なことに動こうとは思えないのだ。
「今の御主では、永久に分かるまい。……………世界が、どれほど美しいかを」
【世界が………美しい?】
ワカラナイ…………蒼き大地には、朱い月の言っていることが分からない。
世界とは、星のことである筈だが…………ナニかが違う。
蒼き大地には、朱い月が分からない。嘗てとは、余りにも違う朱い月が。
これも全てはあのバグ所為だというのか…………? 蒼き大地に、答えは出ない。
「そして分かるまいな、御主には。この世界で、愛おしい者と共に在ることが、どれだけ楽しいかを」
楽しい? 愉しい? タノ…シ……イ?
理解できない……………蒼き大地には、到底理解出来ない。
ただ………ただ朱い月の顔は、酷く――――――、
「蒼き大地、楽しいか? 私は………七夜と居ると、この上なく楽しい」
「 志貴と居ると、すっごく楽しい!」
『ッ!!』
――――――この時、蒼き大地とアルトルージュの二人は、確かに幻視した。
朱い月とアルクェイド…………偶然、同じ肉体に同居しているだけの二人が、重なり合うのを。
ありえない筈だ。七夜と志貴のように、元は同じ人格だったものが、別たれた訳では無い。
完全に別の存在であり、いわば魂が同居しているに過ぎない筈なのに…………。
【ッ!? ……………アルトルージュ・ブリュンスタッド………………】
蒼き大地と朱い月の間に、いつの間にかアルトルージュが立っていた。
朱い月を護るように……………。
「御主…………」
「勘違いしないで。私はただ、妹を救いたいだけよ…………」
先程の幻視を、アルトルージュは希望として見る。
これから挑むのは、間違いなくこの星に於ける最強の存在だ。
星の意志たる蒼き大地に挑む位なら、O R Tに挑んだ方がまだ気が楽だっただろう。
別の星から降ってきた怪物の方が、まだ希望が持てるのだ。
どれだけ勝算が低いのかも窺い知れる。……………………けれど、
「そうか。では、共に戦おう」
朱い月は笑う。きっとアルクェイドも笑っている。
ならば私も笑って戦おう、とアルトルージュは心に決めた。
世界の影に、在りし二人<後編>
「な………何を…………?」
掠れた声で、呆然と志貴は問うた。
七夜は静謐な雰囲気を保ったまま、同じ問いを口にする。
「もう二度と、真祖の姫とは居られないと言ったのだ」
「どういう意味だッ!!」
激昂し、七夜の胸倉を掴む志貴。
荒い息遣いに、焦燥感に満たされた目は、志貴の心情を表していた。
「もう………もうアルクェイドの傍に居られないってッ! そんな……そんなッ!!」
昂ぶる感情が、上手く言葉に出来ない。
志貴の心中にある思いは、ただ………アルクェイドへの強い想いだった。
簡単に、七夜の言葉を嘘だと断定出来れば、どれだけ楽だったろうか…………。
しかしそれは出来ない。何故なら、志貴にも七夜が嘘を言っていないことが分かるのだ。
「…………………ごめん」
「別に気にしてなどいない。半ば、予想していたことではあるからな」
醒めた言葉が、今の志貴には心地良い。
七夜は眉間に皺を寄せたまま、言葉を続けた。
「この方法は、取り返しが付かぬ。
万が一、朱い月が既にプライミッツ・マーダーを屠っていれば、吾等の行為は完全に無駄骨だ」
七夜が言うのは、恐ろしくリスクの高い賭けだった。
志貴が意を決して、七夜の言う方法を採ったとしても、最終的にはアルクェイドとは別れなければならない。
加えて、もしも朱い月がプライミッツ・マーダーを倒していれば、一人相撲をやった単なるピエロ。
無駄なことをしただけで、アルクェイドと別れなければならない、と言っているのだ。
酷い選択肢もあったものだ、と少しだけ冷静なった志貴は思う。
今までも酷い選択肢………そして人生だったが、ここまでくると心底、呪われている。
最愛の人を助ける為に、最愛の人と別れなければならない。しかも、その行為自体、無駄になるかもしれない。
まさに三流の悲劇のドラマのようだ。誰に向けるでもない怒りが、志貴の胸中に渦巻く。
「………………他に方法は無いのか?」
血を吐くような言葉で、志貴は七夜に問うた。
安易には、とても決められない。…………いや、悩み抜いてでも、決められることでは無い。
志貴にとって、アルクェイドは誰よりも掛け替えの無い女性なのだ。
血塗れの人生を歩んでいる志貴にとって、未だ癒えぬ傷を持つ志貴にとって…………アルクェイドは救いそのもの。
幼い頃に両親を含めた一族を皆殺しにされ、引き取られた先でも殺されかけた。
クラスメイトを殺して、先輩とも殺しあった。不幸の吹き溜まりのような人生で、漸く掴んだ幸福だった筈なのに………、
「失うのか……………アルクェイドを」
血が滲むほどに両手を握り、血を吐くように言葉を作る。
何故――――――何故――――――何故――――――何故、自分なのかッ!?
