七夜の血



七夜の血




月夜・・・と呼べばいいのだろうか。
今、この世界には月の光を以外に光が存在しない。

あるのは、闇と、暗闇と体をバラバラにされた死体と・・・・・・そして死神の蒼い瞳。



――ああ・・・なんて無様



少年はそう思う。
なんと無様なのだろうか。

今宵は、こんなにも月が綺麗だというのに。


「今日は・・・満月か」


その死神の蒼い瞳が闇の空に輝く蒼銀の月を見上げる。

その瞳が何を見ているのか・・・それは誰にもわからない。
このツギハギだらけの世界を、少年はその死神の蒼い瞳で見続ける。


「さて・・・」


少年は自分の眼下に広がる数多の死体に目を落とす。
その蒼い瞳からは何も読み取ることができない。



――コロセ



彼の中に眠る七夜の血が騒ぎ出す。
まだ近くに別の魔が存在するらしい。

七夜の血はさらに、まるで麻薬のように少年を誘惑する。
魔を殺せ、魔を滅ぼせ、魔を1匹残らず世界から殺せ、と。

その声はどんどん大きくなっていく。


――コロセ


うるさい


――コロセ


うるさい


――コロセ!!


うるさい!!


少年が強くそう念じた瞬間、七夜の血の声は消えた。



――本当に・・・無様・・・



自身の血の声は聞こえなくなったとは言え、先ほどより『殺人衝動』が強くなっていることに少年は気付いた。
とてもじゃないが、止められそうにない。

『殺人衝動』が少年の体という、小さな器から漏れ出し始めた。
常人なら一瞬で発狂するだろう程の殺気が少年の体から漏れ出す。



――戦って殺されたらどうする?



そんな考えが少年の脳を支配する。

もし、殺されそうになったら。

少年の脳裏にかつての紅い殺人鬼の姿が過ぎる。
紅い殺人鬼は禍々しい笑みを浮かべながら、少年の胸を左手で貫いた。

それは少年にとってのが原因で、今こうして幼きころの映像を見ているのだ。
少年は少しずつ、これから起こることに恐怖を抱き始めた。



――殺される・・・殺される・・・殺される・・・


――ナゼ?


――アイツは鬼だ!! そして、今から俺が殺そうとしているのもまた鬼だ!! 殺されるに決まっている!!


――ナゼ?


――殺される!! 殺される!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!


――ダッタラコロセ


――・・・・・・そうだな・・・そうするよ


頭からの情景が消えた。

それどころか、彼の頭からある1つの感情を除いて全ての感情が希薄になっていく。
喜びも、悲しみも、怒りも、愛しいという感情も、ある1つの感情を除いて全てが希薄になっていく。

あとに残るのは・・・・・・・・・限りなく・・・・・純粋な・・・・・・・殺意。


少年は月夜の街を駆け抜ける。

獲物を追って・・・・
この内側から聞こえる忌まわしき声を止めるため・・・



――ミつケた



そう思ったのは、はたして少年だったのか。
それとも七夜の血だったのか。

そんな些細なことは、この際どうでもいい。

少年には・・・何も考えられない。
目の前の、獲物を殺す以外は。


「んだ!? てめぇは!?」


獲物が吼える。

獲物の足元には、血を吸われたであろう数多の死体が転がっている。



――なんて・・・無様



少年は学生服のポケットより『七ツ夜』と彫られたナイフを取り出した。
軽く1回転させると刃が飛び出す。

この『七ツ夜』で、どれだけの獲物を血祭りに上げたのだろうか。
少年にはもう・・・・・・・わからない。

少年は改めて獲物を見据えた。

頭に、心臓に、二の腕に、太腿に、黒い点が。
手の平から肩へ、太腿から顔へ、顔から首へ、胸から足の爪先へ、黒い線が。

それは『死』

純粋なる『死』

例外など存在しない『死』

『始まり』があるものには、決して逃れる事のできない『終わり』


――さぁ・・・目の前の者に・・・純粋なる『終わり』を・・・


宴が始まった。

敵は死徒。
だが、死徒二十七祖じゃない。

雑魚だ。
前菜にもなりはしない。



――ああ・・・なんと今日は・・・美しい月夜なのだろう



「ぶっ殺してやる!!」


獲物が吼えている。



――殺す? 誰が? 誰を?



まずは口元だけを歪め、続いて目を少しずつ細めていく。



――ああ、そうか。なんだ、そうなんだ



筋肉の動き、呼吸の回数、空気の振動、風の動き。
獲物の次の動きが、考えてもいないのに脳裏に浮んでは消えていく。

少年は『七ツ夜』を回転させ逆手に持ち、少年は『七ツ夜』を下段から上段へ振るう。

魔を狩るために、魔を殺すために作り出された技術。
極限まで高められた技術はなんのミスも起こすことなく、獲物の右腕を斬り落とした。

腕は、決して再生しない。
死んでいるものが、どうやって再生などできようか。


「ぎゃぁぁぁぁ!! お、俺の腕がぁぁぁぁぁ!!」


再生しない自分の右腕を見つめながら獲物は高々と悲鳴を上げる。
その獲物の恐怖の悲鳴は、まるでこの者に殺された者達へと送る鎮魂歌のように。

そんな相手を見ながら、少年は禍々しい笑みを浮かべ続けた。



――オレガコイツヲコロスンダ



そうだ。
何を迷う事があろうか。
全ては起こるして起こったこと。

そこに、なんの躊躇も、遠慮も必要ではない。

ただ、魔を狩ればいい。

それだけだ。







































ただ、それだけだ。



















































「ようこそ。素晴らしき惨殺空間へ」




























鬼神「はい・・・始めての月姫の作品です」
七夜「吾の名前くらい出せ」
鬼神「ははははは!!」
七夜「貴様は吾を愚弄するつもりか?」
鬼神「いやぁ・・・そんなつもりはないよ」
七夜「では、死ね」
鬼神「・・・・もしかして・・・『死』が見えてる?」
七夜「ばっちりな」
鬼神「・・・・逃げるが勝ち!!」
七夜「逃がさん。ふふふふふふ」