「これが・・下界か」
「・・引っかかるような言い方はやめたほうがいいと思うぞ・・」
それが「初めて」の外出に出てきた二人の台詞だった・・
世にも奇妙な一日
原作:影で眠りし二人(作:放たれし獣殿)
マンションを出た二人・・・
生粋の退魔師にして殺人貴、七夜・・
究極に位置する「魔」であり、生命の頂点・・朱い月
この、超が付くほどミスマッチな二人の「デート(仮)」が今・・幕をあけた・・・
「さて・・まずはどこに行くか・・」
長い金髪を揺らせながら、朱い月は呟いた。
「そうだな・・とりあえず、『あいつら』がいつも行っている所にでも行くとしよう」
七夜が妥当な案を出す。
「そうだな・・」
其の案に特に異論は無く、朱い月は賛成した。
そして、するりと七夜の腕に、自身の腕を絡ませる。
「・・・なんのつもりだ?」
七夜は驚きながらも冷静に聞く。
「いつも「表」がしていることをしただけだ、嫌か?」
少し怪訝そうな顔で見上げる朱い月。
「・・・・・いや、嫌ではない。では・・行くか・・(なるほど、志貴がこれに弱いわけだ・・)」
ため息混じりに呟き、二人は歩き出した・・・
「ここか?」
「ああ、ここだ」
二人がとりあえず向かった先
所々から聞こえる派手な音、雑談。
世間一般で言う「ゲーセン」である。
「二人は大体暇つぶしにはここに来ている・・。吾も外の
娯楽にも興味があったからな」
「娯楽か・・ふふ・・。つくづく真祖とは無縁のことをするものだな、表は・・」
「そういうな、ではどれにするか・・・」
ゆっくりとゲーム機を見渡して行き、ふと、一つのところに目がいく。
「頭文字T・・・・」
「・・・なんだ、それは?」
突然呟いた七夜に尋ねる朱い月。
「あれだ・・。確か、レースゲーム・・・といったか」
そう言って指差す先にはハンドルやら、アクセルやらが付いた「箱」
「ふむ・・擬似的に自動四輪の運転をするあれか・・」
「ああ、志貴がやっているのを少し垣間見ただけだがな」
「そうか・・では。やってみるか・・」
朱い月に一通り操作の説明をして二人で席に着く。
硬貨を投入し、車種を選び、シグナルが鳴る。
「ふむ・・・なかなか鮮明な映像だな・・」
感心したように呟く朱い月
「ああ、さて・・はじまるぞ」
七夜が呟いた瞬間、シグナルが赤から青に変わった・・・・・・
ヴォォォォォン!!
ロケットスタートよろしく、朱い月がいきなりアクセル全開で飛び出した。
「先に行く」
「ぬかせ」
朱い月の挑発を冷ややかに流す七夜。
最初は壁にぶつかりながらと、初心者丸出しの二人だったが・・
三つ目のカーブーからは、壁にぶつかることは既に無く。
けたたましいブレーキ音と、素早く切り替えられるギアの音がなる中。
たった5つ目のカーブからは、既に「表」を凌駕する異常な成長を遂げていた・・・
「やりおるな・・・」
「ふむ・・・この機体・・直線ではお前に劣るが、小回りではこちらのほうが上のようだ・・」
急カーブに差し掛かった瞬間、カーブーの内側から、七夜が朱い月の前に出る。
「未熟・・」
「戯け・・まだ勝負は決まっておらん」
「吾を前に出した時点でお前に勝ちは無い」
「戯言を・・」
にやり・・と二人の口元が吊り上る。
攻める朱い月、防ぐ七夜・・
一瞬でも気を抜けばヤラレル(抜かれる)・・・
紙一重の攻防が繰り広げられる。
「小賢しい・・!!」
「ふ・・」
必死に前に出ようとするが、ことごとく七夜に防がれてしまう。
七夜の言うとおり、小回りは相手のほうが上のようだ・・
そして・・最後の直線・・・
少しあいた七夜の右側から最後の攻めといわんばかりに突っ込んでくる朱い月
「ふん・・・」
鼻で笑いながら、それを妨害しようと右による七夜
「掛かりおったな・・」
そういった瞬間、朱い月の車が急激に角度を変え、七夜の左から攻める!!