子供のように泣き喚き、獣のように叫び声を上げたかった。しかし、それで自体が好転する訳でもない。
何もしなくても、失うことになるかもしれない。何かしては、失うことになる。
ジレンマに陥りそうになり、志貴は激情に任せて訊ねた。
「七夜………おまえはそれで良いのかッ!!
アルクェイドの傍に居られないってことは、朱い月の傍にも居られないってことなんだろッ!?」
「あぁ……………」
眉間に皺を深く刻みつけ、言葉少なく七夜は言葉を返す。
今の言葉を最後に、項垂れる志貴。その様子を見て、七夜は静かに言葉を続けた。
「朱い月は哀しむだろうな…………もしかすると泣かれるかもしれん。
しかしな、志貴。吾は、朱い月が哀しんでも…………生きていて欲しいのだ。
この上なく独善的で―――――――酷い男だろう?」
「ッ!!」
自嘲するように哂い、七夜は手で顔を覆った。
生きていてさえいれば、いつの日か幸福が訪れるなどという絵空事を、七夜は言わない。
少なくとも世の中には、生きていることが不幸であることもあるし、死が救いになることだってある。
しかし七夜は、そんなことに関係なく。朱い月の気持ちも関係なく。
独り善がりの判断で、朱い月に生きていて欲しいと、心から思い…………そしてそれを実行している。
志貴は、胸中で自問する。―――――――――自分は、アルクェイドを如何したいのか?
答えは………………拍子抜けするぐらい、簡単に出てきた。
「決めた」
「………………フッ、最後は随分とあっさりと決めるのだな」
「あぁ、俺は自分で思ってた以上に………酷い奴みたいだ」
苦笑する志貴に、七夜も苦笑する。
雰囲気などはまるで似ていない二人だが、やはり同一人物だけのことはある。
莫迦なところは……………そっくりだった。
「それで、一体如何すれば良いんだ?」
「端的に言えば、吾等を元々の状態に戻す」
「元々の状態? ……………それってまさかッ!?」
「そう…………七夜 志貴に戻る。人格が分裂する前の…………単一の吾に」
十年近く昔…………記憶の暗示によって二つに分かれた、七夜と志貴。
それを今になって戻すという。何故かといえば……………、
「長い年月の所為で、吾等はほぼ個≠ニして確立している。
その御蔭か、プライミッツ・マーダーが無意識化にアクセスして断ち切った五感は、吾だけのものだった。
恐らく、志貴に戻れば少しの間は動けるはずだ」
「え? じゃあ、俺に戻って戦えば良いんじゃないのか?」
一縷の希望を持って言う志貴に、七夜は冷めた答えを返す。
「そんなに簡単な話ではない。
あのプライミッツ・マーダーの点≠突くには、志貴………オマエでは役不足だ」
「う………」
「言っておくが、吾にでも不可能だ。
暗殺というスタイルをとれば、或いは………という確立だな」
ふぅ、と溜息を一つ。
志貴の手前、暗殺ならば僅かに可能性があるように言ったが、実際は不可能だろうと七夜は思う。
プライミッツ・マーダーの正体は、結局分からなかったが、人の及ぶ存在ではないことは明白だ。
確かに七夜は強いが、プライミッツ・マーダーに挑むことを考えれば、アリがクジラに挑むようなもの。
大きさどころか、住む世界からして違うのだ。勝てる訳が無い。
しかし………………勝たなければならない。確実に………そして絶対に。
「話を続けるぞ。吾等が同化した場合………どうなるかは分からぬ。
志貴が残るのか、吾が残るのか、或いはどちらでもないのか。これを覚悟せよ」
「分かった」
「では………同化に当たって、もう一つの吾等を紹介しよう」
え? という志貴の呟きを無視して、七夜が指を鳴らす。
すると、スポットライトが当たるかのように…………もう一つの存在が浮かび上がった。
ギシ………ギシ…………ギシ………
凄まじい殺意に、志貴の背筋が凍る。
鎖につながれたソレは、ただ一心に訴える。―――――――――殺したい、と。
それしか知らないかのように、無言で、そして殺意を放ち、訴え続けた。
「こ、これは…………」
「コレが吾等の第三存在…………『退魔衝動』だ」
「なっ!?」
志貴は驚愕する。鎖につながれ、殺意を放ち続けるコレが………退魔衝動?
血に宿り魔≠ネるモノを狩り続けることを宿命とさせる退魔衝動が、第三の人格?
「ど、如何いうことなんだッ!?」
「さて…………吾にも分からぬ。いつからかこのような形をとったのかなど、な。
こんなのにも一応だが、知性がある。尤も、理性無き本能の塊のようなものだが」
肩を竦める七夜に、退魔衝動は、尚も殺意を放っている。
志貴の頬に、冷たい汗が伝って落ちる。それほどに凄まじく凶悪な殺意だった。
「分かるか、志貴? 吾等は、これも受け入れねばならぬ。
だが、受け入れたが最後……………二度と皆の下へは戻ることはないと心得よ」
「そうか……………そういうことだったんだな」
七夜の言わんとするところを理解し、志貴は静かに同意した。
初めてアルクェイドを見たとき……抑え切れない欲情にも似た殺意を覚え、17の肉片に解体したことがある。
その殺意の出所こそ、目の前にいる自分の影の一つ………退魔衝動なのだと理解した。
そして皆の下には戻れないというのは、アルクェイドのみならず、遠野の家にも戻れないことを意味する。
志貴の周りには、良くも悪くも人外の存在が多く居る。
そんな中に、退魔衝動を持った自分が行けばどうなるか? その結果は、想像に難くない。
「さて、始めるとしよう。吾等が一つとなり…………愛する者を泣かせることを」
「あぁ」
七夜の自分への皮肉を聞き、志貴もまた苦笑する。
退魔衝動を頂点に、七夜と志貴が、正三角形を作るような位置に立つ。
―――――――――そして、世界が真白に染め上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「グ………フッ……!」
「アグ…………ゥ……………」
朱い月とアルトルージュの二人は、思ったよりも善戦していた。
空想具現化を封じられ、アルクェイドの魅了の魔眼≠煬果は無く、アルトルージュの固有結界を展開する余裕も無い。
にも拘らず、二人は戦闘開始から10分………………まだ生きていた。
臓腑がはみ出し、腕が千切れかかり、頭蓋の半分が潰れている。しかし、二人はまだ生きている。
確かに片や不完全ではあるが真祖で、もう片方に到っては真祖の王だが………異常なまでの健闘といえよう。
「凄いわね…………まだ生きているの? 私は」
「まだ何も終わってはおらぬぞ、アルトルージュ」
視認出来るほどの速さで、全身の傷が復元してゆく。
その様子を、蒼き大地は追撃を掛けることも無く……………ただ見ていた。
茨のように消えない朱い月の言葉、思い。
蒼き大地には、それがまるで理解できず、それを無視することも出来なかったのだ。
【解らぬ…………解らぬぞ、朱い月よ。何故、笑う? 狂ったのか?】
「失礼な奴よ………私は狂ってなどおらぬ」
【汝もだ、アルトルージュ・ブリュンスタッド。何故、汝も笑っている?】
「そうね…………うつったのかも知れないわ」
苛立ちは募るばかりだが、二人を殺す気にはならない………いや、なれない。
余裕の笑みとは程遠い笑みを浮かべる、朱い月とアルトルージュ。
蒼き大地には理解できない笑みだったが、二人は楽しそうに笑っているのだけは、不思議と理解できた。
しかし…………何が楽しいと言うのか?
朱い月が欲しているバグ………七夜は五感を断ち切られ、緩やかに肉体の機能が低下して死ぬというのに。
絶望的なまでの力の差を、ここまではっきりと見せ付けているというのに…………。
【……………忌々しいぞ】
不快感を露に、蒼き大地が更なる力を解放していく…………。
己が感情も不要として捻じ伏せ、蒼き大地は朱い月とアルトルージュを殺すことに………全精力を傾ける。
「なんだ…………復元が遅くなった?」
「世界からの供給を断たれたようね。……………益々絶望的だわ」
二人とも八割がた復元していたが、これ以上の復元は、全く望めそうも無い。
真祖である二人には、世界からの供給されるエネルギーがある。
それが有る限り、二人には無限とも言える復元力があった。
しかし、それを蒼き大地はいとも簡単に封じ、二人の不死性を消し去る。
それはつまり、二人は最早不死ではなく。精々頑強なだけの存在に、成り果てたことを意味していた。
「――――――来るぞッ!」
「分かってる!!」
―――――ヴァン―――――
凄まじい速さで動く蒼き大地は、既に朱い月たちの目で追えるようなものでは無い。
それを僅かな空気の流れ等で予測し、果敢にも攻撃を繰り出すが…………その全てが躱される。
対して、一方的に攻撃を加えている蒼き大地は…………どうもおかしい。
まるで猫が鼠を甚振るかのように、悪戯に二人の傷を増やしていくばかり。
確かに二人の体力は、どんどん落ちていき、遂には殺されるだろうが…………そんなことをする理由が無い。
今の蒼き大地と二人の力関係から見れば、一目瞭然。朱い月とアルトルージュの二人といえど、瞬殺出来る。
どこまでも合理的で、無駄なことを一切しないはずの蒼き大地が、遊びで二人を甚振っている?