「・・ちぃ・・!」
「私の勝ちだ・・!」
「させん!!」
二人同時にアクセルを全開にする!!
ブォォォォォ・・・・・ン
二台の車はほぼ同時に、ゴールに流れ込んだ。
「たいしたものだ・・」
「ふ・・私を負かした気でいい気に成っているからだ」
よほど気分がいいのか、腰に手を当て勝ち誇る朱い月
「・・・そうだな・・吾もまだまだ未熟・・」
最後の結果・・・
一位:朱い月
二位:七夜
やはり直線では、爆発的な加速をほこる朱い月の車のほうが若干だが勝っていたのだ。
それでも、差は零コンマ一秒にも満たないが・・・・
ちなみに・・二人そろってニューレコードを叩き出していたのは、余談である。
「さて・・・次は・・・」
「・・あれはどうだ?」
そう言って朱い月が指差した先・・・・
二丁の拳銃を模した端末が収められている「箱」
ガンシューティング
「・・ほう、あれか」
「ああ、「表」がかなり苦戦しておったからな・・名誉挽回と行かせて貰う」
「・・そうか、では、そうしよう」
そう言って二人で其の台に近づく
そして・・七夜が呟いた・・・
「・・・・・・・ヴ・・ヴァンパイア・○ンター・・・」
それが・・そのガンシューティングのタイトル画面にでかでかと載っていた・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「他のにしないか・・?」
「いや・・これでよい。人間がどのような偏見を持っておるのか、知ることもできるからな」
まるで自分に言い聞かせるようにそう言うと、さっさと硬貨を投入し、銃を握る。
「ほれ、御主も早うせい」
「・・ああ」
そう言って七夜も硬貨を入れ、銃を持つ。
「飛び道具か・・得意分野ではないのだがな・・」
「何を、ぶつぶつ言っておる。始めるぞ」
そう言い、叩き壊さんといわんばかりの勢いでスタートボタンを押した・・・
ドン!!
始まるや否や、朱い月と七夜は同時に発砲する。
画面の右端に"ちょっぴり"出てきた魔物を同時に狙ったのだ。
「おい、これには味方らしい者も出るらしいからな、すこしは注意しろ」
「御主こそ・・・。それに・・少しばかり狙いがずれておるな・・」
そう言って、試しに画面上の何も無いところを撃つ。
雪原の雪が少しばかり抉れた。
「ふむ・・やはり・・右に1〜2mmずれておる」
「それならまだいいだろう、吾のは1cm以上もずれている」
「ほう、試し撃ちもせずにわかるか・・?」
「先ほどの雑魚でな、画面ぎりぎりに撃ったのだが、画面外になったからな」
「なるほど」
ドドン!!
再び同時に火を噴く。
雪の中から"飛び出そうとした瞬間"頭を三発づつ打ち抜かれたのだ。
「吾は右を・・」
「では、私は左だな」
「装填を忘れるなよ・・?」
「馬鹿にするでない・・・」
そう言いながら発砲する二人
話しながらだが、一発もはずしていない。
必見必殺
まさにサーチアンドデストロイであった。
しばらく一方的な惨殺が続き、あっという間にBOSSのところにたどり着いた
「吸血鬼の使い・・か・・。死徒のようなものか・・・?」
目の前のBOSS、紳士服に身を包んだ中年風の「いかにも」な顔をした相手を見ながら
朱い月が呟く
「ふん・・雑魚だな・・。
ここは御主に任せよう」
そう言って、銃をおろす朱い月。
「よかろう・・」
そう呟き、容赦なく撃ちつづける七夜。
相手は飛び道具を使ってくるが、投げると同時に落とされ、一つとして
七夜に当たることもなかった・・・
そうやっているうちに、そのBOSSの姿が変わる。
巨大な「魔物」の姿に
「・・なるほど、これが人間の考える私たちの真の姿か・・・」
「・・・あまり殺気立つな・・、気が散る・・」
そう言いながら、容赦なくBOSSの弱点である「頭」を寸分の違いなく撃ち続ける七夜。
「・・・面倒だ、朱い月、銃を貸せ」
「ああ」
銃を軽く七夜に向かって放り投げる。
それを左手でキャッチし、起用に廻して左手に構える。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァン!!!