そんなことは、蒼き大地を知る朱い月からすれば戯言だと、一笑に付すところだが…………今回ばかりは分からない。
「どうした、蒼き大地よ。御主が遊ぶなど…………珍しいこともあったものよな」
【……………黙れ】
優勢なのは蒼き大地にも拘らず、何故かその声は焦燥に満ちている。
恐らくは蒼き大地にも、自分が決定的な攻撃を繰り出さないのか、分からないのだろう。
(一度だけ、隙を作るのは可能だが……………それで蒼き大地を倒せるだけの攻撃は無い)
様子のおかしい蒼き大地のことは、思考から閉め出して、朱い月は倒す術を模索する。
アレを使えば、一瞬の隙を作るのは可能だが……一撃で蒼き大地を術が、朱い月とアルトルージュには無かった。
大体、蒼き大地と朱い月は特別な存在であり、ただ肉体を破壊すれば倒せるか? と問われれば、それは否なのである。
だからこそ、朱い月は朱い月であり、蒼き大地は蒼き大地なのだから…………。
「朱い月、空想具現化はどうやっても使えないの?」
「無理だ。空想具現化は、世界に意志を直結させ、有り得ざる確率を引き出すもの…………。
世界そのものを、私たちは相手にしているのだ。意志を直結させることなど出来よう筈も無い」
「固有結界は?」
「それも不可能だろう。世界の修正力を魔力を持って抑え、世界を捲り返すのが固有結界だが……。
蒼き大地がそれを強く念ずるだけで、維持する魔力が増大し、瞬く間に魔力が枯渇するぞ」
アルトルージュの問いに、朱い月は淀みなく答えていく。
空想具現化と固有結界……………どちらも強大な力ではあるが、世界に作用する以上はどうにも出来ない。
なにせ、彼女たちが戦っているのは、世界のそのものなのだから。
「何とかして七夜を起こせないかしら? 七夜の………あの魔眼なら」
「儚い期待だな。未だに侵食固有異界『究極王権』は発動したま――――――ッ!?」
アルトルージュの言葉に、答えようとした時。朱い月は、有り得ないものを見た。
人間である以上は、決して逆らえない筈の侵食固有異界『究極王権』の影響下にありながら………、
「立った…………?」
【莫迦なッ!!】
呆然とアルトルージュが呟き、蒼き大地が有り得ない光景に、驚愕の叫びを上げる。
まるで時が止まったかのように、全てが凍りついたかのように………立ち上がった七夜に見入っていた。
操り人形染みた動きだが、七夜は完全に立ち上がっている。
蒼き大地が……………侵食固有異界『究極王権』で、五感を奪い去ったにも係わらず。
ダッ―――――!
【オノレッ!!】
何故立ち上がったのかは分からないが、間違いなく七夜は動き、そして蒼き大地の点≠狙っている。
これだけは喰らう訳にいかない蒼き大地は、全力で回避する。
七夜の動きは確かに疾いが、蒼き大地の速度からすれば蠅が止まるほどに遅い。
これならば楽に回避出来る筈だったが……………、
ガシィ!
「逃しはせんぞ、蒼き大地」
【朱い月ッ!? クッ、離せッ!!】
誰もが呆然としたのに対して、朱い月は誰よりも迅速に行動して見せた。
蒼き大地を捕らえ、確実に七夜が点≠突く為の………決定的な隙を作り上げるために。
「千の鎖よッ!!」
ジャララララララララララララッ!!
【なん―――――ッ!!】
「私を嘗て屠った男が造り上げた、封印用の鎖だッ!
いかな蒼き大地といえども、楽に抜け出せると思うなッ!!」
空間から突然大量の鎖が出現し、朱い月ごと蒼き大地の肉体を拘束する。
元々はアルクェイドが眠っている間に、暴走しないようにとある魔法使いが造り上げた鎖だ。
リミッターの外れたアルクェイドを抑える為の鎖であるため、その拘束力は半端では無い。
【オノ、レェェッ!!】
拘束の鎖が蒼き大地を締め付ける。
如何足掻いたところで、七夜の短刀が点≠貫く方が早い。最早、蒼き大地の助かる道など無い。
「プライミッツ・マーダーッ!!」
七夜が蒼き大地に接近し、短刀を振り下ろす。アルトルージュが友の名を叫ぶ。
誰もが時間を長く感じた。永遠とも思えるほど…………一秒が、長く。
蒼き大地が戒めから逃れようと、もがく。
朱い月がそれを抑えようと、力を籠める。
アルトルージュが、ただその様を呆然と見る。
そして七夜が…………点≠狙って短刀を振り下ろす。
七夜の短刀が蒼き大地を突き刺すのと、千の鎖が砕け散るのは同時だった。
「………………」
【………………】
ドサッ…………
互いに無言で崩れ落ち、互いにピクリとも動かない。
この星に於ける最強の存在に勝ったにも係わらず、誰にも勝利の喜びなど無かった。
あるのはただ……………………、
「七夜?」
蒼き大地が動かないのは兎も角、七夜がいつまでも動かないので、朱い月が声をかける。
それでも七夜は、ピクリともせず、うつ伏せに倒れていた。
嫌な予感を感じて、朱い月が七夜に駆け寄る。………………そこで漸く気が付いた。
七夜の胸に、大きな穴が開いていることを。
「七夜ッ!?」
「志貴ッ!?」
また、二つの心が交錯する。
――――――――涙が、零れ落ちた。
「朱、い………ェイド…………」
涙に応えるように、七夜が閉じていた眼を開く。
掠れた声は、朱い月にも聞き取ることは出来なかったが、それ以上に…………、
「御主は…………誰だ? 七夜なのか? 遠野志貴なのか?」
今までは直ぐに分かったことが、今は分からない。
七夜のようにも感じるし、志貴のようにも朱い月には感じられた。
だが、最も納得が出来る答えは……………何一つ出てこない。
「吾は…………何方でもあって、何方でもない……………」
「何方でもあって、何方でもない? …………まさかッ! 人格を!!」
「ハハ…………統合したよ。悪いな、朱い月。俺は………如何してもお前を救いたかった」
七夜と志貴の口調が交じり合って、グチャグチャな言い方だ。
それでも朱い月には、七夜が…………いや、七夜と志貴が何をしたのかが分かる。
こうしてしまった以上は、もう共に在ることは出来ないということも………。
「何故だッ! 何故……………ッ!!」
「だから…………救いたかったんだ、二人を」
「私はそんなことを望んではおらんッ!!」
「分かってる。……………でも、死なせたくないから」
朱い月とアルクェイドを死なせたくないから、哀しませる。
酷い奴だと云われようとも、七夜と志貴は…………それを厭わないのだ。二人が救えるなら。
「それに……吾の時は、もう残されていないみたいだから」
「そんなことは無いッ! 御主は必ず助けてやるッ!!」
感情に任せて叫ぶが、七夜………いや、七夜志貴は困ったように微笑んだ。
「無理を言うんじゃない。お前には、そんな力は無いだろ」
七夜志貴の言うとおり、朱い月にもアルクェイドにもそんな能力は無い。
空想具現化、魅了の魔眼………どちらも癒し≠フ力は無い。
まして七夜志貴の胸に穿たれた傷は、余りにも大きすぎる。
これを癒すことが出来るならば、それは死者蘇生の一歩手前だろう。
「そうだ! アルトルージュ、御主ならば「無理よ」
朱い月の言葉を遮り、アルトルージュは静かに………だが、確実に告げる。
「私の契約≠ノは、誓約≠ニ制約≠ェあるから………今の彼にそんな力は無いわ」
「そん、な……………」
蒼き大地に挑んだ時でさえ、朱い月はこんな絶望に満ちた表情はしなかった。
寧ろ笑ってさえいた朱い月が……アルクェイドが………泣いている。
アルトルージュは、胸が締め付けられる思いだった。今、七夜志貴が死に掛けているのは自分の所為なのだから……。
「答えて…………どうして貴方は、そんなにもボロボロになるまで手加減したの?