右と左で数ミリ秒タイミングをずらし、左が切れる寸前に右を、右が切れる寸前に左で応戦し
一切弾切れを起こすことなく、マシンガンのように撃ちつづける。
約一分もしないうちにBOSSは呆気なく地にひざを付いた。
「話にならんな・・・」
そう呟き、銃をおろす七夜。
「ふ・・まだ序章であろう?
次があるぞ、次が」
「お前はしないのか?」
「加勢が必要か?」
まるで挑発するように言う朱い月。
「不要だ・・」
それに答えるように、にやりと笑う。
そうして、あっという間に第二ステージが終わり。
第三ステージでは、朱い月に交代する。
「ふむ・・では、少しばかり楽しむとしよう・・・」
「ああ、壊さない程度に頑張れ」
「保障はせぬ・・」
そう言って朱い月は不適に笑った・・・
その後、第三ステージは朱い月によるコンピュータの処理能力ぎりぎりの早撃ちにより、呆気なく幕を閉じた・・・・
其の後は二人で結託し、当然最後のBOSSも雑魚扱いで終わってしまった。
「ふん・・・空想具現の能力を・・こんなちゃちな銃器(おもちゃ)で破られるとは・・
甘く見られたものだ・・・」
「・・・・・・」
朱い月の呟きにあえて何も言わない七夜であった・・・・・
ちなみに、降り注ぐ隕石やら、大量の氷柱やら、火炎放射も
ことごとく「撃ち殺した」のは彼である。
彼はどこか満足そうな顔をしていた・・・
「まぁ・・それなりに楽しめたな」
「うむ、暇はつぶせたな・・・では、次に行くとしよう」
こうして二人は全ステージ命中率99%(試し撃ち&初弾)で
パーフェクトという無茶苦茶な記録を残し、その場を後にした・・・・・・
果たしてこの記録を抜く人間が・・いるのだろうか・・・・。
次に二人が足を運んだのは映画館
「「表」が始めてデートとやらで来た場所だな」
「そうだったな・・・さて。今やっているのは・・」
1:マトリ○クス 革命(ぇ
2:ロー○の休日(古!!!
3:アン○ンマンVSバイ○ンマン
<蘇る暗黒の騎士編>
〜光の超戦士達、生き残るのは誰だ!!!〜
「・・・・・・1だな」
三番目が非常に気になっていたが、心を押し殺して七夜は1の番号を選んだ・・・
「なぁ・・七夜よ・・」
「なんだ・・」
「アンパ「何も言うな!!」・・・」
後ろ髪を、まるでブラックホールに吸われているくらい引かれながら、七夜は朱い月の手を引き
マトリッ○スの上映されている会場に向かった。
「のう・・七夜よ・・」
「なんだ?」
会場について、朱い月が呟いた。
「手・・・」
少し俯きながら言う。
そう、七夜は朱い月を引っ張って来てからずっと手を握りっぱなしだったのだ。
「す、すまん!」
七夜にしては珍しく慌てながら、手を離す。
「い、いや・・別に私は構わん・・のだがな」
しばらく俯き続ける二人。
「・・と・・とにかく座らぬか・・」
「あ・・ああ」
しどろもどろに答えながら、二人は席に付く。
座席指定ではないので、適当だが、位置としてはスクリーンが目線の高さにちょうど良い位置であった。
だが・・・七夜としては、どうもさっきのことが頭からはなれず、あまり集中できてはいなかった・・・
映画が終わった後も、二人はふらふらと町をさ迷い歩いた。
実際に見る事は無いと思っていた、「表」の風景、其のどれもが鮮明であり。
新鮮だった。
途中、朱い月に声をかけてくる「命知らずな」輩が大量に出てきたが。
七夜の"一睨み"で総て撃退していった。