貴方が初めから全力だったら、私は死んでいたし………貴方は死ななかったかもしれない。なのに如何して?」
まるで懺悔するように悲痛に満ちた問いに、七夜志貴はやはり困ったように微笑して答える。
「アルクェイドが、姉として君を慕っていた。大切な家族だと。
そう聞かされて以上……………自分の命よりも、君を優先した。惚れた弱味だな、これは」
結局は、衝動を抑え切れなくなったが……と、七夜志貴は自嘲するように言葉を続けた。
アルトルージュには、七夜志貴が壊れているとしか思えない。
自分の命を棄ててでも、他人を救おうとするなど、壊れているとしか思えない。
だが、惚れた弱味だな……と言って、七夜志貴が幸せそうに笑った時、アルトルージュも何故か笑ってしまった。
そして理解できた気がする…………………七夜志貴が、どうしてこんなにも強いのか。
そして、朱い月とアルクェイドが笑って戦えた理由も。
「御主は…………莫迦だ」
「あぁ」
「自分の身を省みず、私を哀しませて………」
「あぁ」
「いつもいつも……この朴念仁!」
「それは志貴………いや、それも俺か」
七夜志貴は笑っている。朱い月は泣いている。アルトルージュは哀しんでいる。
不思議だった。本当に…………七夜志貴は、どうして笑えるのか?
「御主は………どうして笑う………」
咎めるような呟きも、七夜志貴は笑って受け止める。
「首から下が…………動かないんだ。嬉しいことに」
背中から突き抜けた錐の所為で、重要な神経が切断された七夜志貴は、元から動けなかったのだ。
それが動いていたのは、神経を使わずに、肉体が勝手に戦っていたとしか言い様が無い。
例えそれが、有り得ないことであっても、さっきまで動いていた以上はそれ以外に言い様が無かった。
「何が嬉しいのだッ!」
「…………ははっ」
叫ぶ朱い月を、七夜志貴は笑う。そして、言葉を続ける。
「愛しているよ、アルクェイド、朱い月。そして……………お前たちを、殺したい」
ゾッとするような言葉に、朱い月は理解した。
長年、七夜が抑え続けてきた『退魔衝動』もまた………今の七夜志貴に統合されているのだと。
「御主……………」
「アルクェイドにも朱い月にも出会えて良かった。吾は最高の幸福を得られた」
「私は如何なのだッ! 御主が居なければ!!」
「私は如何なるのッ! 志貴が居ないのなら!」
またしても、朱い月とアルクェイドの姿が重なって見えた。
一瞬、七夜志貴も驚いたような表情を作るが、直ぐに笑う。
「良かった、変わってもらう手間が省けたな。
アルクェイドも聞いているなら、直接言えて良かった」
「勝手過ぎるぞ、七夜ッ!」
「勝手過ぎるよ、志貴ッ!」
最早、二人が重なって見えるのは錯覚では無かった。
七夜志貴への強い想いが、完全な個我を持つ二人を、同調させたのかもしれない。
「あぁ………これは吾の我が儘だから…………」
何の迷いも気負いもない…………真っ直ぐな言葉に、誰もが言葉を失う。
七夜と志貴は、全部解った上で実行し、今の七夜志貴になったということが理解できた。
もう何も…………言えない。言える筈が無い。
「助ける術は無いのか………………」
様々な感情を込めた言葉が………朱い月の口から零れる。
誰一人、それに答えるものは無く。それは風に攫われていくかと思われたが…………、
【一つだけ、ある】
その声に、朱い月とアルトルージュが驚愕したように振り向く。
そこには先程までの感情が、見事までに潜めた蒼き大地の姿があった。
「そんな………七夜の保有する魔眼ですら効果が無いの?」
戦慄するアルトルージュを余所に、蒼き大地はゆっくりと七夜志貴へと近付く。
アルトルージュはそれを阻もうとするが、
【下がれ。我は、既に何もする気は無い】
「信じられるわけが――――ッ!」
「構わない。アルトルージュ、其処を退いてくれないか」
七夜志貴の言葉に、アルトルージュは酷く驚いたようだが、無言で蒼き大地に道を譲る。
丁度、七夜志貴を挟んで朱い月の反対側に立つ蒼き大地。
犬で言えば、お座りの格好で七夜志貴を見下ろす蒼き大地に、犬らしい可愛らしさなど欠片も無かった。
【……………汝等は、まるで理解できぬ】
「そうか」
【己の命を省みず、他人を救わんとする姿。それが美しいと思っているのか?】
「いや、莫迦だと思うな」
蒼き大地の問いを、七夜志貴は即答する。
その答えに、蒼き大地の深蒼の双眸が細くなる。
【ならば…………何故、それをする】
「そんなことに関係なく。ただ、生きていて欲しいと願ってしまうからだろうな」
蒼き大地ではなく、朱い月を見つめて…………七夜志貴は、万感を籠める様に答えた。
これだけで、蒼き大地はなんとなく分かる気がする。理解は出来ないが、分かるような。
【最後に問う……………最後の一撃、何故外した?】
「アルトルージュが、プライミッツ・マーダーの死を望まなかったからな…………」
「ッ!! 貴方……………」
「七夜だったら、殺していたかもしれない。……………けど、俺は志貴でもあるから」
七夜と志貴が混ざった七夜志貴。
互いの性質が混ざってしまった彼は、甘くなってしまったのかもしれない。
それが弱さだと、不思議と蒼き大地は言えなかった。
事実、朱い月の協力と、止めこそ刺さなかったが、七夜志貴は蒼き大地を倒してのけたのだ。
【…………………やはり理解は出来ぬ。しかし、殺す気も失せた。
朱い月よ、汝はどうしてもコレの存続を望むか?】
「当然だ。早く言え、蒼き大地ッ!!」
朱い月の焦燥感に満ちた言葉に、蒼き大地は答えを口にする。
【汝も一つになれば良いのだ】
「ッ! 可能…………なのか?」
【我の力があれば、不可能ではない】
その言葉に飛びつきそうな朱い月を抑えるように、蒼き大地は更に言葉を続ける。
【ただし………汝が生き残るかは、分からぬ。
アルクェイド・ブリュンスタッドになるやも知れぬし、融合するやも知れぬ。
最悪………………消滅の危険性もある。
別人格ではなく、別の個我を持つもの同士を統合するのだ。それほどの危険を伴うことを、覚悟せよ】
無情なまでの言葉。悩むかと、蒼き大地は思ったが…………その予想は、またしても外れることになる。
「そんなもの、当に出来ている」
「 もう出来てるわ」
蒼き大地に即答し、倒れている七夜志貴を思いっきり抱きしめる。
いつもなら痛いぐらいの抱擁だったが、神経を損傷している七夜志貴には何も感じることは無かった。
「止めるでないぞ」
「止めないでね 」
「七夜としても志貴としても、止めたいが…………言って聞くような奴じゃないか。
大体、先にやった吾が、とやかく言えるようなものでは無いな」
不変の決意を孕んだ二人の言葉に、七夜志貴は苦笑しながら答える。
志貴であったならば、怒鳴って止めただろう。
七夜であったならば、冷静に諭しただろう。
しかし、今は七夜志貴なのだ。だから、二人を想うからこそ、それを受け入れようと思う。
「信じているから、必ず無事で居ろ等とも言わん。
輪廻転生を信じ、来世で逢おうなどとは言わん。
無事で当然、もしも勝手に消滅したら………吾が地獄の果てまで追い詰めて、今度は17以上の肉片に変えてやる」
遠野志貴でも、七夜でもない言葉が、七夜志貴としての言葉。
二人の想いを受け継ぎ、二人を愛しているからこそ…………七夜志貴は、二人を笑って送り出す。
【では………始めよう】
蒼き大地の宣言と共に、世界が光に塗り潰されていく。
現実感すら喪失していく中で………七夜志貴は、彼女の顔を見る。
「―――――――」
右目がアルクェイドの深紅。左目が……恐らく朱い月の虹。
涙に濡れた双眸だったが、彼女は笑っていて………何かを言った。
七夜志貴はそれに言葉を返そうとして――――――止めた。
その言葉は、お互いに無事だった時に言おうと心に決めて……………。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
暖かな日差しの日………………彼女は散歩に出かけた。
優しい風が、彼女の長い金糸を撫でる。
心地良い、と………彼女は微笑んだ。
穏やかな時が流れて………良い事がありそうだと、予感する。
「アルクェイド」
あぁ―――――やっぱり良い事があった。
愛おしい彼の声を聞いて、彼女は振り向く。
彼の蒼銀の双眸は、冷たくもあり、暖かくもある。
矛盾しているが、そんな瞳に彼女は魅せられていた。
「その目――――やはり美しいな」
優しく頬を撫でる彼の手が、堪らなく擽ったくて………彼女は身を捩る。
彼女の目は、深紅と虹の金銀妖瞳。
彼女が、二つだったことの残滓……………。
「私めに、暫しのお付き合いを願えませんか……………月の姫君」
芝居染みたお辞儀をする彼に、彼女は合わせるように尊大に首肯した。
何方とも無く笑い………何方とも無く歩き出す。
―――――――さぁ、影に在りし二人は表へと到り―――――――
―――――――彼と彼女………二人の物語は………これからも続いていく―――――――
後書き
予想外に続いてしまった二人シリーズですが、漸くこれにて終幕で御座います。