―――――"一睨み"された方々がその後、冷たい汗と震えが止まらず、数日間布団に篭る生活になってしまうのは余談である。
そうして、楽しくも、奇妙な一日は過ぎていく。
だが、所詮は仮初の現実・・・
時は残酷に・・そして正確に刻まれていく・・・・・
そして・・・・・・・・・
公園・・・時刻はまだ5時だが、人はいない。
朱い月の結界のせいだ・・・
「ふぅ・・今日は中々に興味深い一日だった・・・」
"いつも"座っているベンチに腰掛け、朱い月が呟く。
「そうだな、吾も・・まさかこのような日が来ようとはな・・・」
穏やかに笑いながら、七夜も同意する。
「たまには良いであろう、我等「裏」が「表」に出ることも・・」
「・・・たまにはな・・。だが・・もうそろそろ終わりにしたほうがいい」
虚空を眺めながら、七夜はどこか寂しげに呟いた・・・
「どうした・・?」
「殺人衝動が、な・・・・。そろそろ厳しくなってきた・・」
薄くなり始めている、空を見上げているため、七夜の表情は見て取れない。
だが・・其の声は泣いている様だった・・・。
「そうか・・・」
「ああ」
「"御主として"は・・どうだ?」
「お前を殺すくらいなら、舌を噛み千切ったほうが幾分かましだな」
その答えに迷いは無いのだろう・・はっきりと答える。
「・・・そう・・か」
「ああ」
「ずっと・・耐えていたのか・・?」
「遠吠えに過ぎなんだがな・・・・、少々長くありすぎた」
苦笑交じりに、答える。
相変わらず上を向いたままではあるが・・・
「そうか・・・」
「ああ」
「なぁ・・朱い月」
「なんだ・・」
「"血"とは・・・厄介なものだな・・・」
「・・・そうだな」
――――それは・・毒であり・・縛るもの。
「では・・・そろそろ戻るか・・」
「そうだな」
二人が呟き、同時に眼を瞑る
意識が・・ゆっくり・・ゆっくりと沈んでいく
「七夜よ・・」
そんな中・・頭に響く声
「私も、今日は愉快な一日であった」
(そうか・・それはよかったな)
「では・・な。城の門は開けておく。また・・いつでも来るが良い・・」
(・・そうだな。暇があれば、そうさせて貰おう)
「其の時は・・せめて茶菓子くらいは用意しておこう・・」
(ふ・・・それは楽しみだ・・・な・・・・)
ゆっくりと、深く、深く沈んでいく意識の中、二人は、確かに「微笑んで」いた・・・・
そしてやってくる、いつもの朝。
何の変哲も無い、いつもの朝。
違うのは、夢・・・・
二人の・・許されぬ双極に位置する"絶対的対極"・・・
許されぬが故に・・彼らは、夢で邂逅する。
「表」を望まず。
ただそれぞれが許された時間を、ゆっくりと進んでいく・・・・・
それで構わない・・
それが
志貴が志貴であり・・・
七夜が七夜である・・・
白い姫が白い姫であり・・
朱い月が朱い月である・・・
一つの物語なのだから・・・
あとがき・・
黒獣:なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
朱い月:・・・またか・・騒がしい。
黒獣:何!?この閉め方!?
わっけわからねぇ!!
朱い月:自身のサイトだからといって好き勝手しすぎた報いだ。
黒獣:うーわ、どうするよ自分!!
朱い月:・・拉致があかんな・・
では、放たれし獣殿、掲載許可、真に感謝する。
ではな・・
黒獣:いや・・だからそれは拙者が言うこと・・ってまた声が小さく
朱い月:では、さらばだ。最後まで読んでくれて感謝する。
黒獣:またこのパターンかぁぁぁぁ・・・・