最後の終わり方が、アレでよかったのか微妙でしたが………まぁ悩んでも仕方が無い。
結構、無茶な設定でやらかしましたので、後書き以下は補足となっております。興味のある方はどうぞ。
短いですがこの辺で。………………二人の未来に、幸多からんことを。では。
蒼き大地について
彼……または彼女については、波乱万丈な遠野志貴の人生に、理由を持たせて見たかったからです。
まぁ波乱万丈な理由ですが、蒼き大地がそのように駒を配置した≠ゥら、ということにしました。
つまり全ての出来事は、偶然ではなく必然だった、と。究極的にはこれが使いたかったからなんですが。(ぉ
蒼き大地は星の意思そのもので、地球という惑星内であれば間違いなく最強の御方です。
月姫世界に於いて、ややこしい要素取っ払っても、O R Tより強いという反則です。
じゃあ、なんで勝てたかといえば、単純に蒼き大地が全力を出さなかったからです。出してたら、瞬殺でしょう。
何故、出さなかったか。それは謎のままで。(ぉ
蒼き大地と朱い月の関係について
この二人の関係に関しては、学説の一つで月は隕石が地球に衝突した時に誕生した≠ニいう説で考えました。
太古の昔………地上の支配者であった恐竜を、滅ぼした隕石の衝突を『大衝突』というんですが、
その時に巻き上げられた地球の破片が、集積し、一個の塊に成長したのが月≠セという学説です。
この学説を考慮すると、蒼き大地と朱い月は元は同じ存在だった訳です。
それが隕石の衝突により、二人に分離したという………実は遠野志貴と七夜の関係と、一緒だったというのが真相です。
アルトルージュとプライミッツ・マーダーの関係について
この二人に関しては、元々は蒼き大地が自分の端末の一つとして、アルトルージュを欲したことが発端です。
プライミッツ・マーダーは、いざという時、自分の力を直接及ぼす為に創り上げた存在ですが。
いつも自分が使うわけにもいかず、知性の高いアルトルージュを契約者として望んだんですよ。
とはいえ、アルトルージュとプライミッツ・マーダーは飼い主とペットの関係を築きましたが……。(ぉ
アルトルージュを曰く、プライミッツ・マーダーは気を許した者の前だと本物の犬っぽい、とかなんとか。(爆
侵食固有異界について
これは空想具現化と固有結界の上位にある、特異な能力です。
歴史上、これを使えた者はプライミッツ・マーダー、O R T、朱い月の三人だけです。
空想具現化は意志を世界に直結し、意志を世界に反映する力で、
固有結界は心象世界を現実世界に、魔力によって反映する力です。
これらを踏まえて、侵食固有異界を説明すると。
侵食固有異界は根源……つまり『 』に意志を繋げ、人間の無意識化にアクセスすることが出来る。
空想具現化では、高い知性をもつ人間にアクセスすることは不可能だが、
固有結界のような特性が、侵食固有異界にはあるため可能なのだ。
上記のは、ほんの一例に過ぎない。侵食固有異界とは、本当の意味で全知全能の特性を持っている。
運命を操作したり、生命を創造したり………etc、etc。
強力すぎるために、殆ど指向性を持たせないと制御が出来ないほど。
プライミッツ・マーダーも、O R Tも、朱い月もそれぞれ指向性を持たせて一つの事象しか起こさないようにしている。
七夜の保有する魔眼について
これは厳密には『直死の魔眼』ではない。蒼き大地が、朱い月を殺す為に与えた特殊な魔眼。
魔眼のランク自体は低いながらも、齎される力は神を殺し、世界を殺すことが可能なほど。
志貴の見る線≠ェ、動かないのはそういった背景があるから。(本来、線≠ヘ絶えず流動している)
具体的に言えば、七夜の魔眼はモノの死ではなく、究極的な終焉を見ることが可能であり、見えないものは無い。
誕生前のワラキアの夜ですら殺すことは可能だったが、あの時は力不足から見切れなかった。
千の鎖について
これは魔導元帥、万華鏡の異名を持つキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが造り上げたアーティファクト。
アルクェイド封引用に造られたこれは、アルクェイドの呼びかけに応じて何処にでも現れる。自分で解除は出来ない。
しかも対象の指定は出来ず、絶対にアルクェイドを拘束するように造られている。
ただし、アルクェイドと密着しているものがある場合、それごと封印される。
本来、ブリュンスタッド城で使われるのが当然な為、それ以外の場所では精々一ヶ月が封印の限界。
千の鎖の力は、既に宝具クラスとも云われている。